南寧市の旅


灰色の部分が広西チワン族自治区です。

2005年9月6日
 12:20、南寧着。高速道路を下りたすぐのところにある「埌東バス・ステーション」というところで下車。周囲を見渡す限り、相当郊外にあることは間違いない。バス・ステーションは新しく出来たばかりらしく、非常に綺麗だ。なんだか空港ターミナルのような造りですらある。

【埌東バスステーション<1>】

 

【埌東バスステーション<2>】

 

 とりあえず地図を購入。通常であればここからホテル探しに入るところであるが、こんな郊外では街中に出るだけでも時間がかかる。その上、すでにお昼を過ぎているため、(お腹が空いた)Zは若干イライラ気味。「ホテルはどこにするの?」とうるさい。とても迷っている暇はなさそうだ。そこで、「地球の歩き方」で紹介されていた「翔雲ホテル」に行ってみることにした。

 タクシーに乗車し、「翔雲ホテル」と告げる。
 街中までは想像以上に遠く、およそ30分ほどかかった。道筋は単純なので地図を見ながらタクシーに指示することも可能であったが、深センにいる友人から電話がかかってきたため、運転手任せとなってしまった。必要以上に右折左折を繰り返していたように思われるので、若干ボラレタのではないかという疑いが残ったが手遅れ。29RMBを支払って下車する。

 ホテルの外装は古く、通りを隔てた隣にあるホテルと比べるとずいぶん見劣りがする。しかし、ロビーは広い。三ツ星ホテルとして十分以上の造りである。部屋の設備(豪華標準B)は桂林で宿泊した「名城ホテル」とほぼ同等。料金を尋ねてみると一泊258RMBとのこと。交渉をしてみたが、これ以上安くならないとのことであった。豪華標準Aという若干クラスが上の部屋もありこちらは提示価格より少し安くなるようであったが、基本設備は豪華標準Bと同じで部屋が若干広い程度なので、あまり意味と考え258RMBで良しとしてチェックインをした(保証金500RMB)。

 1:20、ホテル発。外へ出てすぐに、「あぁ、お腹が空いたわ」とアピールするZ。これは危険信号だ。何かを食べさせなければ、獰猛になる。しかし、せっかく広西省の省都に来たのだ。広西料理と呼ばれるようなものを食べてみたい。「地図をみると、『朝陽路』というところが繁華街らしいよ。そこに行ってみようよ」。「どうやって行くのよ」。「タクシーで」。「面倒よ。この辺で食べましょうよ」。「どっちにしろ、『朝陽路』には行く予定だから、そっちに行って探してみようよ」。「駄目。私お腹が空いたの」。やむなく、ホテルの横にある通りをウロウロし、手頃なお店はないかと探しにかかる。ところが、まともなお店は一つもなく、あるのは、安手の中華ファーストフード店ばかり。「どこでもいいじゃないの」と切れかかったZを「とにかく『朝陽路』へ行こう!」と説得してタクシー乗車。

【朝陽路周辺】

 

 1:40、朝陽路着。さあ、早くしなければZの爆発が近い。目をきょろきょろさせながら歩き回る。Zはぶすっーとした顔で私の後を少し遅れてついてくる。だが、困ったことに、食事ができそうな店が全くない。アパレル店とか電気店とかそんなのばっかりだ。建物の2Fにレストランらしきものがあったが、あまり繁盛していない様子。どうしても見つからなかったらここに来ようとZに告げ、裏通りに入ってみる。すると、何やら人だかりのしている場所があるではないか。露店のようだ。この際露店でも何でもいい。Zに向かって「ホラッ!あっちにお店があるよ。あそこで食べよう」と声をかける。Zはむすっとした顔でついて来た。
 人込みをかき分けてたどり着くと、そこは靴のお店。私が気まずそうに振り返ると、Zが「ここは靴屋さんでしょ。○○(私の名前)は靴を食べるの~。どうぞ、どうぞ。靴を食べてください」と皮肉を私に浴びせ掛ける。
 食事一つでここまで言う奴がいるとは思いもよらなかった。反撃したいが、すでに理性を失いつつあるZに何かを言っても仕方がない。不満たらたらのZの手を引っ張って再び大通りまで戻った。

 2:10、仕方がない。どうも気が進まなかったが、2Fにあるレストランに上がることにした。案の定、客がほとんどいない。といっても、すでに2時過ぎだから、お昼の時間はとうに過ぎている。必ずしも人気がないから客がいないというわけでもないだろう。

 先払い方式のお店だったので、カウンターで注文を済まし、席で待つ。しばらくすると、スタッフがZの注文した料理をもってきた。同時に「すみません。貴方の注文したものは材料がなくて作れないとのことです。他のものに変更してもらえませんか?」と私に説明をする。(おいおい、材料がないなら早く言えよ)と心の中でつぶやいたが、これぐらいで怒っていては中国で暮らしていけない。(きっと、Zの料理を作り終わって、取り掛かろうとしたところで材料がないことに気づいたのだろうな・・・)と好意的に解釈をして、注文を切り替えた。値段が違うので、3RMB追加。

 ところが、しばらくしてやってきたのは、最初に頼んだ料理。「これ、最初に頼んだ料理でしょ。さっき、材料がないからってわざわざ注文を変更したんだよ。3RMB追加して・・・」と文句を言うと、慌てふためくスタッフ。カウンターの子と激しくやり取りをしながら再調整。調整というより、「あいつが悪い。あいつが悪い」と先ほど材料がないと言ってきたスタッフと調理師を責め立てるのが主な内容であったが・・・。結局、私がカウンターまで3RMBを取りにいき、落着。

 トラブルはあったが、味はまぁまぁ。もっとも切って乗せるだけの料理なので、不味く作るほうが難しいだろうとは思うが・・・。Zもお腹がいっぱいになって、満足してくれたようだ。

【お昼ご飯】

 

  食事を終えて近くの商業街を散策。残念ながらここの商業街は、味わいもそっけもなく、ただ香港ブランドやそっくりブランドのお店を並べただけの通りとなっている。Zがアイスクリームが食べたいというので、そばにあったお店で注文すると何と1個15RMB。韓国製高級アイスクリームと説明がある。私の表情から察したのか、店員が申し訳なさそうに「韓国製なので・・・」と口にする。(いや、韓国製なのになんで?)と思っていたのだが。 

 

【朝陽路周辺の商業街】

 

  3:20、しばらくブラブラしてみたが、特色のあるものは何も見当たらない。このままずるずると一日を過ごしてしまうわけにはいかない。無難な線を狙って、「広西壮族自治区博物館」へ向かう。

 タクシーに乗って、5分で到着。入場料8RMB/人を払って、入館する。すぐにクーラーがないのに気づいた。風通しはそこそこだが、建物の中で、クーラーなしはきつい。ともあれ、入館した以上、見学しないわけにはいかない。
 1Fは銅製の太鼓だらけ。どうやら、太鼓が文化の証明になるというようなことが書かれているが、「太鼓がそんなに自慢になるのか?」という疑念から離れられないまま、2Fへ上がっていくことになった。これを書いている今、改めてインターネットで調べてみると、鉄器時代に入り、青銅器に余裕が出てきたところから青銅の太鼓が作られたのではないかというような事が書かれている。つまり、太鼓は富や権力の証明だったのだ。うーん、やっぱりよくわからない。

 

【広西壮族自治区博物館<1>】

 

【広西壮族自治区博物館<2>】

 

 2Fへ上がると、今度は民族衣装や布地、お面などが飾られていた。だが、部屋の中はむっとする暑さ。身体からじわじわと汗が染み出てくる。もはや、見学どころではない。展示用を飾ったガラスボックスの上で虚しくクルクルと回る扇風機を軽くにらみつけながらZの後に続く。Zは1Fにいる時は、眠そうな顔をしていたが、2Fにある色とりどりの衣装を目にした途端、目が輝き出した。やはり女性だ。

【広西壮族自治区博物館<3>】

 

【広西壮族自治区博物館<4>】

 

 2Fをぐるりと回り終わった頃には、私もZもぐったり。窓際涼しいところにあるベンチでしばし休息をとることにした。しかし、本当に誰もいない。クーラーを止めて扇風機にしてコスト削減に励むより、テナントを呼び込むとか、他の博物館との合併を考えるとかいろいろできないものなのだろうかと不思議に思う。きっと、少数民族優遇策とかの事情があって、必要性よりも存在していること自体が意義になっているのかもしれない。

 博物館を出て、タクシーに乗車。運転手は女性。女性の運転手は今日二度目なので、Zが興味をもった。
 「南寧は女性の運転手が多いのねぇ」と話し掛けると、
 「そうよ。皆、夫婦でやっているのよ」と返事があった。
 「へぇ。夫婦でやってるの。いいわねぇ。夫婦で交代でやれば、大変じゃないし、仕事があって羨ましいわ」とZが羨望の声をあげる。どういうわけだか、Zは他の人の仕事をやたら羨ましがるときがある。相手は、船の船頭さんだったり、ラクダの引率係だったりするのだが、今のところ、傾向ははっきりしない。
 「おいおい、交代といっても、昼と夜とで交代してやるんだろうから、夫婦が会う時間がほとんどないってことだぞ」と私が横から口を挟むと、「えっ、そうなの?」と運転手に確認をとる。「もちろん、そうよ。大変なのよ」と運転手が答えると、「ふーん、そうなんだ。だったら大変だわね」とがっかりそうにしてシートに腰をしずめた。

 4:20、ホテル着。これで、今日の主な行動は終わり。市内にはほとんど見所がないから、明日が勝負だ。予定しているのは、「龍虎山」である。三千匹の猿がいるという。インターネット上の情報によると、中国四大猿山の一つとのこと。大いにに期待できるが、問題は行き方がはっきりしないこと。
 中国人向けガイドブックには、バスに乗って「龍安」まで行き、そこから専用バスで「龍虎山」へ向かうとある。まず「龍安」ってどこ?ということと、専用バスというのが問題だ。ツアーバスのことか。だったら、避けたいところだ。
 私がどうしたものかと頭を悩ませていると、Zが「南寧ってつまらないわね。こんなんだったら、靖西(次の目的地)へ直接行ったほうがよかったんじゃないの?一泊するだけもったいないわよ」と勝手なことを口走りだした。いつものことだが黙ってはいられない。
 「一泊じゃなくて、二泊だ。昨日言っただろ」
 「二泊もするの!」
 「昨日言っただろ。靖西へ直接行くという手もあるけど、そうすると、一日8時間以上もバスに乗らなきゃならないから、南寧で泊まるって。泊まるだけだと一日が無駄になるから、二泊して南寧も観光すると説明したぞ」
 「そうだっけ?」
 「俺は良かったんだぞ。8時間ぐらいだったら大丈夫だからな。でも、Zが大変だから止めたんだ」
 「私だって大丈夫よ」
 「本当か。今日、バスを降りた後、もう一回4,5時間乗ることになったんだぞ」
 「・・・・・」
 「まったく勝手なんだから」とZを睨みつける。
 「でも、私知ってるわよ。○○(私の名前)が南寧に泊まりたかった本当の理由を知ってるんだから」
 「なんだよ?」
 「ホームページで南寧の紹介をしたかったからでしょ」
 「えっ、・・・・(動揺)」
 「私を騙そうとしても、そうはいかないんだから!」
 「いや、騙していない。だいたい、Zは自分では何も考えないで、俺に任せっきりだろ。文句言うんだったら、今度からZが計画をして俺を連れて行けよな」
 「えっ、それは・・・(大変)。○○(私の名前)はちょっとずるいなぁ」とベッドに横になり、Zは黙り込んだ。
 冷や汗をかきながら、私も黙り込む。まさか、ホームページに話がいくとは思わなかった。

 ともあれ、「龍虎山」行きは成功させなければ!これをしくじったら何を言われるかわからない。今日利用したいくつかのタクシーで聞いたところ、タクシーで行くと、往復で300-400RMBだそうだ。「龍虎山」の入場料が20RMBだということを考えると、不釣合いな交通費だ。やはりバスで行かねばなるまい。
 そう決めた私は、地図をもって一人でロビーまで降りていった。フロントで「龍虎山」について尋ねるが、スタッフは首を振るばかり。これまでも旅行先のホテルで観光地について尋ねたことがあるが、たいてい役に立たない。観光地のホテルのスタッフなのだから、多少なりとも情報をもっていて当然だと思うのだが、そうでもないらしい。フロントの仕事だと思わないから情報収集をしないのか、そんな余裕がないからなのか、或いはフロントにそんなことを聞く奴はいないのか。「観光地に興味があるような人間は、旅行社に勤める」。こんな解釈が中国人のストレートさを表していて妥当なのかもしれない。

 そうは思ってもすぐに諦める私ではない。振り返って、今度はドアボーイのところまで歩み寄る。「『龍虎山』へどうやっていくか、知ってる?」。黙って左右に首を振るボーイさん。もう、考えようとさえしていない。だが、地図を広げる私に興味をもあったのか、どこからかもう一人のドアボーイさんがやってきた。
 「「『龍虎山』へどうやっていくのか知っているか?」。同様に尋ねる。すると、頭をコクッと頷かせるではないか。おおっ!だが、喜ぶのはまだ早い。「自分で行ったことがあるのか?」と重ねて尋ねた。ボーイは再び頭を頷かせる。
 「まず『龍安』まで行って、そこで乗り換えれば行けるよ」
 「『龍安』ってどこにあるんだ?」
 「ちょっと待って・・・。ここだよ」と地図上の一点を指差した。
 「本当だ。さっきは全然見つからなかったのに」
 ボーイは役に立ったのが嬉しいらしく、ニコニコしている。
 「ここへ行くバスはどのバス・ステーションから出ているの?」
 「『北大』だよ。ホテルの横の通り、ほら、あの辺りから52号線のバスに乗っていけば行けるよ」とすごく親切なボーイさんだ。チップをやろうと思ったが、純朴そうな若者の笑顔を前になぜか気後れしてしまい、財布に手が届かなかった。

  貴重な情報を獲得したので、勢い込んで部屋へ戻る。
 「『龍虎山』への行き方がわかったぞ!今から確認しに行くぞ」とZに声をかける。
 「行き方がわかったんなら、なぜ行かなくちゃならないの?」
 「一応、確認しとかないとな。それに、教えてもらったのは、乗り換えの方法だから、できれば直行便をみつけたいんだ」
 「私も行くの~?」
 「いや、ここに居てもいいよ」
 「うーん。やっぱり行く」
 「じゃあ、早く準備しろ!」

 ロビーを抜けてホテルの外へ出る。タクシーで行っても良かったが、ボーイさんがせっかく教えてくれたので、バスで行くことにした。
 「どっち?」とZが尋ねてきた。
 「あっち、あっちの方だってボーイが言っていたよ」と私がホテルの斜め左側にある交差点を指差す。
 「ほんとかな~?」
 「まぁ、とにかく行ってみようよ」

 交差点に差し掛かると、男女一組の警察官がおしゃべりをしながら立っているのが見えた。Zが「あの人たちにバスのことを聞いてみようよ」と余計なことを言い出す。「もうすぐそこなんだから、聞かないでもいいだろ!」と語気を強めて答えるが、Zは聞かない。「ちょっと聞いてみるだけでしょ」としつこい。やむなく、5メートルほど離れたところでZを待つ。
 「すみません。北大バス・ステーションへのバスは、この辺りから出ていますか?」
 「うーん、どうだったかしら?ねぇ。北大バス・ステーション行きのバスってこの辺から出ていたっけ」。女性の警察官が傍らの同僚に尋ねる。
 「ない。ここから直接行くバスはないよ。別の通りだったらあるだろうけれど・・・」と力強く答える男性の警察官。
 「○○(私の名前)!、ここからは北大バス・ステーションへ行くバスはないってよ」とZが元気よく振り返る。
 「わかった、わかったから、こっちへ来い!」。警察官の言ったことを目の前で否定するわけにもいかないので、Zを呼びつける。「とにかく、(この交差点を渡った)あそこにバス亭があるから、あそこまで行ってみよう」。
 「あの人たち(警察官)は、ここから行く直通バスはないって言っていたよ」
 「Zは歩きたくないだけだろ。直通バスがなかったら、あそこからタクシーで行こう」
 「・・・・○○(私の名前)は頑固だなぁ」
 「Zが怠け者なだけだ」
 「・・・・」

【ホテル近くのバス停にて】

 

 バス停到着。さっそく、バス停の横に立っているルートボードで52号線のルートを確認する。あった、北大バス・ステーション行きだ。あのボーイさんの言っていたことが正しかったのだ。「Z!ほら、北大バス・ステーション行きがあるじゃないか」。Zはルートボードをじっとみて、それからエヘヘッと笑ってごまかす。「あの警察官たち、駄目ねぇ」。

 しばらく待って、52号線のバス乗車。1RMB/人。予想以上に遠く、南寧駅(列車)の前を通り過ぎて、さらに反対側に向かっていく。Zが途中何度も、「バスってやっぱり安いわねぇ。たったの1RMBでこんなに遠くまで行くんだもの・・・」と感嘆の声をあげる。Zの田舎である江西であれ、これまで一緒に旅行してきた湖南や内モンゴルであれ、同じような料金だったろうと思うのだが、なぜこんなにびっくりするのか?ちょっと不思議だ。南寧の町並みの立派さとバスの料金のアンバランスさがZをそのように感じさせるのだろうか。

 6:40、「北大バス・ステーション」到着。結局、25分かかった。本日、南寧入りの時下車した「埌東バス・ステーション」といい、ずいぶんと郊外にバス・ステーションがあるものだ。湖南省と同様、バス・ステーションを全て郊外に押し出し、渋滞緩和を図る方針なのかもしれない。

  チケット売り場へ行き、カウンターを取り囲んでいるガラスの上に張ってある時刻表を順番に見ていく。すると、「龍虎山」行きのバスがあるではないか。これは助かった。
 チケット売り場の人に、Zが尋ねる。
 「『龍虎山』行きのチケットはいくら?」
 「あのバスは今はないわ」
 「じゃあ、『龍虎山』にはどうやって行くの?」
 「『大新』行きのバスに乗って、途中で降りればいいわ」
 あれっ、「龍安」で乗り換えるのではないのか?「大新」と「龍安」では方角が90度ぐらい違うぞ。確かに、「大新」の方が方角的には近いが、どういうことだろう。念のため、Zに頼んで、もう一度確認してもらう。
 「バスは『龍虎山』のすぐそばで停まるの?もしかして、すごく歩くんじゃない」
 「すぐそばで停まるわよ。そりゃ、少しは歩くけど・・・」
 「何メートルくらい?」。おおっ、さすがに歩くことになると、Zも慎重だ。私の意図を汲み取って、細かい質問をしてくれる。
 「20メートルぐらいよ」と少しあきれたような声で答えが返ってきた。

 ここまで聞けば、まず安心だ。チケット売り場を離れようとすると、通路の脇に立っていたスタッフの一人が声をかけてきた。
 「あなたたちはどこへ行くの?」。
 「もう(行き方は)聞いたわよ」とZが冷たく答えるのを抑えて、「『龍虎山』なんだけど・・・」と答える。情報は多いに越したことはない。
 「『龍虎山』なら、『大新』行きのバスに乗って途中で下りればいいわ」とすぐに返事が戻ってきた。チケット売り場のスタッフと同じ回答だ。このルートで間違いはなさそうだ。しかし、「龍安」から乗り換えるコースは一体どうなったんだろう?(*注:これは明日判明します)。

 疑問は残ったものの、『龍虎山』までの行きかたはわかった。念のため、構内を一周してバスの発着場所を確認しておく。

【北大バス・ステーション】

 

 「歩いて(列車の駅)まで戻ろうか?」と私が冗談めかして言うと、意外にも「いいわよ」と答えが返ってきた。歩き嫌いのZには、珍しい回答である。よほどご機嫌なのに違いない。猿山に行けるのがよほど嬉しいのか。

 颯爽と歩き始める二人。夕方になったおかげで、涼しくて散歩にはぴったりだ。しかし、7:00を過ぎて、だんだん辺りが暗くなってきた。行けども、行けども駅に着かない。人通りがほとんどないから、幾分、恐ろしい感じすらしてきた。時々通りすがる人が皆悪人に見えてくる。

 7:20、闇に包まれた中、怪しげな床屋がずらりと店を並べている。店先では退屈そうな顔をした若い女たちが、椅子を外に出して座り込んでいたり、爪切りで足の爪をぱちぱちと切っていたりする。私たちが通りがかると、顔を上げ、空ろな目でこちらを見る。なんとも嫌な雰囲気だが、ここまでくれば駅はもうすぐ。速度を上げて歩きつづけた。

 7:30、駅到着。
  「こんなにかかるとは思わなかったねぇ」と二人でため息。
 「じゃあ、食事にしようか。その辺でレストランを探そう!」と私が促すと、
 「また、レストラン選びに時間がかかるんでしょ。わかってるんだから」と釘を刺された。
 「いや、でも探さないと見つからないだろ」
 「食事なんてどこでもいいじゃない」
 (おおっ、かなり腹が空いているようだ)。
 こうなると、私に残された時間は少ない。手早く決めないと何と言われるかわからない。
 駅の前を垂直にまっすぐ下っていくと、さっそくレストランがあった。だが、客が少ない。駅前でこの客の少なさでは味に期待はできまい。Zの顔を見ないようにして、「うーん、ここは駄目だなぁ。客が少なすぎるよ」とつぶやきながら、お店の前を通り過ぎる。Zの凶暴な視線を背中にひしひしと感じる。
 しばらく行くと、二軒目のレストランが現れた。だが、やはり客がいない。黙って通り過ぎようとすると、背後から「何でここじゃ駄目なの!」と恐ろしい声がとどろいた。「いや、ここでも良いけど、客がいないだろ。きっと不味いぞ。それでもいいのか?」と反問してみたが、「いいわよ、ここで!どこも大して変わりないんだから」と言い捨てられてしまう。これはヤバイ!
 「ほら、湖南旅行のとき『張家界』でも歩いて美味しいお店を見つけだろ!俺を信じろよ」と懸命の説得に当たる。しかし、そろそろ限界だ。「次にそこそこの店があったら、客が少なくても入ろう。それでいいだろ」。
 「どうせ、また言い訳して、(店に)入らない癖に!」
 「いや、ほんと、ほんと」
 (美味しい店を探してやっているのに、何でここまで言われなきゃならんのだ~)とぎゅっとコブシを握り締め、私は耐えた。

 進むこと十数メートル。あった、あった、人気店らしき店が!相当混んでいる。これなら間違いない。「ほらっ、Zよ。あそこの店は混み混みだ。絶対美味しいぞ!」と私が叫ぶ。「どうだかねぇ」とZは疑わしげな表情をしながらも、ようやく食事ができるとあってほっとした様子である。

 席につくと、ウェイトレスがメニューをもってきた。客が多い店とあって、動作がきびきびしている。メニューを開いていくが、これぞ「広西省料理」というのが見つからない。というか、そもそも「広西省料理」とは何なのか知らないのだ。「石頭桑納肥牛」というのが目についたので、「これは美味いのか?」とウェイトレスに聞くと、「美味しいわよ。ほらっ、隣のテーブルのお客さんも食べてるし・・・」と指で示しながら続ける。「でも、私たちとしては別の料理にして欲しいんだけどね」。そして、「ねぇ、『石頭桑納肥牛』はまだあるのー?」と大声で数テーブル離れたところで、後片付けをしている別のウェイトレスに呼びかけた。そのウェイトレスは「あるわよー。もしかしてまた注文?」と半分冗談めかしてしかめ面をしてみせる。
 「石頭桑納肥牛」の石頭は「石」のこと。桑納は「サウナ」。肥牛は「牛肉」。肥牛というと、比較的脂ののった牛肉を指すようだ。話は横にそれるが、私が初めて中国に訪れた時は、貴州という田舎だったこともあって、牛肉と言えば水牛しかなかった。その頃は、中国では水牛しか食べないのだろうと思い込んでいたものだ。
 さて、「石頭桑納肥牛」であるが、名前から判断すると、石焼牛肉といったところだ。「肥牛」であって、「牛排(ステーキ)」ではないから、薄切の肉だろう。結構うまそうだ。桂林でも、石焼の料理を食べたから、この石焼というのは広西料理とは言えないまでも、この辺りでは流行している料理なのかもしれない。石が使われていて重いからウェイトレスも嫌がるのだろうが、やはり食べてみたい。「悪いけど、やっぱり『石頭桑納肥牛』にするよ」と注文を出した。 

【夕食<1>】

 

 待つこと十数分。ステンレスの大きな鍋で、「石頭桑納肥牛」がやってきた。手のひらの3分の1ぐらいの大きさの石に混じって、柔らかくて美味しそうな牛肉や玉ねぎ、生姜などの野菜が一緒に入っている。デジカメでパチリ、パチリと写真をとってから食事を始めた。二人とも、まっさきに牛肉に手をつける。「おいしぃねぇ」、「おいしいなぁ」と合唱。パクパクと食べつづける。だが、食材と石が混じっていて食べにくい。石を箸で除けるのが骨だ。そう思っていると、ウェイトレスがするすると寄ってきて、石を除けるのを手伝い始めた。「謝謝(ありがとう)」とお礼を述べて、食べるほうに専念していると、ニコニコしながら「貴方、さっきカメラをもっていたわよねぇ」と話し掛けてきた。「そうだけど?」と答えると、「私の写真をとってくれない?」と言ってきた。(やっかいなウェイトレスだなぁ)と思ったが、「でも、デジカメだから、写真をとってもプリントできないよ」と婉曲に断る。(実際には、中国でも多くの写真屋がデジカメに対応している。南寧ではどうかわからないが・・・)。
 だが、それぐらいで引き下がるようなウェイトレスではなかった。(そもそも、中国で「婉曲」な表現なんて理解されないことがほとんどだ・・・)。「だったら、メールで送ってよ。メールアドレスを教えるから」としつこい。「メールで・・・。それはちょっと大変だ(というか、何でおまえにそこまでしてやらなきゃならんのだ)」。たまりかねたZが「そんなの大変よ。わざわざメールで出すなんて!そこまでやる必要はないでしょ」と援軍を寄越した。Zの剣幕にいささかひるんだウェイトレスは「そんなに大変じゃないでしょ・・・」とぶつぶつ言いながらも、退散。結局、写真をとってもらうためだけに手伝いに来たのか。
  再び、石を箸で取り除いては、埋まっているお肉を取り出す作業に取り掛かる。「美味しいんだけど、なんだか手が痛くなってきたわ」とつぶやきながら食べるZ。日本で石焼と言えば、両手で持たなければ持てないような大きさの平たい石の上で焼くものだと思う。でも、それを小さな石で食べるとどうなるかなんて考えたこともなかった。それに、小さな石であっても、こんな風に混ぜてしまわなければ食べにくいこともないだろうに、なぜ混ぜてしまうのか。量を多く見せるため?この方がインパクトが強いから?「手の筋肉を鍛えられる料理」。ちょっと理解できない。でも、お肉が美味しいからいいか。

【夕食<2>】

 

 続けて、野菜料理とスープを平らげる。数年ぐらい前までは、この中華薬材系の中華スープに今ひとつ慣れることができず、卵系のスープばかり頼んでいた。だが、最近はこの中華薬材の入ったスープがあると、ついつい注文してしまう。卵系スープの3倍ぐらいの値段がするのが玉に瑕だが、体に染みとおる美味しさで癖になる。

 20:10、食事終了。本日は旅としてはさえない一日であった。移動日であったことだし、やむえない面もあった。でも、美味しい食事で締めくくれたので、まずまず満足だ。明日の「龍虎山」観光への道筋もついたことだし、充実した南寧旅行とすることができそうな感じだ。

  せっかくここまで来たことだし、頑張ってホテルまで歩いてもどろうかとも考えたが、さきほどの行軍ですでに足がふらふらになっていることに気づき、取りやめた。タクシーに乗ってホテルへ帰着。

 ホテルの部屋で休憩しているうちに気づいたのだが、照明が明るい。こうやって本日の行動記録をとったり、地図を眺めたりするのもすごく楽だ。設備としては同じレベルであった桂林の「名城ホテル」も、この点ではこのホテルに及ばない。こんどから、ホテル選びのときには照明の明るさも選択基準に入れたいなと思った。もっとも、そんなに余裕のある時はあまりないのだが・・・。

2005年9月7日

  7:40、ホテル出発。
 「龍虎山」の入場料はわずか20RMBだという。3000匹もの猿を抱え、中国4大猿山の看板を掲げる観光地としては驚くほど安い。最近、中国の観光地はどこも値上げが激しく、100RMBを超える入場料も珍しくない。そう考えると、20RMBというのは、極めて良心的な料金だ。だが、一方で疑念もわく。こんなに安い入場料ということは、恐ろしくみすぼらしい観光地なのではないか。タクシーで行くと往復で300RMB-400RMB。入場料20RMBの観光地に300RMBも支払って行くことはできない。何としてもバスで行かなければならないところだ。一応、昨日バスのルートを確認しておいたので不安は大幅に取り除かれているが果たして結果はどうだろう。

【翔雲大酒店】

 

 7:45、バス乗車。昨日と同じ52号線だ。南寧駅の前を通り過ぎ、さらに走る。なかなか着かない。昨日はバス・ステーションから南寧駅まで歩いたわけだが、よくもこんな長い距離を歩いたものだと我ことながら感心した。

【市内バス-52号線-】

 

 8:05、バス・ステーションに到着。龍虎山に行くと伝えると、チケット売り場のスタッフは「龍安まで行って乗り換えなければならないわよ」と言ってきた。「えっ?昨日のスタッフは大新行きのバスで行けるって言ってたわよ」とZが答えると、スタッフは一瞬考えたあと、なるほどねという表情をして、「大新だと、あれは直行便だから、大新までのチケットを買って途中で降りなければならないわよ」と教えてくれた。大新までいくらかと尋ねると、38RMBだという。
 Zがどうするという顔でこちらを見るのに、「大新でいいよ」と答える。南寧から龍虎山までと、龍虎山から大新までが同じくらいだから、半分ぐらいは捨て金となってしまうが龍安経由ではいつになったら着くかわからない。今日はできれば南寧のもうひとつの観光地である「伊嶺岩」にも行きたいと考えているから、時間を優先するとしよう。

 バスに乗る前にビスケットやひまわりの種を買い込む。すかさずZから、「何でそんなに買うの?」とチェックが入る。私は中国滞在が長くなって以来、何かと余分に買い込む習慣が身についている。日本と違って、どこでも必要なものが入ると限らないから手に入るときに手に入れておくという生活の知恵である。特に旅行中は、深センのような便利な場所ではなく、内陸の不便なところをまわることが多いからなおさらだ。当然、余ることもあり、結果として捨ててしまったりする。Zはそれが嫌いらしく、私が小物を買おうとすると止めにかかるのだ。
 「いや、食べるために買うんじゃないんだよ。猿の餌だよ。ここで買っておいたほうが安いだろ」と説明すると、納得した顔をして引き下がった。猿の餌を買い終わると今度は私たちの餌、いや食事の購入だ。Zが今日はソーセージはいらないというので、私がソーセージ一本と燻製(?)の卵を1個、Zが同じく燻製(?)の卵を2個買うことになった。

 8:30、バス発。36席の豪華大型バスだ。バスが動き始めると、私とZはすぐに朝食開始。バスの中で食べるソーセージはうまい。昔はバス・ステーションでは絶対に食べ物を買わなかったのだが、Zがいつもうまそうに食べているのをみて、とうとう手を出すようになってしまった。慣れとは恐ろしいものである。

【龍虎山<1>】

 

 9:50、「龍虎山」に到着。真ん前で下車できてひと安心。帰りはどうなるのだろうかと周囲を見回してみるが、バス停らしきものはない。だが、この通りはよく整備されていて車通りが多い。バスも結構通りそうだし、心配ないだろう。

 チケット(20RMB/人)を購入し、入場。Zに「さっき買ったばかりじゃない!」と非難されながらも、猿用の餌として、落花生4袋(2RMB/袋)を追加購入。猿山に来て餌がなくなっては話にならない。「山の上にいったらもっと高い値段で売っているだから今のうち買っておいたほうがいいんだよ。餌がなくなったら、Zもつまらないぞ」と言うと、疑わしげな表情でこちらをみたが言っても仕方がないとおもったらしく黙って引き下がった。

【龍虎山<2>】

 

 入場門のすぐ横にトイレがあったので用を足しておく。外観は今ひとつだが、きれいに清掃されており、安心して使うことができた。ただし、ドアなしである。

【龍虎山<3>】

 

【龍虎山<4>】

 

  しばらくは公園のような道が続く。それから山へ突入。山の入り口でモンキーバナナが売っていた。一房2RMB。猿が喜んで食べるのだという。さっそくZが購入した。モンキーバナナを猿にやるのか~と面白く思っていたら、Z自身がぱくぱくと食べだした。「おい、それ猿用だぞ」。「大丈夫よ、美味しいもの」。バナナに猿用も人用もあるものかという様子である。「あなたも食べる?」と一本差し出されるが断る。確かに中国でもあるし、人用だからきちんと管理されているとか猿用だから管理がいい加減だとかいうこともないのだろうが、どうも「猿に食べさせるため」と名づけられてしまったものを食べる気にはならない。頭の固い私である。驚くべきことにZはそのまま食べつづけてとうとう5本も食べてしまった。

【龍虎山<6>】

 

【龍虎山<7>】

 

【龍虎山<8>】

 

【龍虎山<9>】

 

 山のふもとを突き進んでいくと、橋が現れた。橋のたもとまで来たとき、本日最初の猿が登場。それほど大きくない。欄干を辿ってスルスルとこちらに向かってきた。

【龍虎山<10>】

 

 猿の目標はZの手元にあるバナナ。今にも飛び掛ってきそうな猿をみて慌ててバナナを一本投げやるZ。猿はすばやくキャッチしてむしゃむしゃと食い始めた。

【龍虎山<11>】

 

 これ幸いと突破を図ろうとするZであったが、猿は瞬く間に食べ終わってZを追いかける。慌ててさらに一本を投げてやるZ。

【龍虎山<12>】

 

 Zは小走りに橋をかけぬけようとしたが橋のなかほどでまたもや猿に追いつかれてしまった。Zはもの惜しげに一本をちぎり再び猿に投げやる。もう三本目である。いい加減満腹するだろうと思ったが、猿は素早く食べ終わり、すっかり足のすくんだZを再び見やる。四本目のバナナを差し出して、「○○(私の名前)~どうしよう」と私に訴えるZ。「もう全部やっちゃえよ」と言うが、首を振るZ。残った2,3本のバナナを死守する構えである。それなら進むしかない。「もう相手にせずに進むしかないよ」と突破を指示。二人で何とか橋を渡りきった。そこそこ満足していたのか、縄張りの関係があるのか、猿はそれ以上追ってこようとはせず助かった。

【龍虎山<13>】

 

 だが、一難去ってまた一難。今度は通りの正面から十数匹の猿が走り寄ってきた。もはやバナナを守りきれないと悟ったのかZは残った数本を前方に投げ出し、私の後方に逃げ込む。

【龍虎山<14>】

 

【龍虎山<15>】

 

 ふふっ、とうとう出番だなと私はリュックからおもむろに落花生を取り出した。ところが、袋を開ける間もなく、すばやく近寄ってきた猿に袋ごと取り上げられてしまった。一瞬猿の指が私の手に触れどきっとしたが幸い怪我はなかった。唖然とする私を尻目に、スルスルと木に登り、美味しそうに落花生を食べ始める猿。よく見ると子連れだった。小猿をお腹に抱えたまま器用に落花生を食べている。「○○(私の名前)、全部とられちゃったわねぇ」と嬉しそうにはしゃぐZ。(おまえは猿の仲間か!?)と言いたかったが、ぐっとこらえる。

【龍虎山<16>】

 

 そして、「まだ3袋もあるんだ」と空元気で答え、私は落花生をもう一袋取り出した。さっきは油断していたからとられたんだ。今度はそうはいかない。袋から一掴み取り出し、集まってきた猿に投げやった。ところが、私が投げやった落花生には目もくれず仲間の猿の間をささっと足早に抜けてまっすぐにこちらに近づいてくる猿がいた。うわっ、何だ、このサルは。俺をじっと見つめているぞ?違う、左手につかんだ落花生の袋を狙っているんだ。ぱっと左手を離し落花生の袋を地面に落とした。猿はすかさず袋を拾い、仲間の間を抜けて近くの木に駆け上る。

 なるほど、大半の猿は投げられた落花生を夢中になってむさぼるが、一部の猿は賢く立ち回って一攫千金を狙って袋を取りにくるというわけだ。うーん、面白い。でも、あんな猿がいるんじゃ、落花生の袋を出せない。Zよ、後ろでにやにやするな。振り返らなくてもわかるんだぞ。

【龍虎山<17>】

 

 餌をやるのを諦めて、先へ進む。すごい、どんどん猿が増えていく。前後左右、木々の上、取り囲まれていくようだ。さすが、三千匹の猿を擁しているという山だ。それでもなんとか、先へ進んでいくうちに、私たちよりも先に来ていた家族らしきグループが、少し開けた場所で休憩をとっているのに出くわした。あまりの猿の多さに圧倒されて、疲れ気味の様子。その一団から少し離れた場所で、老人が落花生を売っている。料金が書いてあって一袋1RMBだ。門で売っていたものより値段は安いが、量も半分ぐらいしかない。老人は隙をみては寄ってくる猿たちに向けて長くて太い棍棒のような枝を威嚇するように何度も振り向ける。猿たちは枝の恐ろしさを知っているらしく、常に一定の距離を保ち続けているようだ。

【龍虎山<18>】

 

 その老人をしたように見ていた家族グループの一人が「そうだ、木の枝で猿を追っ払いながら進めばいいんだ」と声をあげた。なるほど、と皆が近くの枝を拾い上げる。準備完了!出発進行。女性たちを囲むようにして、前進する。

 しばらく行くと、二階建ての建物が現れた。どうやら、猿の餌やり場らしい。大小の猿たちが建物のあちこちに座り込んでいる。家族グループは建物の左階段から枝を振るいながら2階へと登り始めた。私も負けてはいられない。このぶっとい根棒なみの長い枝があれば、どんなに数がいようとも、猿など何ほどのものか。私はZを励まし、敢えて右階段から登ることにした。Zは「危ないよ~、皆と一緒に行こうよ」と怯えた声を出す。「じゃあ、Zはあっちの一団と一緒に行け!」と指示を出し、あくまで右階段登りを固守する。家族の一段の後ろにくっついたZを見届け、私は猿が待つ階段に向かった。

 ど太い枝の威力はすさまじく、一振りするだけで、猿たちはわらわらと逃げていく。うーん、ちょっと気分がいいぞ。猿たちを前に英雄気取りの私。鼻息が荒くなる一方である。・・・が、神の雷撃を下す私の杖の威光に全く動じない猿がいた。欄干の上をちっとも動こうとしない。何奴だ。じっと猿の顔をにらみつける。げっ、顔にすっごい傷があるよ。柳生十兵衛みたいに片目の真中をでっかい傷が走っている。真っ赤で、めちゃめちゃ怖い顔。体もでかい。これがいわゆるボス猿か。
 しかし、ボス猿といえども、神の杖の前には・・・。だって、他の猿はどんどん逃げていくじゃないか・・・。だが、あくまで動こうとしないボス猿。子分どもの前だからって虚勢を張らなくてもいいじゃないか。でも、本当に怖いよ。この顔。
 駄目だ、何だか本気だよ、この猿。もしかして、ヤバイんじゃないか俺。ここを無事通り抜けられるのだろうか。急に及び腰になる私。飛び掛ってきたら、叩き落さなきゃならない。しかし、本気になった猿のスピードに私の枝は追いつくことができるだろうか。もはや完全に防衛姿勢に入ってしまっている。

【龍虎山<19>】

 

 2Fの横幅はおよそ3メートル。ついさっきまでは、8車線の広さがありそうだったが、今は縁側の幅ぐらいにしか感じられない。一番反対側の隅を歩いていったとしても、ボス猿の跳躍力をもってすれば、ひとっ飛び。これは本当ーにやばい。来るなよー、来るんじゃないぞー、と神に祈りつつ、枝は猿に向けたままにじわりじわりと進む。刺激してはいけない。だが、万一襲い掛かってきた場合には叩き落とさねばならない。この苦しさを理解して頂けるだろうか。

【龍虎山<20>】

 

 ふっー、なんとかボス猿の射程距離を離脱し、家族グループに紛れ込んだ。家族グループは数に物を言わせて建物の左隅を制圧しきり、餌を撒いて楽しんでいる。Zも混じってニコニコ顔だ。「いやー、危ないところだったよ。あっちにでっかい猿がいてさ。死ぬかと思ったよ」とうめく私に、「馬鹿ねぇ。だから危ないっていったじゃないの」と大笑いするZであった。振り向いて、すでに遠くに見えるボス猿に目をやると、なんだかこちらを見下したような顔をしている。うーむ、今回は敗北を認めてやるとするか。(猿・・・、猿に・・・)。

【龍虎山<21>】

 

  十分楽しんだ後、建物を降り先ほどの餌売り場まで戻る。途中、さらに先に進むための道が分かれていたが、皆猿の多さに圧倒されて足が前に進まなくなってしまったのだ。

【龍虎山<22】

 

 家族グループの皆が帰ろうとすると、Zも「○○(私の名前)、私たちも帰りましょうよ」と言い出した。「駄目。絶対に行く。まだちょっと見ただけじゃないか」。「でも、危ないわよ~」と情けない声を出す。「絶対に行く。この棒があれば大丈夫だよ」。ボス猿の前では役に立たなかったが、普通の猿なら問題なく追い払えるはずだ。確かにこれだけの猿がいると、もしや一斉に襲い掛かってきたりするのではないかという錯覚にとらわれるが、そんなことはあるまい。何より、こんな遠くまで来て、これだけでは帰れないぞ。
 私の固い決意を感じとったのだろう。私一人では盾として十分でないと考えたのか、Zは家族グループたちを勧誘し始めた。「みんなで行きましょうよ。そうすれば大丈夫よ。来たばっかりで帰るなんてもったいないじゃない」。大道演説みたいな調子で家族グループたちに向かって懸命に呼びかける。
 Zの激励が功を奏し、家族グループの男たちがまず動き始めた。「じゃあ、行くか。皆で枝を振りながら行けば大丈夫だろう」。女性団はまだ躊躇している。だが、構わずに私が先頭に立って歩き始めると、家族グループたちもゾロゾロとついてきた。
 ところが、その時、女性陣から「きゃあ!」と声があがった。振り返ると、何かを手にした猿がすぐそばの木をスルスルと上っていく。わいわいと騒ぐ家族グループの隙間から木を見上げると、猿が手に持っているのはペットボトル。どうやら、飲みかけのペットボトルを奪われたらしい。
 猿はペットボトルを持ち上げ、人間と同じように飲もうと試みる。だが、蓋がしてあるため水が出てこない。今度はひっくり返して、底の方を歯でガジガジと噛み切る。そうしておいて、ペットボトルの上部を上に持ち上げて、ごくん、ごくんと水(多分、お茶)を飲み始めた。家族グループが一斉に歓声をあげる。「上手に飲むねぇ」。「本当、人間みたい」。

【龍虎山<23>】

 

 騒ぎがひと段落ついたところで、出発。細い道を抜けていくと猿が道脇の樹木の間からぞろぞろと集まってくる。それを枝を振って追い払いながら進む。後方をついてくる家族グループが「蚊が多いな」、「蚊が多いわね」とぼやいているの聞いてZの顔がこわばる。Zは蚊に好かれる体質で、私と一緒にいると蚊は皆Zの方に行ってしまうのだ。私が愛用している血行促進の塗り薬「活絡油」は蚊除けの効能もあるようなので、そのせいもあるかもしれない。当然、本日もたっぷりとあちこちに塗りたくってあるので、私が蚊にやられる心配はない。一層元気のいい足取りで私はゆく。

【龍虎山<24>】

 

【龍虎山<25>】

 

 十数分も歩いた時、前方に川を渡る細い橋が現れた。近づいてみると、竹でできている。足で踏んでみると、かなり揺れる。うーん、怖い。私は高いところが嫌いなのである。だが、これを怖がっていてはZに馬鹿にされてしまう。勇気を出して、足を前に踏み出す。後ろから「○○(私の名前)、怖いんでしょ」と見透かしたようにZの突っ込みが入る。「うるさいなぁ」とZを牽制しながら、こわごわと足を進める。手すりも竹でできているから、いつ折れるかわからず、頼りにすることができない。山中、これだけ木があるのに何で竹で橋を作ったりするんだ。竹の方が、水を弾いて長持ちするのだろうか。

  私を馬鹿にするZも高いところが得意なわけではない。二人揃って、おっかなびっくり橋を渡り切った頃、「きゃあ!」という先ほどより大きな声が後ろで響いた。

【龍虎山<26>】

 

【龍虎山<27>】

 

【龍虎山<28>】

 

  何だ?家族グループの一団がワイワイと騒ぎながら、こちらに背を向けて、橋の反対側のたもとの方角をみている。私の中国語のヒヤリングは騒ぎのもとが何であるかを聞き取れるほどの水準にはない。我慢し切れずに「Zっ、何があったんだ」と口に出した。猿が襲ってきて、紙袋ごと取ろうとしたみたい。「取っていったのか?」。「大丈夫みたいよ。ほら、あそこ」。Zが指差した先を目で追ってみると、なるほど、一部破れた紙袋を手に下げた女性がこちらに向かってくる。
 うぁー、すごい。少しでも物が見えていると、アタックをかけて来るんだなぁ。「Z!俺のリュックのチャック、ちゃんと閉まっているよな」。はっと気づいて尋ねる。「閉まっている、閉まっている」。よし、これで安心だ。橋を離れで歩き出す。しかし、すごい猿だなぁ、橋の上を縄張りにしているのだろうか。振り返って、橋の上をみると、おっ、猿が橋の真中までやってきている。これを写真にとらない手はない。再び橋のたもとまで戻って、猿の写真をゲット。こうして見ると、まるで橋の番人だ。最初の橋にいたのが比較的若い猿。餌やり場にいたのが年季の入ったのボス猿。この竹の橋を守っているのがベテラン猿。きっと、世代ごとの一番賢く、強い奴らがこうした要所要所を守り、かつ、美味い汁を吸っているのだろうなぁ。

【龍虎山<29>】

 

【龍虎山<30>】

 

 橋のたもとを離れて川下に向かって歩く。私たちが写真をとっている間に先へ進んだ家族グループが、前方の小さな広場で立ち止まり、何やら騒いでいる。おっ、また事件か!?急ぎ足で追いついた。追いついてみると、小さな公園があり、ベンチやブランコにたくさんの猿が集まっている。家族グループたちは、その真中で餌をばらまきながら、ワイワイと騒いでいる。私も残りの餌を取り出そうかと考えたとき、男の一人があっちに桟橋があるぞ、あそこから餌をやろう!と大きな声をあげた。

【龍虎山<31>】

 

  男は皆の先頭に立って、川に向かって突き出している桟橋の先まで行き、川岸近くの水面に向かって餌を投げ始めた。すると、猿たちは次々に川の中に飛び込み始めた。おおっ、すごい、泳いでるよ、猿。私も落花生やビスケットをリュックから取り出して川に向かって投げる。泳ぐだけじゃない。潜水して川底に餌を取りにいく猿もいる。「泳いでる、泳いでる!」、「潜ってる、潜ってる!」。家族グループも私たちも感嘆の声がとまらない。

【龍虎山<32>】

 

 最初の驚きが過ぎ、じっくりと観察を始めると、全部の猿が泳げるわけではないことがわかる。餌は欲しいものの、川の中に入れず、物欲しげに水面を眺めている小さな猿。川の中には入っても、足の着く場所で、流れてくる餌を拾うことしかできない猿もいる。泳ぎができる猿はたくさんいるが、潜水までできる猿は多くない。賢い猿は、餌を手に入れても川岸まで戻らず、近くに打ち込まれた木のくいの上に留まり次の餌を狙う。私たちが餌を投げ込むとくいの上から跳躍し、餌の方角に向かって迷いなく飛び込む。一つの餌を争って、川の真中まで泳ぎ出す数匹の猿。餌を手に入れた猿は意気揚揚と戻ってくるが、とり損ねた猿はなんとも無念な様子だ。「落花生ちょうだい、落花生ちょうだい、私も投げる!」。Zも懸命に餌を川に向かって放り続ける。

【龍虎山<33>】

 

【龍虎山<34>】

 

【龍虎山<35>】

 

【龍虎山<36>】

 

 あまりの楽しさに、家族グループも私たちも、瞬く間に餌を使い尽くした。猿たちも疲れたのであろう、へとへとの様子で川岸やくいの上で休み始めている。お猿さんたち、楽しい時間をありがとう。皆、満足げに川を離れた。

【龍虎山<37>】

 

【龍虎山<38>】

 

 木から垂れ落ちている蔦を使ってターザンのように遊ぶ猿たち。その下を通って、一路出口へ向かう。途中、山中へ入っていく道があったが、皆疲れきっていて、奥へ踏み入っていく元気はなかった。トンネルを抜けて反対側に出ることができるようだったので、あの先に何があったのかいささか気になるところだ。

【龍虎山<39>】

 

【龍虎山<40>】

 

 入口近くでZはまたもやモンキーバナナをひと房購入。「それ、猿用なんだぜ」と言ってみてもまるで効き目がない。バナナに人間と猿の見分けがつくわけではないから、私の偏見と言われても仕方がないが、猿用の方が賞味期限が長く扱われるのではないかと思うのは私だけだろうか。Zは「安くて美味しいんだから!」と大喜び。まぁ、バナナを売っているおばさんにしてみれば、食べられるバナナと食べられないバナナの二種類しかないんだろうから、賞味期限がどうのというのは先進国病なのかもしれない。案外、人間よりも猿の方がうまいバナナにうるさかったりして・・・。

【龍虎山<41>】

 

 11:40、龍虎山の出口に到着。さて、バスはどのくらいでくるかな?

 11:50、走ってきた大型バスにZが手を振って合図する。バスは急ブレーキをかけ、キキッィと大きな音を立てて、10メートルほど先のところに停車した。「○〇(私の名前)、はやく、はやく」。Zの声に急かされて、私も走る。前を行くZは見事なまでに前傾姿勢だ。こういう時の中国人女性ってすごい。日本で、(バスに乗るのに)こんなに必死になる女性をみたことがないせいか、いつ見ても圧倒される。

 バタバタとバスの中に駆け込み。席に座る。なぜか私たち以外の客はいない。いつもだったら、心配になるところだが、天気がよくて空は青空。バスの中にさんさんと降り注ぐ太陽の光が心の陰りを吹き飛ばしてしまう。
 サングラスをかけた陽気なオヤジが運転手。音楽をガンガン鳴らしながらバスは走る。窓の外は、山も田んぼも緑でいっぱい。やっぱり9月の旅行は最高だなぁ。心も体も空を飛ぶような気分だ。

【龍虎山からの帰途】

 

 1:00、北大バス・ステーション着。お昼休憩を取りたいところだが、のたらのたらしていたら、すぐ夕方になってしまう。次の観光地である「伊嶺岩」へ急がねば!いつもだったら、昼ご飯、昼ご飯とうるさいZも、今日は気持ちが同じなのか、何も言わす従ってくる。あぁ、モンキーバナナをたくさん食ったから満腹なだけか。

 「龍虎山」と「伊嶺岩」では方角が全く違うので、起点となるバス・ステーションも違う。バス・ステーション間もバスが走っているのだろうが、市内の移動で時間を使うのは惜しい。タクシーを飛ばして、安吉バス・ステーションへ真っ直ぐに向かうことにした(26RMB)。

【安吉バス・ステーション】

 

 1:20、安吉バス・ステーション着。「伊嶺岩」行きのバスは6RMB/人と安い。ということはすぐに着くのかな?腹の減った私はソーセージ一本と卵二個を買って乗り込む。私たちが席に着くと、バスはすぐに出発。私がソーセージ一本と卵、Zは卵だけ。「ソーセージ何でいらないの?」と尋ねると、「ソーセージなんて塩辛くて食べられないわ」と強い拒否。いやいや、お前いつも食べてるだろ。今日だけだろ、食べなかったのは。バナナあんなに食べなかったら、今も食べてるんじゃないか。

 Zは「龍虎山」から帰ったときのバスが相当気に入っていたらしく、何度も「さっきのバスは良かったわねぇ」と繰り返す。まったくだ。風が気持ちよく、周囲も緑いっぱいで最高だった。バスそのものは、今座っているバスの方がしっかりしているのだが、環境が違うと感じ方も変わるものだ。  

【伊嶺岩<1>】

 

【伊嶺岩<2>】

 

 1:45、「伊嶺岩」到着。入場料は15RMB。鍾乳洞の部分は別途25RMBとのこと。まとめて払おうとすると、ここでは入場料だけを払ってくれと断られた。入り口から少し入ったところにあるベンチのところでしばらく待たされる。他の客が集まってから、案内を始めるのだという。すぐ脇で猿用の落花生を1RMB/RMBで売っていたので、一応購入しておく。結局、20分近く待ったが誰も来ず、ガイド一人(無料)と私たち二人で出発。(ベンチそばの建設中の建物の奥にトイレ有り)。

【伊嶺岩<3>】

 

 鍾乳洞へまでの道はガイドの案内に従って、少数民族の生活に関連する様々な物品を見て歩く。中学生の文化祭レベルのレプリカなので、あまり気分が乗らないがガイドの女の子も仕事だろうから、文句を言っても仕方がない。トボトボと後ろをついていく。

【伊嶺岩<4>】

 

【伊嶺岩<5>】

 

【伊嶺岩<6>】

 

 結婚式の時にやるとかいう、縄跳びのような要領で遊ぶ棒飛びゲーム。初めてだったら感動があるかもしれないが、あちこちで見たりやったりしているので、仕方なく参加という感じだ。

【伊嶺岩<7>】

 

【伊嶺岩<8>】

 

 まずスタッフたちが歌を歌い、それに歌を返すと刺繍した飾り球がもらえるとのこと。だが、私は歌は駄目。Zも恥ずかしがって歌わない。賞品は頂けなかった。

【伊嶺岩<9>】

 

 少数民族の家のレプリカ。もうちょっと上手に作れないものか。

【伊嶺岩<10>】

 

 家の中には農具が置いてある。とても実用に耐えそうもないもの。

【伊嶺岩<11>】

 

 少数民族の食べ物。結構ボリュームがある。饅頭と粽。Zは怪しんで全く食べようとしない。うーん、いつ作ったのだろう。だが、ガイドがどうして食べないの?という表情で待っているので、頑張って半分ほど食べた。可も不可もない味。Zが「味、どうだった」と尋ねてくる。「普通」。「どうして全部食べなかったの」。「万一やられた場合、被害が半分で済むと思ったから・・・」。Zの奴め、興味があるが怖くて食べられなかったようだな。うーん、お腹が心配だ。

【伊嶺岩<12>】

 

 鳥園のようなところを通り過ぎ、・・・。

【伊嶺岩<13>】

 

 少数民族の生活用品の博物館。

【伊嶺岩<14>】

 

 叩いて村人に合図をする器具。三回叩くと歓迎すべき相手、七回叩くと敵対者が現れた合図となるらしい。

【伊嶺岩<15>】

 

 ここで少数民族の踊りを見せてくれる。着ている服装は、以前に深センの歓楽谷というテーマパークでみたものと同じ。そうか、あれは広西省の少数民族の踊りだったのか。しかし、あちらの方が楽しげで、良かった。観客が少ないからやる気がみられないスタッフたち。本場なんだから、もうちょっと頑張らないとね。

【伊嶺岩<16>】

 

 まだ鍾乳洞につかない。道脇にいくつも像が立っていて、ガイドが説明をしてくれる。多分、英雄とか神様の像だろう。

【伊嶺岩<17>】

 

 色つきの石で三つに分けられている階段。三つのうち、どれを通るかで運命がわかるらしい。

【伊嶺岩<18>】

 

 力溢れる像なので、写真にとってみた。そう言えば、最近、こうした像があちこちの歩行者天国でみられる。湖南の長沙にもあったし、深センの東門や、広州の上下九道にもあった。高級感があって耐久性もあるから採用されているのだろうが、材質は何なのだろうか。

【伊嶺岩<19>】

 

【伊嶺岩<20>】

 

  小さな門を抜けると、底は酒蔵。これもレプリカで酒の造り方を説明してくれる。

【伊嶺岩<21>】

 

 2:40、ようやく鍾乳洞に到着。なだらかな坂をずっと登ってきたので、気づかないうちに、けっこう高い所まで来ていたようだ。下の田んぼを見下ろすことができある。土産物が少し出ていて、ここで5分ほど待たされる。土産物を買う時間として定められているのだろうが、もうちょっと、特色のあるものを置いておいてもらわないと買う気にならないよ。

【伊嶺岩<22>】

 

 鍾乳洞への入場料25RMB/人を支払って中に入る。桂林の七星岩にあった鍾乳洞と同様、ガイドがついて説明を始める。

【伊嶺岩<23>】

 

【伊嶺岩<24>】

 

 予想通り、ネオンライトの連続。どーしてこんなケバケバしい色をつけなければならないのか。もっとも、そんなネオンも、都会からやってきたものだろうから文句も言えないか。

【伊嶺岩<25>】

 

 同じ広西省の鍾乳洞だけあって、桂林の七星岩とほとんど変わらない。もっとも、鍾乳洞というのはみんなこんなものかもしれない。ただし、七星岩の鍾乳洞より、規模がだいぶ大きい。通路も上ったり下りたりと、空間をふんだんに使っていてヒヤヒヤ感があって面白かった。もうちょっと色使いを控えめにして、石の形自体を楽しめるようにすると、心に残るような観光地になると思うのだが・・・。

【伊嶺岩<26>】

 

【伊嶺岩<27>】

 

【伊嶺岩<28>】

 

【伊嶺岩<29>】

 

 3:30、鍾乳洞の出口に到着。ふっー、疲れた。真っ暗な中を長時間歩くのは疲れるものだ。背伸びをしながら歩いていくと、前方に猿の集団を発見。買っておいた落花生が役に立つ。午前中訪れた「龍虎山」ほどではないが、十数匹の猿がどっと集まってくる。餌を瞬く間に使い果たしてしまった私は、昨日買った「ひまわりの種」がまだリュックに残っているのを思い出した。中国では、バスのお供に必需品のひまわりの種。小さいのでなかなかお腹がいっぱいにならず、暇つぶしには最高である。それを猿にあげてみようというわけだ。落花生は大人気であるが、ひまわりはどうか?興味を示さなかったらさびしいなぁと考えながら、ばら撒いてみる。
 おおっ、皆食べ始めたぞ。しかも、実が小さいので、ゆっくりパリパリと食べるのがやっとだ。落花生のように一瞬に食べ終わるのは無理のようだ。パリパリと可愛く食べている様子が楽しめる。うーん、なぜ「龍虎山」にいる時に思い出さなかったのだろう。あの大勢の猿にひまわりの種をパリパリと食べさせてみたかった。喜んで少しずつばら撒いていると、Zが「私の分も残しておいてよね」と口をはさんできた。(おまえは猿とも競争するのか!?)と思ったが、猿用のモンキーバナナも食べる奴だ。きっと、食べ物には「私が食べられるもの」と「私が食べられないもの」の二種類しかないのかもしれない。「わかった、わかった」と適当に返事をしておく。 

【伊嶺岩<30>】

 

【伊嶺岩<31>】

 

 3:45、「伊嶺岩」の出口に到着。

 3:55、バス乗車。

【伊嶺岩の前の通り】

 

 4:20、安吉バス・ステーション到着。2号線バスに乗って、市街へ出る(1RMB/人)。

【伊嶺岩からの帰路<1>】

 

 ここで面白い現象が発生。バス乗車をしたとき、私たちの前にたまたま一組の母子が座った。おっ、可愛いなぁと思っていたら、次のバスでもう一組やってきて、最初の母子の隣に座った。なんだ、今日は赤ん坊だらけだなぁと感心していたら、次の次ぐらいのバス停で、さらに一組の母子が登場。その前の席に座った。おおっ、三組目だ。他の席にもいるのだろうかと車内を見回すが、赤ちゃんを抱えた母子がいるのはこの一角だけだ。さすがにそれ以上は続かず、一組、また一組と下車していったが、これは偶然だったのだろうか。或いは、母子はお互いに寄り添う傾向があるのだろうか。

【伊嶺岩からの帰路<2>】

 

  4:50、朝陽広場に到着。昨日、ぶらぶらして何も発見できなかった場所だが、昨日は歩みを止めてしまった場所をさらに行くと、屋台街があった。美味しいものがたくさん。私は写真をパチパチととり、Zは、美味しいわね、美味しいわね、と繰り返しながら食べまくる。

【再び朝陽路周辺<1>】

 

【再び朝陽路周辺<2>】

 

【再び朝陽路周辺<3>】

 

 屋台で半分ぐらいお腹が満ちたが、これで夜を越えるのは厳しい。良いレストランはないかと探したが、見つからず、地元の中華ファーストフード・チェーン店に入った。だが、これは外れ。

 5:45、タクシー乗車(7RMB)。
 6:00、ホテル着。今日はハードな一日だった。もう何もしたくない気分。シャワーを浴びてゆっくり休もう。カードを挿入し、部屋に入る・・・。ガチャ、ガチャ・・・、空かないぞ。ガチャ、ガチャ・・・、開かない。
 この時点で、原因はほぼ判明している。過去にも似たようなパターンを食らったことがあるからだ。デポジット不足である。二泊するのに一泊分のデポジットしか払っていない。だから、部屋に入れないように設定されてしまったのだ。こう書くと私がミスをしたみたいだが、違うのだ。
 二泊すると決めた時点で、私はフロントに行き、「二日泊まることにした」と告げていた。フロントのスタッフは、「わかりました。手続きをしておきます」と簡単に答えるだけ。「でも、デポジットを足さなければ駄目だろ」と私が聞くと、「いえ、結構です」と自信満々に断ってきた。「本当にいらないの?」と重ねて聞く私に、そのスタッフは、しつこいね、キミはという調子で、「大丈夫です」と力強く繰り返したのだ。ここまで言われて、「いーや、俺はどうしても払いたいんだ!」とは主張できないものである。それで、やむなく引き下がった。その結果がこれである。

 「部屋が開かないんだけど・・・」。昨日は男性だったフロントが今日は女性。反撃の唯一のチャンスが去ったのを悟った。
 「カードをお持ちですか?」
 「これだよ」
 「・・・デポジット不足ですね」
 「二日泊まるって言ってあったよ」
 「・・・はい。そうなっていますね。でも、デポジットが不足してます」
 それだけか。二泊と記録されていて、なぜデポジットが不足しているかについての話はないのか。金が足りないのだけが問題というわけだ。しかし、ここで(恐らく何の結果も生まない)議論を展開するには疲れすぎている。
 お金を取り出しつつ、「デポジットを追加する必要はないって、フロントスタッフが言ったんだけどね」と告げてみる。が、私の言葉は、彼女の左耳に入って右耳から抜けてしまったようだ。全く反応なし。黙って、受領書を書き綴っている。自分の仕事はデポジットを集めることで、他のことは関係がないと考えているのだ。
 ああ、腹が立つ。本当にいないのか、昨日のスタッフは!!フロントの内側を見回すと隅に立っていた男がササッと姿を隠した。奴だ。きっと、奴に違いない。髪型がそっくりだった。だが、顔を覚えていないのでは役に立たない。
  女性スタッフが差し出した受領書を黙って財布に突っ込み、とぼとぼとフロントを離れた。
 
 エレベーターに乗り込むと、Zが「デポジット足らなかったの?」と話し掛けてきた。(駄目ねぇ、○○(私の名前))はという調子である。「デポジットは追加しなくていいって、昨日のスタッフが言ってたんだよ」と短く答える。フロントに対して追求しなかった以上、Zに不満をぶちまけても仕方がない。
  
 被害は少ないけれど、精神的にこたえる微妙な仕掛け。例えて言えば、地雷と地雷の間に忍ばせてあるバナナの皮。そこに足をのせてしまい、引っくり返って尾骶骨を痛めてしまったようなもの。しかし、そんな不愉快な気分も、隣のベッドで楽しそうにテレビドラマに浸っているZをみていたら、どこかへ飛んでいってしまった。Zの功能である。

 明日は靖西。今回の旅で一番スリルな部分。楽しみ、楽しみ。

2005年9月8日
 7:10、チェックアウト。
 費用は253RMB×2泊 + クリーニング代53RMB。初日にも書いたが、照明が明るかったのが良かった。不便だったのは、手ごろなレストランが周辺になかったこと。全体的には満足だ。

 7:20、昨日と同様52号線バスに乗車(1RMB/人)。南寧では、湖南省の長沙と同様、バス・ステーションは郊外の東西南北に振り分けられている。どのバス・ステーションへ行くのもタクシーだと、2,30RMBはかかってしまう。だから、バスで行くわけだが、停留所が多いので結構時間がかかるのが難だ。

 バスから外を見ると、時折、自転車のハンドル中心部に傘をくくりつけて走っている姿が見られる。深センでは見られない光景だ。じっくり観察すると、専用の器具で据え付けられているのがわかる。鍵付だ。雨は降っていないから日よけに使っているのだろうけれど、なんだか危うい感じだ。強い風が吹いたら、自転車ごともっていかれそうで怖い。こちらの傘は骨が弱いから、うまく折れて風を逃がしてくれるのだろうか。(後日、インターネットで調べていたら、日本でも販売されていることが判明。危なくないのだろうか)。

 7:40、北大バス・ステーション着。

【南寧を出発】

 

 8:00、バス発。「靖西」行きのバス(65RMB/人)は、全49座席の豪華型バス。これまで乗車した広西省の豪華バスは全て前部に大きなデジタル時計がついており、出発の時間厳守に並々ならぬ努力が払われている様子がうかがえる。

 今回も桂林からのバス同様、菓子パン二つ付で、一つは餡入り。桂林からのバスで出たパンほどおいしくはないが、なかなかのもの。バス乗車の前に仕入れたソーセージと卵も合わせてあっという間に平らげる私とZであった。食事を終えるとゆっくりしたいところであるが、運が悪いことに私たちの席はトイレのすぐ前にあり、シートがリクライニングできない。ちょっと外れ気分を味わう。

 やむなく配られた新聞を読み始める私たち。だが、今日の新聞は面白くない。Zも同じだったらしく、「今日の新聞はつまらないわ」と言って脇に放り出し、ひまわりの種を食べ始めた。私はやることがないので、外の風景に眺め入る。

 道路脇の風景を見ていると、養鶏所ならぬ養家鴨所が南寧の郊外にたくさんあることがわかった。一つ一つ数えていくと、とうとう十を超えてしまった。すごい数だ。南寧の一大産業というところだろうか。

 曇りがちの天気に誘われるように、ウトウトと居眠り。目を覚ますと、Zが「さっき、昨日行った『龍虎山』の前を通ったわよ」と教えてくれる。そうか、そうすると、この道は大新へ続く道というわけか。

【大新で休憩】

 

 10:10、道脇の休憩所で休憩。お店の看板を見ると大新と書かれている。ここが大新か。街中は別のところにあるのだろうが、どんなところなのだろう。今回は「靖西」を選んだけれど、「大新」も負けず劣らず名所の多いところ。いつか来てみたいものだ。

 大新を過ぎると、本格的に山岳地帯に入っていく。道路は舗装されているものの、どんどん細くなる。

 この旅は「靖西探検記」の9月8日部分に続きます。ご興味のある方は是非ご覧になってください。

2005年9月10日
 この旅は「靖西探検記」の9月10日部分からの続きます。ご興味のある方は是非ご覧になってください。

 9:35、「田東」という街を通過。かなり大きな街だ。ずいぶん賑わっている。靖西に行くときは「大新」という街を経由したが、方角が全然違う。そう言えば、大新から靖西へ入る道がずいぶん細かった。かち合わないようにわざと違う道を選んでいるのだろうか。

 10:20、休憩所で休憩。

 12:30、「北大バス・ステーション」到着。未知の場所「靖西」から省都「南寧」に無事帰還を果たすことができた。だが、ゆっくりしている暇はない。深セン行きのエア・チケットを買わなければならないからだ。タクシーを飛ばして、チケット売り場へ行く。

  12:55、780RMB/枚で深センまでのチケットを無事入手。夕方遅くの出発なので、それまでどうやって時間を過ごすかだ。とりあえず、近くにあった東北料理屋で昼食を済ませる。Zが「今回の旅行は楽だったわ~」と感想をもらす。「前回(湖南省への旅行)はそんなに大変だったけ?」。「そーよ、寒くて凍え死にそうだったもの」。(それは、おまえが俺の言うこと聞かずにももひきはかなかったからだろ)。

【南寧駅】

 

 まだまだ時間があるので、タクシーで足マッサージ屋へ行く。腕のいいところを紹介してくれと頼んで連れっていってもらったのは、中国医学の学校が運営している足マッサージ屋。確かに腕はよさそうだが、なんだか華やかさがないよーな。そもそも、俺たち以外に客がいないようだぞ。

 2:45、足マッサージ終了。お店を出て、自転車力車をつかまえる。実は、昨日の強行軍の途中、私の腰財布(腰に回してズボンの中にしまっておけるもの)のチャックが壊れてしまった。お金だけでなく、パスポートなどを入れるものなので、万一のことを考えて修理しておくことにした。
 足マッサージの兄ちゃんに、だいたいの場所を聞いていたので、そちらへ行ってもらう。二人で3RMB。

【南寧市の下町】

 

 下町風景を眺めながら、自転車力車に乗っていると、ちょうど服の仕立て屋があったので、下車。お店の奥に声をかけると、おばさんが出てきた。さっそく財布の修理をお願いする。チャック交換で4RMB。修理が終わると、自転車バイクタク(自転車にエンジンをつけたバイタク)に乗って足マッサージ屋のあった通りまで戻る。そこからタクシーで南寧駅まで(空港行きのリムジンはチケット売り場の脇から出ており、南寧駅近くにあるため)。

 チケット売り場に到着すると、リムジンのチケットを購入(15RMB/人)。脇に停まっていたバスの運転手に尋ねると、出発は5時とのこと。まだ時間があるので、近所の店を回り、会社の人たちへのお土産を買いに回る。広西省はこれと言ったお土産がなかったので、タバコとお酒だけ買って終わり。お酒は旅行に出発する前の同僚の注文である。しかし、このお酒がとんだトラブルのもとに・・・。
 
 買い物を終えても、まだまだ時間がある。荷物をバスに乗せて、運転手に向かって「公衆トイレの場所を教えてくれ」と尋ねる。「そこのホテルの中にあるよ」と目の前のホテルを指さされた。(ホテルの中にあったら、公衆トイレじゃないだろ。まあいいけど)とホテルの前にあったプレートにふと目をやると、「公衆トイレ ホテル内 →」と書かれているではないか。おおっ、ホテル内に公衆トイレか。ちょっと理解不能。政府との取り決めか、ホテルのサービスか?

【トイレのマーク】

 

【リムジン停車所の前の通り】

 

 用を足し終わってバスに戻ると、Zが「まだ5:00まで時間があるから、その辺をぶらついてくるわ」と下車していった。確かにまだ4:00になったばかり。すでに土産を買い込んでしまったので、誰かが荷物番をしていなければならない。「時間までに帰ってこいよ」と送り出した。

【南寧市の飛行場までのリムジン】

 

 バスの出発は5:00。そのはずだったが、4:15になった頃、急に乗客が増え始め社内がばたつき出す。「出発は5:00だよね?」と運転手に尋ねると、「いや4:30だよ」との答え。「さっき、5:00って言ってたよねぇ」と目を丸くして確認すると、「それはさっきここにあったバスの運転手がそう言ったんだろ」とのこと。そう言えば、バスが違う。顔は覚えていないが、運転手も違うようだ。やばい、Zはどこに行ったんだ?間に合うかなあ。
 だが、4:25になっても戻ってこない。やむなく荷物を抱えて下車。次のバスで行くしかない。ところ、バスを下りて遠くに目をやると、こちらに向かってくるZの姿がある。慌てて手を振って呼び寄せ、バスの中の戻った。

 4:30、リムジン発。

 5:10、南寧空港着。チェックインまでまだ時間があるので、空港の中にあるお店を見て回る。Zが徳天瀑布で購入した25RMBの香水が空港では120RMB。Zは大喜び。同時に「もっと買っておけば良かった・・・」と後悔しきり。

 6:20、チェックイン。ボストンバックを預け、リュックは手荷物。Zはリュックだけなので、同じく手荷物。お酒は小さい瓶のセットであるが、割れるといけないのでリュックに詰め込んだ。

 パスポートチェックを終え、身体検査。ここまでは良かったが、リュックを検査用ベルトに載せたところで、ひっかかった。係員が「中にお酒が入っているだろう」と質問を私にぶつけてきた。「(えっ、駄目なの?お酒)・・・はい」。「お酒は手荷物にできない」。えっー、まさか。だか、考えている暇はない。100RMBもしないので、いらないと言って渡してしまう手もあったが、なにしろ、お土産のために買ったものである。なら、機内預かりにしなければならないが、ボストンバッグはすでに出してしまっている。今更、もう一度返せといっても無理だろう。私のリュックにはデジカメ等の重要なものが入っているので、絶対に機内預かりにはできない。
 仕方ない。後ろにいたZの手をひっぱって一緒にロビーへ戻った。「Z、おまえのリュックを貸してくれ。お酒を入れるから」。緊急事態なので、普段にはない強い語気である。一瞬、断りたそうな顔をしたが、私の殺気を感じとって、「わかったわよ。でも、お酒がこぼれたりしたら弁償してもらうからね」と捨て台詞を吐く。「わかった、わかった」と同意を示して、Zのリュックの中にあった服を私のリュックに移し、お酒をZのリュックに詰め込む。チェックインカウンターに戻って、事情を説明し、改めてZのリュックを機内預かりとする。

 再び、パスポート検査。係りの人たちはさっきの件を覚えてくれていて、二人とも素通り。中国はこういうところが、妙に柔軟である。日本だったら、こうはいかないのではないだろうか。身体検査もほぼ同様に素通りであった(一応、検査用ベルトに荷物は通したが)。

 無事搭乗ゲートまでたどり着いたので、あまった時間を消化するためにお店を回る。すると、お酒がたくさん売っているではないか。Zが「ここにお酒がたくさん売っているじゃない?なんで持ち込みは駄目なの」と口を尖らせる。お酒嫌いのZは、自分のリュックにお酒が詰め込まれたことに承服できないようである。
 そうだよなー。何で駄目なんだ?私自身お酒を飲まないので、お酒を機内に持ち込もうとしたのは初めてである。さっきまでは、引火する可能性があるからかとも考えたが、搭乗ゲートで買えるなら関係がないだろう。
 そう言えば、ミネラルウォーターは本物かどうかをチェックするためにその場で一口、二口飲まされると聞いたことがある。(というよりも、私自身飲んだことがあるような・・・)。恐らく、爆発の危険や毒性のあるような液体の持ち込みを防ぐためだろう。それと同じで、お酒の場合、飲ませるわけにもいかないから持ち込み禁止となっているのかもしれない。

 Zがお腹が空いたとうるさいので、二人でカップヌードルを食べる。一人でいたときは、空港でカップヌードルなんて食べたことがなかったのに、Zと旅するようになってから、半分習慣になってしまったかのようだ。

  その後は順調に搭乗。南寧空港に別れを告げる。

  夜9:00近くになって、深センに到着。
 
 問題はここから。私たちの住む街は空港から中途半端に近いため、タクシーがメーターでいくのを嫌がるのだ。昼間ならば、空港の駐車場の外まで歩いていって、バイタクやバスをつかまえることができるのだが、9:00を過ぎるとそうもいかない。Zに、「この時間にタクシー乗るのはけっこう大変なんだよ」と伝えると、「そんなことはないわ。メーター通りに払えばいいのよ」と言い張る。「いや、それだと、途中で降ろされちゃうこともあるよ」。「そんなわけないでしょ」。

 空港ロビーから外に出ると、さっそく客引きがきた。緑色タクシーである。緑色タクシーは、深セン特別区外しか走らない(走れない)格安タクシーとして数年前に導入されたものだが、今は合法的な白タクと化している。つまり、メーターは使わず、交渉の値決めである。

 まぁ、それでも本当(?)の白タクよりは安全である。夜の白タク乗車はなんとしても避けたいところだから、悪い選択とは言えない。「○○までいくら?」と尋ねると、「100RMB」との答えが返ってきた。ちょっと高い・・・。だが、こんな夜遅くだし、特別区内向けの赤色タクシーの方は行列になっている。あの中に混じって並んだ後、私たちの街の名前を告げたら、運転手は絶対に怒り出す。交渉がうまく行ったとしても80RMBがいいところだろう(以前に50RMBで行ってもらったことがあるが、その時は大喧嘩となった)。

  Zは「やめときなさいよ」と言ったが、二人で100RMBなら仕方がないと判断し、運転手についていく。ところが、タクシーの中をみると、すでに客がいる。相乗りをさせようというのだ。相乗りで100RMBはいくらなんでも高い。「やっぱりやめた!」と宣言。「そんなこと言ったって、ほかにタクシーはないぞ」。確かに緑色タクシーは彼の車一台しかない。「あっちにあるよ」と赤色タクシーを指差す。「あれは特別区内用だ。○○(私たちの街の名称)なんていってくれやしないよ」。「50RMBならいいよ」と私が取引を申し出ると、「二人だろ。100RMBだ」と即座に却下された。
 まぁ、すでに客を乗せているから、値段が合わないとおかしなことになるのだろう。「じゃぁ、やはり赤色タクシーにするよ」。それで、終わりかと思ったら、運転手は「そうか。わかった。絶対に乗せてもらえやしないよ。後で戻ってきたって、100RMBじゃ乗せてやらないからな。150RMB、いや200RMBだ」と怒りまくり。そこまで言うことはないだろうに・・・とは思ったが、相手にしていても仕方がない。すでにずいぶんと長くなった行列の後ろにつき、赤色タクシーを待つ。

 赤色タクシーに決めたものの、やはり不安だ。「乗せてもらえるかなぁ」と心配する私に、「大丈夫に決まっているでしょ」とあくまで能天気なZ。「だって、特別区内の客をつかまえれば、200RMB前後は稼げるんだぜ。俺たちをメーターで乗せていったら、下手すれば30RMBだよ」。「30RMBもあれば、たくさんじゃないの」。(いや、おまえの話をしてるんじゃないんだよ)。「とにかく、もしタクシーが50RMBでOKするようなら、それ以上文句をいうな」と釘を刺しておく。

  ようやく順番が来て、乗車。「どこまで?」という声に、「○○!」と自信たっぷりに答えるZ。途端に態度が硬化する運転手。「それはどこだ?」。「知らないの○○よ」。「知らないな」。運転手がよく使う手である。「○〇のすぐ隣よ。国道を△△に向かっていけばすぐよ」とあきらめないZ。「知らない。お前たちはどうやっていくか知っているのか」。「知ってるわ。そこを左に曲がって」と強気なZ。おおっ、すごい。これはいけるかも。でも、あんまり無理するなよ。
 「そんな近くへ行くのになんで緑色タクシーを使わなかったんだよ」と運転手は本音を出し始めた。「だって、100RMBだっていうんだもの。しかも乗合いよ」。「そんなことはない。メーターで行け、そうでなければ投書すると言えば、大丈夫だ。今は罰金をとられるから、皆言うことを聞くよ」。「いいじゃない。もう乗ったんだから、文句言わないでよ」。
 「俺は本当はおまえたち乗せなくても良かったんだぞ」。「だったら、なんで乗せたんだよ」と私もちょっぴり加勢する。「どこへ行くか聞いたときには、もう出口まで来ていたからだ」。「いや、出発する直前に○○だと言ったよ。(空港の監視員の前では)断れなかっただけだろ?」。「そんなことはない。赤色タクシーは、特別区外行きの客は断ってもいいんだ」と運転手はあくまでこだわる。
 「俺たちは2時間以上も並んでようやく客をとれるんだ。その上、空港にお金を払っているんだぞ。メーターでそんな近くのところに行ったら大赤字だよ。今度から、緑色タクシーに乗れよ」とふてくされて言う。「わかった、わかった」。
 「・・・○○まで、いつもいくらで行くんだ?」。
 言いたいこと言ったので満足したらしく、運転手は探りを入れ始めた。
 おおっ、この運転手。相場を知らないらしい。こんな夜だったら、100RMBと言われても断りにくいところだが、少し強気で言ってみよう。「50RMBだよ」。「メーターだったら、30RMBもしないんだからね」とZが追い討ちをかける。「・・・わかった、ならいいよ」。最低ラインをクリアーしたらしく、不承不承うなずく運転手。これは優しい運転手だ。こんな風に引いてくれる運転手はまずいないものだ。よほど投書を恐れているのか、一度罰金を食らったことでもあるのだろうか。Zも、空港のタクシー乗車の面倒臭さがわかったらしく、文句を言わない。もっとも、今日はZの大手柄。私は指図して街まで戻ることはできないから、私だけだったら、かなり厳しい戦いになっていたところだ。
 「次からは緑色タクシーに乗れよ」と運転手は何ども繰り返すが、Zも「もうわかったわよ。ここまで来たんだから言わなくてもいいじゃない」とその度ごとに答えを返す。どちらかが黙れば終わると思うのだが、どちらも黙らない。この辺のしつこさはどうも私には理解できない。

 9:15、アパートの近くに無事到着。果たして留守番中のグッピーは無事生きていてくれるかな?

  これで、広西省の旅は終了です。長い間、ご覧頂きまして、誠にありがとうございました。