岳陽市の旅


灰色の部分が湖南省です。

2005年2月6日
 「長沙市の旅」の続きです。ご関心のある方は「長沙市の旅」もご覧になってみてください。
 
  夕方5:20、ようやく「岳陽駅」に到着。列車内にゴミが散らばっているということもなく、非常に清潔だった。でも、やっぱり「無座」は辛い。立ちっぱなしだし、いつも背を他人に向けていなければならないので、気を抜くことができない。そんなことを考えながら、改札を抜けた。

【岳陽駅】

 

 気温は、「長沙」よりもさらに低いようだ。夜に差し掛かっているということもあるだろうが、それよりも風が強いことの方が気になる。こんな寒さの中でも、駅前の道路には自転車力車がいっぱいとまっている。彼らのバイタリティには驚くほかない。

  道路を横切って、「中銀大酒店」に入る。「地球の歩き方」で紹介されていたホテルだ。外観からすると、ずいぶん高そうな感じだが、「長沙」から電話で確認したときには、190RMBぐらいの部屋があった。果たしてどうか。

【中銀大酒店】

 ロビーを抜けてフロントの前に立つ。宿泊料金を尋ねると、「228RMB」とのこと。「2日泊まると安くならない?」とZが聞いたが、「例え10日泊まっても安くならないわ。この部屋は特別に安くしてあるんだから」との答えであった。「電話で聞いたときには190RMBぐらいの部屋があったんだけど・・・」と突っ込むと、一瞬顔に動揺が走ったが、キーボードを叩きながらモニターを眺めつつ、「もうその部屋はいっぱいなのよ」と言ってきた。うーん、最初から電話で尋ねた料金をぶつけたほうが良かったのかなと思ったが、こればかりはなんとも言えない。とにかく部屋の下見だ。

  部屋は設備も整っていて、十分すぎるくらいだった。三ツ星とあるが、四ツ星に近い。再び一階まで戻り、チェックインを済ませた。

 「長沙」であちこちを回ってきた後に列車に「無座」で乗ったので、ずいぶん長い一日を過ごした気がする。だが、まだ休むには早い。シャワーで汗を洗い流し、夜の岳陽へ出発(7:35)。

 まず、ホテルから100メートルほどのところにあるデパートで買い物。最近、インターネットで学んだ湯たんぽ式風邪防止法を実践するために、携帯湯たんぽを購入した。この湯たんぽにお湯を入れ、首の裏にあてて暖めておくと、風邪をひきにくいらしい。本当かどうかわからないが、しばらくは実践だ。そして、唐辛子の粉も買った。これは実家へのお土産用だ。本場湖南の唐辛子。喜んでもらえるだろうか。そして、Z用のシャンプーも買った。Zはホテルのシャンプーが嫌いで、いつも市販のシャンプーを使う。私には違いが全くわからないのだが、ホテルのシャンプーは非常に質が悪いのだそうだ。

 デパートを出るとすでに8:20だ。思ったより買い物に時間をくってしまった。だが、手頃なレストランが見つからない。列車の乗客向けの小汚い食堂ばかりだ。あきらめてホテルで食事をすることにした。ところが、ホテルの一般用レストランは結婚式か何かで占拠されており、残っているのはやたら高そうな高級レストランのみ。やはり、外で食べようと移動開始。ところが、ロビーに出る寸前の通路でZがオジイサンに激突。オジイサンは通路をまっすぐにやってきて、Zは階段からロビーに出ようとしたところなので、どちらかというと、Zの方が悪い。オジイサンはZの頭突きを物ともせず先へ進んだが、一緒にいた家族の人が丁寧に謝ってくれた。
 その場はそれで済み、ロビーを抜けて外へ向かう。だが、Zの怒りは収まっていなかった。「本当に運が悪いわ。顔からぶつかるなんて、それもあんなオジイサンに!ハンサムな男にぶつかるんだったら、まだいいけど、あんなオジイサンよ。最悪!」と理不尽な怒りを撒き散らしている。「岳陽って最低!」。オイオイ、これだけで岳陽嫌いか?と思いつつ、懸命になだめる。

 ホテルを出て、横の通りをみると、裏の辺りにレストランがある。ラッキーとそちらに向かった。「美食・・・」というありきたりの名前がついたお店だったので、味もたいしたことないだろうと思ったら大間違い。注文した「干鍋鶏」がすごく美味しい。同じ「干鍋鶏」でも、深センのものとは全然違う。唐辛子料理でも、こんな味を出すこともできるんだとホトホト感心した。値段が45RMBということもあって、長沙で食べた「干鍋鶏」よりもさらにうまかった。唐辛子の味が肉の奥まで染みとおっていて、しかも舌に深く広がっていく感じだ。最初は、「岳陽は嫌いよ」と口を尖らせていたZも、「おいしーわねぇ。こんなに美味しいの、食べたことがないわ」とすっかり上機嫌になった。

 9:50、ホテルに戻る。今日も良い一日だった。明日は岳陽市内の観光地巡りだが、気温は下がる一方だ。どうなることやら。

2005年2月7日


 7:40、部屋を出て朝食バイキングへ向かった。
 朝食バイキングというと、洋式と中華の混合バージョンが多い。ここのホテルもそうだが、どちらかというと中華系のバイキングであった。私は中華が嫌いなわけではないが、ホテルの朝食というとどういうわけか洋式を期待してしまう。だから、あまり嬉しくない。一方、Zは基本的に洋食が好きではないので、中華バイキング大歓迎だ。ここの朝食はおいしーわねぇ、とパクパクお腹に詰め込んでいく。食べるペースに関しては、普段、Zと私はほぼ同じである。非常に良いコンビだと思っているが、さすがに中華の朝食では負ける。寿司だったら、私も朝からガンガンいけると思うんだが・・・。

 9:20、食事を終えてホテルを出発。雨は小雨だが、風が強い。こんな天気の中でも自転車力車が懸命に走っている。誰も生きるために必死だということか。しかし、乗っている客もすごい。歩いた方が楽なのではないかと思うけれど、どういう人が利用するのだろうか。

 9:30、タクシーに乗って、「岳陽楼」へ向かった(8RMB)。
 9:40、「岳陽楼」到着。入場料は46RMB/人。たっ、高い。外から見た感じではたいした観光地のようにも見えない。最近、中国の観光物価ははねあがり過ぎだ。だが、「岳陽楼」は、岳陽一の観光地。市内ではここを超える観光地はない。しぶしぶチケットを購入し、中に入った。

  門を抜け、敷地に入ると、いきなりオバサンが現れ、「ガイドはいらないか」と繰り返し声を張り上げる。(かんべんしてくれよ)と顔をそむけながら、まっすぐ進んでいくと、今度は土産物屋があり、出てきたスタッフたちが「見ていけ、見ていけ」の大合唱。ムードも何もあったものではない。

【岳陽楼-入り口-<1>】

 

【岳陽楼<2>】

 

  逃げるようにして進んだ先に短い石段がある。そこを上がると、すぐに「岳陽楼」だ。岳陽楼へは、ビニール袋の簡易スリッパで靴を覆って上がるようになっている。しかも、重量制限あり。今日は観光客が少ないので自由だが、観光客が多いときには一度に上れる人数を制限されるそうだ。重量制限といわれると、なぜか心が痛む。

【岳陽楼<3>】

 

 一番上の階は、ベランダ(?)がなく、外には出れない。部屋の中には、大きな字が額縁の中に並べられていたが、意味がわからない。少しは下調べをしてくればよかった。これではありがたみが半減だ。

 他の階は外をぐるりと回って景色を楽しめるようになっているが、天候のせいで、床がつるつると滑る。Zが「ホラ、危ないわ、危ないわ、危ない、危ない!」とうるさいので、数メートル歩いただけで、部屋の中に戻った。

【岳陽楼<4>】

 

 隣の建物も2階まで上がれる。いわれを知らないと面白くもなんともないが、綺麗な建物ではあった。ここを降りて外に出ると、この寒さにも関わらず、けっこうな人数の観光客がやってきていた。今日の天気でこれだけの人が集まるなら、天気の良い日は相当な数の観光客がやってくるのだろう。岳陽楼の重量制限もうなずける話だ。

【岳陽楼-洞庭湖-<5>】

 

  岳陽楼のすぐ前には「洞庭湖」が広がっている。季節や時間によっては美しい風景となるのだろうが、少なくとも今日の「洞庭湖」には魅力を感じない。ただ、広いことは非常に広そうだ。

 昨晩は、どうやら雹や霰が降ったらしく、石造りの欄干の上の所々に氷の粒がこびりついている。「道理で今日は寒いわけよねぇ」とZがうめく。私が住んでいる広東省では、霰どころか雪も降らないのでひどく希少なものをみた気分になった。

【岳陽楼<6>】

 

 岳陽楼を抜けると、右側に「入場無料」と書いてあるプレートを張り出した小さな建物が現れた。(どうせ土産物売り場だろう・・・)。Zが興味をもつといけないので、さり気なく反対方向へ向かおうとしたが、彼女の目を欺くことはできなかった。「無料だって!入りましょうよ」とすかさず私の手をひっぱって、建物へ向かってグングン歩き始めた。懲りない奴だなあと思ったが、考えてみれば、Zはまだ観光地慣れしていない。付き合ってやるしかないかとしぶしぶ後に続いた。

 入ってみると、案の定、土産物屋。女の子たちが、次々にセールスを始める。嫌気が差して、引き返そうとすると、「道順が決まっています。こっちを通ってください」とグルリと一周回らせようとする。冗談じゃないぞ、と無視して戻ろうとするが、Zまでもが「こっちを通らないといけないんだって!」と手を引っ張る。何かいい物があるのではないかと考えているのだ。とことんヤラレナイとわからないようだ・・・。肩を落としながら後をついていく。だが、案の定、押し売りセールスみたいなのが次々に出てくるだけで、見るべきものは何もなし。わずかな面積の中でよくこれだけセールスするものだ。耳が痛くなるほどうるさい。チラリとZをみるとさすがに辟易したらしく、顔色が変わっている。グルリと一周して門の外に出たときには、カンカンになっており、「何にもないじゃない。土産物ばかり!ひどいわ」とわめきまくった。

【岳陽楼-小喬の墓-<7>】

 

 続いて、「小喬の墓」。ここでも激しいセールス攻撃が続く。しかし、三国志で有名な呉の周瑜と縁の深い女性のお墓ということなので、それなり心をひかれ(ここがあの周瑜に愛された女性のお墓なんだなー)と思いをめぐらせていたが、Zはさきほどの土産物屋以来、セールスアレルギーとなったらしく、「ここもセールスばっかりで何もないわよ!」と私の手を引っ張ってグングン前へ進もうとする。「わかった、わかった」と腰をひきひき後へ続く。騙されるのは仕方がないが、その反動で極端に走られると、こんなちょっと弱ったことになる。もう少しバランスよく行動してくれると助かるのだが。

【岳陽楼<8>】

 

 湖側の階段を下っていくと、城壁の外から岳陽楼をみることができる。ここから眺める岳陽楼はお城っぽくていい感じだ。

【岳陽楼<9>】

 

 この辺りには土産物屋もないので、沈んだ雰囲気の洞庭湖とともに、冬の岳陽楼を静かに楽しむことができる。

【岳陽楼<10>】

 

 グルリと一周して、今度は裏から岳陽楼を眺めて出口へ。

【岳陽楼-洞庭湖-<11>】

 

 最後にもう一度、売り子さんのセールス攻勢を受けて、外へ(10:40)。もっといい天気の日に洞庭湖を眺めてみたいが、そのチャンスはないかな?

 次は「魯粛の墓」へ向かう。地図でみるとすぐそばなのだが、地図と実際の道路の位置が一致していない。二人でウロウロしているうちに、突然、雹が降ってきた。小さいけど、ちょっと痛いぞ。結局、再び「岳陽楼」のところまで戻ってきて、今度は、商店街のお店の人に場所を尋ねまくる。ところが、皆、知らない、知らないと首を振る。・・が、奥に入ったところにある露店のおばさんがようやく、「向こうよ」と指を指してくれた。そちらの方向へ歩くこと5分。ようやく「魯粛の墓」登場。

 「魯粛の墓」だ。いやー、日本にいた頃は三国志のゲームが好きで、よくやっていた。だが、まさか、あの「魯粛」の墓を訪れる日が来るとは、想像だにしていなかった。これは感慨深いぞ。しかし、この「魯粛の墓」、ボロボロである。もうちょっと大切にしてあげてもいいと思うのだが、或いは、歴史学的には根拠のない場所なのかもしれない。入場料は3RMB。

【魯粛の墓<1>】

 

 「魯粛の墓」は真上まであがることができる。真上というと、なんだか遺体を踏みつけにしてしまうようで落ち着かないが、あがれるようになっているのだからあがっておこう。このお墓は決して小さくはないけれども、手入れらしい手入れがされていないのが残念だ。ともあれ、偉大な魯粛さんに合掌。

【魯粛の墓<2>】

 

【魯粛の墓-周辺の風景-<3>】

 

 お墓を降りたところには小さいが記念館があり、魯粛の活躍が記されている。

 そして、外へ。次は、「岳州文廟」だ。だが、「魯粛の墓」に輪をかけて場所がわかりにくい。再び訪ね歩きながら、「岳州文廟」が存在するであろうと思われる方向へ向かう。観光地点と観光地点の間の距離は、以前に江西省の九江をまわっていた時と同じなのだが、現在は真冬。寒さが徐々に体力を削ってゆく。Zが「もうホテルに帰らない?」と泣き言を言い出した。薄着だから、寒くて仕方がないのだろう。(だからもっと着込んでこいと言ったのに・・・)と思ったが、そんなことを言っても始まらない。「じゃぁ、一回ホテルに戻って、もう一度出直してくるか?」というと、「いいわよ。このまま続けましょう」としぶしぶ口にした。旅行なのに、なんでこんなに大変な思いをしなければならないの?と恨めしげな眼で私を見る。「だから、俺と一緒の旅行は大変だぞって言っただろ。これでも、相当ペースを落としているんだぞ」と逆に非難すると、肩を落として、「わかったわよ。いきましょ」と足を前に進めた。

【岳州文廟<1>】

 

 夜になったら、真っ暗になってしまいそうな、電灯のない道を進んで、ようやく、「岳州文廟」へ到着。だが、現在、補修工事中らしく、入場はできなかった。私は次の目的地へ行こうよとZの手をひっぱったが、Zは門の前で考え込むように立ったまま動かない。どうやら、諦めきれないらしい。突然、「あっちの方も見てみる!」と言って、塀をたどって裏へ回ろうとしだした。「いくらなんでも、無理だよ」と言ったが、耳に入らないようだ。やむなく後に従う。
 最後まで頑張ったZであったが、裏は、公園になっていて「岳州文廟」との間はやはり塀で仕切られておりどうしようもない。さすがのZも断念。「せっかくここまで来たのに悔しいわねぇ~」と口にしながら「岳州文廟」を離れた。

【岳州文廟<2>】

 

 私たちが来た道は裏通り(位置的には横ですが・・・)らしく、表通りは、ひどく老朽化はしているが、それなりに道は整っていたようだ。周囲の建物全体が老朽化しており、改築工事が徐々に進められている様子であった。来年辺りは、立派な観光地として復活しているのではないだろうか。

【岳州文廟<3>】

 

 12:15、タクシーをつかまえて「慈氏塔」へ向かう。歩いて行きたかったのだが、Zに取り合ってもらえなかった。

 5分で、「慈氏塔」の見える場所へ到着。ガイドブックによると、この辺りは「老街」と呼ばれる地域。「老街」と名のつく地域はあちこちの観光地にあるが、いい感じに古くなっている所と、ただ建物がボロイだけというものの二種類に分かれる。福建省福州市の「老街」は前者、広東省汕頭市の「老街」は後者だが、岳陽のはどうやら後者に属するようだ。

【慈氏塔<1>】

 

【慈氏塔<2>】

 

 細い路地を抜けて、慈氏塔へ到着。一応政府から指定された観光記念物になっているようだが、手入れはほとんどされていない。その上、塔と住民の家の距離が2メートルもない。周囲の家を買い上げて、綺麗な公園にしてしまえば立派な観光資源になるだろうに残念なことだ。

【慈氏塔<3>】

 

 さあ、次は君山公園へ行くぞ!と気合を入れて歩き出す。ところが、気がつくとZが横にいない。慌てて振り返ると、十数メートルほど後方にZがいるのが目に入った。懸命に手を振りながら、通りの向かい側に停車しているタクシーに向かって歩みを進めている。おおっ~、そこまでしてタクシーに乗るのかと感心してみていると、Zが反対車線に入った途端、タクシーはゆっくり逃げるようにして走り去っていった。Zはそのあとをトコトコと追いかけていくがもちろん追いつけるわけもない。笑いをこらえ切れないでいる私のもとへ意気消沈したZが戻ってきて、何か文句ある?と言った様子で私をにらむ。「まぁ、まぁ、フェリー乗り場は近くだから・・・」。そういって、Zをなだめる。「着いたときにタクシーを待たせておけばよかったのよ」とブツブツ文句を言うZであった。

 途中で市場に立ち寄ったりしながら、12:40、「南岳坡フェリー乗り場」のそばへ到着。ここから、「君山公園」行きのフェリーが出ているはずだ。ここまでの路上、「君山公園」行きのバスともすれ違ったが、あのバスで行ったほうがいいんじゃないの?というZの声を無視して歩き続けたのだ。もちろん、フェリーのほうが楽しいだろうという単純な思惑である。入り口近くのところに、「君山公園行き」と大きい文字で書かれた看板が船の絵とともに張り出されていたので、もはや間違いなしと勢い込んで、「ホラ、もうすぐだよ」とZを振り返るが、Zはひどく不機嫌そうな顔をして、早足で港の方へ向かう。

【南岳坡フェリー乗り場】

 

  Zはどんどんスピードを上げて、姿を現した大きな船へと乗り込んだ。あまりの早歩きに私は追いつくのがやっとである。この船は、すでに動くことがなく、桟橋兼チケット売り場となっている。ここから出ているのは、今はモーターボートだけとなっているらしい。ちょうど、出発間際のボートがあり、二十人近い客が乗っている。完全に定員オーバーで、客はほとんど立ち上がっていて、転覆したら大変なことになりそうだ。

 ボートの前部に札がぶる下がっていて、行き先が書いてあるのだが、「君山公園」行きがない。チケット売り場のスタッフに聞いてみると、ここからは「君山公園」行きは出ていないのだという。Zが、貴方のせいよ、と言わんばかりに私を睨む。「いや、ホラ、看板出てたじゃないか。季節のせいだよ」と懸命に言い訳するが、Zは聞く耳をもたない。「岳陽楼のところにフェリーのチケット売り場があったでしょ。あれに乗れば良かったのよ」とさらに責め立ててくる。
 「でも、あの時、乗るわけにはいかないだろ。まだ、他に行くところがあったんだし・・・」と説明するが、そっぽを向いて聞かない。「まぁ、まぁ、とにかく今から行くしかないよ。これからホテルに帰ってもやることないだろ」。「知らない!」。完全にお怒りモードである。

 途中、小さなお店で、湖南特産と思われるの鴨の首の燻製をZが購入。隣の店で、ミカンも買う。道路まで出たところで、Zが「バスで行くわ!」と宣言をする。「バスなんてあったっけ?」と問うと、「何言ってるのよ、『君山公園』行きって札をつけたバスを何度も見かけたでしょ。私があれに乗ったらって言っているのに、フェリーで行くって聞かなかった癖に」。「そうだっけ?・・・いや、やっぱりフェリーで行ったほうが楽しいし・・・。岳陽楼のところからフェリーで行かないか?」。「駄目!」

 というわけで、バスで行くことになった(12:56)。バス停の表示では15号線となっている。バスを待ちながら、Zがミカンを食べ始める。みるみるうちに、機嫌がよくなっていく。そうか、お腹が空いていたんだな。

 バス乗車(1:05)。君山公園までは5RMB/人。チケット売りの女性によると、45分ぐらいかかるらしい。乗車すると同時に、Zが鴨の首を食べ始めた。二三口食べたところで、食べる?と私にも一本差し出すので、試しにトライしてみたが、おいしくない。おいしくないというよいも、鴨の「首」と聞いた時点でも、ゲテモノ嫌いの私はもうダメである。だいたい、骨ばかりのこの「首」のどこを食べるのか、不思議でならない。Zの食べ方をみていると、むしゃぶるような感じであるが・・・。

 20分ほど湖に沿って走り、それから巨大な橋に突入。実に立派な橋だ。珠海のときもそうだったが、こんな人がほとんど住んでいないような島にも、総工費何億円もかかっていそうな橋がかかっている不思議。いったいどうやって採算を合わせるのだろうか。何か貴重な資源でも眠っているのかな?

 橋を降りた後、バスは再び陸地を走る。すぐに着くのかと思ったが、意外と長い。野原と田んぼばかりの道をひたすら進む。

 1:45、「君山公園」着。キップ売りの女性が、「帰りの最終便は5:30ですよ」と知らせてくれる。

 「君山公園」の入場料は41RMB(その他の費用を含む)。何もなさそうな場所なのに、すごく高い。だが、ここまで来てしまった以上選択の余地はない。入場。「チケット売り場」のオバちゃんたちは、自分が外に出たくないのだろう。私たちを売り場の小屋の中に導きいれ、チケットを渡す。観光客は私たちと子供ずれの家族の二組のみ。

 小屋を出て、外へ。小屋の中が暖房で暖かかっただけに、外の寒さが身に染みる。歩き出してみるが、「公園」と名称についているだけに、何もなさそうな雰囲気だ。果たしてバスで40分以上もかけてくる価値のある場所なのだろうか。Zを恨むわけではないが、フェリーでやってきたのなら、船に乗ること自体で楽しめるが、バスでやってきたとなると、「公園」自身が楽しめなければ話にならない。まぁ、とにかく先へ進むとしよう。

 道路以外には茶畑がみえるだけだ。ガイドブックによると、ここでとれるお茶はすごく高額なものらしい。しかし、湖(「洞庭湖」)が全く見えないのはどういうわけだろう。フェリーでも、ここにこれるのではないのか。視界のはるかかなたに、河のようなものが見えるがあれが湖か。公園の外側は、農地のようなそうでないような草叢が広がっている。あるいは、夏になると、ここまで湖が広がってくるのかもしれない。

 ところどころに竹が植えてあり、近寄ってみると、葉っぱから零れ落ちる間際で水滴が凍って固まっている。「うっ、うー、寒いなぁ」と思わず身をふるわせる。昨晩はよほど寒かったらしい。 

【君山公園<1>】

 

【君山公園<2>】

 

【君山公園<3>】

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【君山公園<4>】

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 しばらく行くと立派な建物が見えてきた。階段を上って中に入ってみると、どうやらお寺のようだ。さらに上っていくと、お坊さんに引き止められ、「どれでも好きなお坊さんの絵を選びなさい」と話しかけられた。周囲を見てみると、階段の両脇の木製の壁にお坊さんの絵がずらっと並んでいる。これは五百羅漢というやつだろう。岳陽楼のセールス攻撃を受けて以来すっかり疑い深くなったZは、「こんなのに構わずに行きましょうよ」と冷たい。でも、一応お坊さんのいうことだ。ちょっとぐらい言う通りにしてやっても罰は当たるまい。そう思って、一つ、二つ、と数え始める。そして、私の年の数のところまで来たところで、お坊さんが「これは〇〇羅漢ですね。〇〇羅漢ですよ」としつこく口にする。「わかった。わかりました」と答えて、さらにまっすぐに進む。すると、突き当たったところで、壁にたくさんのお札を並べた場所があり、座っているお坊さんが「貴方はどの羅漢でしたか?」と尋ねてきた。お札をのぞくとそこにはさきほどの五百羅漢が一枚につき一人描かれている。なるほど、ここでお札を売りつけるために、あそこでお坊さんの絵を数えさせたというわけだ。なかなか凝ったセールスだ。というか、凝りすぎだ。お寺でこんな商売やったら駄目でしょう。「いらない」と冷たく答えて、今度は反対側から階段を下りる。私はそれほど信心深くないが、お坊さんに向かって「いらない」と言わなければならないのは、ちょっと心が痛む。嫌な商売を考えるものだ。

  階段を下りていくと、出入口が右と左に一つずつある。最初は左側に向かったが、満面に笑みを浮かべたセールス・スタッフの女性が姿を現したので、慌てて右側へ。出入り口を抜けて左側に目をやると、その女性が刺すような目をして、「そっち側は、『死路』よ」と言い放ってきた。おいおい、お寺でそんな不吉なこと言うんじゃねぇーよ。無視して階段を下り続ける。実は、この「死路」という言葉、湖南ではやたらよく聞く。ガイド学校で教えてでもいるのだろうかと疑いたくなるぐらいだ。

【君山公園<5>】

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 お寺を出て、道なり進んでいくと、中途にアスレッチック場が現れた。誰もいないので、アスレチック場も元気がない。そして、大きな池に出る。ここはけっこう美しくつくってあるが、人口池であるため今ひとつ雰囲気がない。中国にはどこにでも人工の美しい池があるが、彼らの眼には自然の池と人工の池の相違はどのように映るのであろうか。日本人が庭に小さな池を作って、喜んで眺めているのと同じ感じなのかな?

【君山公園<6>】

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 道の脇にある石造りのテーブルと椅子の上には霰がこびりついている。さきほど振った霰だろうか。

【君山公園<7>】

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 本当に何もない場所だ。公園だから、仕方がないが・・・、とぼやいていると、なにやら砦らしきものが現れた。中に入ってみると、兵士たちの人形たちがたくさん立っている。城壁も人形もまだ新しく、無理やり作った感じだ。さして面白いものも置いてないので、ぐるりと回っただけて外へ出た。

【君山公園<8>】

 

 地図が立ててあったのでのぞいてみると、船着場がすぐに近くにあることがわかった。もしかしたら、フェリーで帰れるのだろうか。勢い込んでそちらへ向かう。Zが後ろで、「○○(私の名前)、船に乗りたいんでしょー」とからかう声が聞こえる。

【君山公園<9>】

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 船着場へ到着。だが、水がない。いや、あることにはあるが、はるか遠く。まさか、あんなところで客を待っているということはないだろう。ちょっと歩いていって見たい気もするが、途中でずぶずぶと地面の中に吸い込まれそうだ。きっと夏になると、ここまで水がくるのだろう。しかし、すごい距離だ。本当にこんなところまで水がやってくるのだろうか。ここまで水がくるようだったら、けっこういい眺めだし、「君山公園」の価値もぐっとあがるというものだ。

【君山公園<10>】

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 2:50、バスが到着した場所まで戻ってきた。すっかり体が冷え込んでいる。チケットを渡すときには中に入れとうるさかった売り場のおばさんも今度はドアを閉めたきり出てこない。まぁ、バスは20分に一回くるという話だったから、すぐに来るかな。

 だが、いくら地平線を眺めても、一向にバスは来ない。待つこと30分。ようやくバスがやってきた。乗車(3:20)。

 乗車したものの、バスはなかなか出発しようとしない。10分待って3:30に発車。ほっと一息だ。Zはさっそくリュックサックを空け、またもや鴨の首にむしゃぶりつく。家族連れがちょうど私たちの前の席に座ったため、子供(4,5才)がZをうらやましそうに眺める。Zは食べ物を分けようとはしなかったが、食べ終わると、子供とにらめっこをしたりして遊びだした。Zが子供と夢中で遊んでいるうちに、乗客が徐々に増え、ほぼ満席になった。駅までの路線だから、けっこう利用者が多いようだ。

 4:15、突然、バスが停止。なんとガソリンがなくなったらしい。同じ路線のバスが来るのを待って、ガソリンを譲ってもらうとのこと。乗客はみな慣れた様子で、座席から動こうとしない。ところがZは我慢できないらしく、下車してタクシーを捜そうよ、とうるさい。「でも、かなり辺鄙な通りだぞ。タクシーなんかみつからないんじゃないか?」と言ってみるが、下車すると言って譲らない。やむなく、一緒にバスを降りた。バスの中にいるときは気づかなかったが、外は相当寒い。タクシーも全く通らず、Zは「やっぱりバスに戻ろうか?」となさけないことを言う。待つこと15分。タクシーは通らなかったが、別の路線を走るバスが来たので、これに乗車。

 このバスで「南岳坡フェリー乗り場」そばのバス停まで行き、下車。そして、駅行きのバスに乗り換える。4:50、駅に到着。

 明日は、「張家界」に向かわなければならない。列車で行くとなると、どうしても「長沙」でいったん下車しなければならず、そうなると、時間のロスがどれくらいになるか読めない。直通バスがあると便利なのだがなあと考え、バス・ステーション探しに出ようとするが、Zが大反対。「もう寒くで駄目!早く列車のチケットを買ってホテルに戻ろうよ」と半分怒ったような声を出す。さきほど途中下車したときにだいぶ体を冷やしてしまったらしい。「だから厚着しろって言っただろ」と責めてみるが、なにしろ、もう唇をガタガタ言わせている。これではどうしようもない。駅に入り、「長沙」までの列車のチケットを購入(5:30)。ホテルに戻る。

 ホテルに戻って暖まると、Zは再びご機嫌になった。今日は、疲れているということで、ルームサービスを頼む。ルームサービスと言っても、ホテルで料理したものではなく、昨晩食事をしたホテル裏のレストランからの出前だ。出前をすると、ホテル側が15%とると書いてある。ちょっと無駄遣いだが、もともとの値段が安い。電話で注文を出した。

 食事は30分ほどで到着。テーブルの上に広げて、二人でたらふく食べる。ちょっと注文しすぎたようでだいぶ余ってしまった。

 食事を終えて、小休止。8:00になったところで、夜店にいこうよとZを誘うが、「今日は疲れたので行きたくない」という。疲れたのではなく、テレビが見たいのだ。やむなく私一人で出発。

 タクシーに乗って、商業街へ(5RMB)。

【岳陽商業街】

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 5分ほどで到着。だが、小雨が降っていることもあって、人がほとんどいない。街並は長沙ほどではないが、こちらも建築したばかりらしく、かなり綺麗だ。でも、大部分の店が閉まっており、全く楽しめない。諦めて、タクシーでホテルへ戻った。

  正直言って、岳陽にはあまり楽しめる観光地がなかった。だが、ホテルは安くて快適。なおかつホテル裏のレストランの「干鍋鶏」が非常においしかった。(Zは今でも、湖南旅行で食べたうちで、一番美味しかったと言っている)。数年後には、観光地がもっと整備されて、けっこう楽しめるようになっているのではないだろうか。

  さあ、明日は、「長沙」まで列車だ。チケットをみると、やはり「無座」と書いてある。また、立って行かねばならないのだろうか。心配しながら、眠りに着いた。

2005年2月8日
  5:30、起床。Zを揺り起し、目を覚まさせる。「(春節の)年越しから、こんなに早起き起きをしなけりゃならないなんて、もうたいへーん」とぶつぶつ言いながら、ベッドから出てきた。

 6:10、ホテルを出る(228RMB/泊)。今朝は大雨だ。でも、今回は駅まで近いので、ずいぶんと楽だ。6:30、改札を抜け、電光掲示板をみる。長沙行きの乗客は第三待合室が指定されている。待合室に入る前に、Zがカップラーメンを購入。お湯を入れてもらっていそいそと待合室へ入り、席について美味しそうに食べ始めた。「○○(私の名前)も食べる?」とこちらに箸で麺を寄越すが、首を振って断る。朝からインスタントラーメンとは、若いなぁ。

 7:10、改札が開き、プラットフォームへ降りる。列車はまだ来ていない。中国では、一般的に列車が到着してから乗客をプラットホームへ下ろすのだが、たまにこういった例外もある。さきほどの大雨で、靴もズボンも湿っている。寒い。Zと一緒に文句をいいながら、じっと列車の到着を待った。
 

【駅の待合室】

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 7:35、ようやく列車が到着。乗客がどっと乗り込む。早朝の出発のため、昨日と違って列車内はガラガラ。あまりの相違にびっくりしたのか、Zが「ここは食堂車でしょ」とわけのわからないことを口走り、別の車両に移ろうとする。慌てて、「違う、違う。この車両でいいんだよ」と押しとどめ、席に座らせた。あやうく席が全部埋まってしまうところだ。乗客が少ないから、座れないということはないが、できれば相席は避けたい。

 どかり。ふぅ~、座れたよ。列車が動き出して、ほっと息をつく。一昨日と同じ「無座」のチケットだから、立ちっぱなしになることを覚悟していただけに、非常に嬉しい。神サマ、仏サマ、本当にありがとう。

 しばらくすると、朝食を売りに列車のスタッフが回ってきた。中国式ラーメンだ(中国式ラーメンは薄味で軽く、朝食に日常的に利用される)。さっそく一つ買う。どんぶりの中には、肉とゆで卵とキノコとほうれん草が入っている。それと、粉末ミルクを溶かした飲み物が一杯付いて、10RMB。さっそくスープをすすって、冷え込んだ体を温める。うーん、列車でラーメンを食べるのは、たぶん初めてだ。普段だったら、なんだか腹を下しそうで食べる気になれなかっただろうが、今日ばかりは別だ。中国の列車の配慮に感謝を捧げる。粉末ミルクだって、いつもだった絶対飲まない。でも、今はありがたい。うれしそうに飲み食いする私を、インスタントラーメンで満腹になってしまい、もはや食べることができなくなったZがうらやましそうに見つめた。

「岳陽探検記」はここまでです。続きは、「長沙探検記」の2005年2月8日分からになります。ご興味のある方は是非ご覧になってください。