銀川市の旅1


2009年8月15日
 本日は5:00起床。シャワーを浴び、ささっと着替えを済ませて、Zを起こした。いつもの旅行なら、真っ先に起きるはずのZが今日はなかなか寝床から出て こなかった。一昨日、昨日と旅行のことで頭がいっぱいになっていたZは、昨日寝付かれず、寝不足のようだ。
 マイクは昨晩ペットショップに預けてきた。マイクにとって我が家に来てから初めての外泊だ。1日15RMBという格安の料金だから、ちょっと心配もあるが仕方がない。頑張って生き延びてもらうことにしよう。しかし、 普段足元でうろちょろしているマイクがいないとなんだかひどく不自然な気がする。
 着替えやその他の荷物は、昨晩までにまとめてあるので、全く心配がない。Zが服を着終えるのを待って出発だ。泥棒発見器代わりに、小麦粉を玄関周辺に撒いておく。Zは嫌がるが、長い旅行の前にはかかせない行事だ。これをやっておけば、コソ泥が部屋に入り込んだかどうかが一発で判明するからだ。

 5:50、アパートの部屋を出た。1Fに降りて建物の外へ出ようとしたが、大きな錠前が内側からかけられていて出られない。階段の脇で寝泊りをしている保安員を起こして錠前を外してもらって外へ出た。数年前から治安が著しく悪くなったため、私たちが住んでいる格安アパートにも保安員が置かれるようになった。仕事は楽だが、給料が安いせいか入れ替わりが激しく、現在の保安員で3人目だ。3人の中で現在の保安員が一番真面目で安心できる。長く働いてくれれば有難いと思う。
 白タクで空港まで行こうと思っていたが、あいにく一台も見当たらない。初めてになるが、バスで空港に行ってみることにした。空港まで行くバスには2種類あって、一つが空港直通のリムジン・バス(といっても、普通のバスと同様にあちこちのバス停で止まる)。これは一昨年ぐらいから運行し始めたもので、車体が新しい。もう一つは普通の公共バスで、空港から数百メートルぐらいのところにしかとまらない。普通のバスなので、もちろん、あちこちのバス停で停止する。
 料金は同じなので、できればリムジン・バスに乗って行きたいが、かすかな記憶によるとリムジン・バスの運行開始時間は朝7:00頃だった。だから、まだ走っていないかもしれない。

 バス停に着き、石造りの椅子に座ってバスを待った。
 最近は私、Zともに物事がうまくいかない。私のほうは、ここ数ヶ月で携帯電話の故障したり、銀行カードでトラブルが発生したり、新たに購入した携帯電話が不良品だったりと面倒なことばかり起こっている。そうそう、偽札をつかまされたこともあった。Zも同様に偽札をつかまされたし、買ったばかりの服をどこかに置き忘れ失くしてしまったり、さらに昨日はアパートの鍵を紛失した。 その上、サンダルの鼻緒が抜けてしまった。今回の旅行は何事もなく過ごせるのだろうか。不安・・・。

 6時半近くになってもリムジン・バスが来ないため、Zと相談して普通のバスに乗っていくことにした。
 乗車してしばらくすると、Zは眠気が飛んだと見え、徐々にテンションがあがってきた。「本場の蘭州ラーメンが食べられるわ!きっと、すっごく美味しいに違いないわよ」とおお張り切りだ。数日前、私が同様なことを言った時には、「たいして違いわないわよ」と言っていたくせに・・・。

 6:45、空港近くで下車。バスの乗車中に、天気が崩れ出し、とうとう雨が降り始めた。まだポツポツ雨だから、大丈夫だ。空港まで数百メートル。なんとか凌げることだろう。しかし、わずかな距離とは言え、リュックを背負い、ボストンバッグを抱えて歩くのは眠気が残っている体には大変だ。やはり、リムジン・バスの方が楽だなぁ。

 6:50、空港ステーションに入場した。私たちの出発はB棟から。バス停から近いA棟から入場したので、B棟まで歩いていく。B棟に着くと、早速電子ボードでチェックインカウンターを確認。左側のカウンターだ。すぐにチェックインが始まるようだったので、そのまま列に並んで待つことにした。

 7:15、チェックインがスムーズに済んだので、カウンターの向かいの階段を上がったところにあるケンタッキーで朝食をとることにした。店内に入って、カウンターで注文をしようとして驚いた。私の街のケンタッキーにあるような10RMBセットはメニューのどこを探しても見当たらない。この店ではセットに含まれる単品の数を増やして、数割高めの料金設定をしているようだ。軽く済ませようとした朝食だったが、仕方がない。ボリュームたっぷりのセットを注文し、パクパクと食べた。
 

 7:30、審査ゲートに並ぶ。身体検査のところで、やけに入念にチェックをされた。Zのほうは素通りだったのに・・・。
 無事ゲートを抜けるとほっと一息。ここで悪さをする奴はあまりいないだろうから、だいぶリラックスできる。今回の搭乗口はゲートから右側だ。先へ進もうとした途端、Zが「ほら、パスポートをしまって!」と声をかけてきた。Zも旅行慣れするにつれて、うるさくなってきた。いずれ一人で飛行機に乗ることもあるだろうから、これぐらいのほうが安心だが。
 今回の搭乗ゲートは1Fフロアだ。ということは、バスで飛行機のところまで移動ということだ。

 8:05、搭乗ゲートのところに私たちが乗る飛行機の行き先「銀川」が表示された。交互に、「西安」とも表示される。つまり、今回の中継地点は「西安」 なのだろう。 

 バスに乗って飛行機のところまで移動後、並んで搭乗。指定席だから急ぐ必要もないのだが、皆競争のように順番を争う。バスでも、指定席だろうが何だろうが、先を争って乗り込むから、もうこれは中国人のDNAに刷り込まれた行動なのかもしれない。この行動様式は、私のDNAにもだいぶ刷り込まれてきたようで、会社の日本人食堂でふと気がつくと、他の人の前に出ようとしている自分を発見して赤面したことがあった。

 飛行機が空に上がるとすぐに、食事が出た。最終到着地が回族の多い土地とあって、清真拌麺だ。選択肢もなく、飛行機で食べる食事としては寂しい気もするが、エア・チケットの低価格競争が続く中やむ得ないのだろう。いっそのこと、マクドナルド等にすれば良いと思うのだが、コストが高くて無理なのだろうか?

 11:07、西安に到着。西安には、中国に来て初めての春節のときに旅行で寄った。語学留学先である貴州省の貴陽を列車で出発して鄭州に到着、バスで洛陽と回って再び列車に乗って西安に到着した。途中で風邪を引き、すでに発熱していたが、まだ若く体力があったから、西安では兵馬俑やら楊貴妃の温泉やらとあちこちを観光した。しかし、西安での最終日に力を使い果たし、歩くのもやっとという状態になってしまった。次の目的地である四川省成都行きの列車の出発が夜遅かったため、身動きのできない身体でどこかの広場でひたすら時間をつぶしたことを覚えている。当時は喫茶店等も見当たらずどこで身体を休めたら良いかわからなかったのだ。中国語もカタコトしか話せなかったし、旅の経験もなかったから、本当に困った。しかし、それらも今となっては良い思い出だ。いずれZを連れて、再びここを訪れたいが、一度来たことがある場所はどうしても後回しになるから、なかなか難しいことだろう。

 30分後、再び飛行機に搭乗。西安からの乗客もいるため、再び食べ物が出るが、短距離とあって今度は簡単なお菓子とジュースのみだ。それを食べ終わると、すぐに降下が始まった。

 13:15、「銀川」到着。西安では快晴だったが、ここではやや曇り。雨が降らないと良いが・・・。

 13:20、ベルトコンベアで運ばれてくる荷物を待ちながら、周囲を見渡す。真昼間だというのに、やけに人気が少ない空港だ。

 13:30、無事荷物を受け取って、空港の外に出た。ちょうどリムジン・バスが停まっていたので、乗り込む。市の中心まで一人15RMBだ。「地球の歩き方」ではリムジン・バスが2時間に一本ぐらいだと紹介されていたので心配していたのだが、恐らく飛行機の発着に合わせて出ているということだったのだろう。

 問題は市内のどこに停まるということだが、聞き耳を立てていると、「民航」ビルに停まるということがわかった。

 13:35、客で席が埋まるとすぐに出発。バスも真新しく、快適だ。

 14:00、「民航」ビル前に到着。道路脇に立っている表示によると「長城東路」だ。 

 バスを降りた途端、Zが「あれ、偽の天安門よ。 誰かのブログに書いてあったわ」と叫んで、指差した。指が指し示す方向に目をやると、数十メートル先に、確かに天安門らしき建物がある。天安門を見たのはもう、10年以上前のことだから、はっきりと覚えていない。規模はもっとずっと大きかったと思うが形はだいたいあんなものだっただろう。天安門のそっくりの建物は、別の場所でも見たことがある気がするから、広い中国ではけっこうあちこちにあるのではないかと思われる。
 「先にホテルを決めようよ」
 そう、私は促したが、Zは聞かない。
 「嫌、先にあれを見る」
 インターネットで紹介されていたものを実際に目にするという驚きに打たれたZは、とにかく実物のそばに行きたくてたまらないらしい。もはや押しとどめても無駄なことのようだ。あきらめてZの好きにさせることにした。 

 広場のそばに、ちょうど雑誌売りの小店があったので、地図を買った。まずはこれがなくては始まらない。Zには天安門のそっくりさんをたっぷり堪能してもらって、私はインターネットで調べて候補に挙がっているホテルの位置を確認することにした。しかし、地図を開くか開かないかのうちに、Zはこちらに戻ってきて、「もう、いいわ。行きましょ」とせっついてきた。ゆっくり考える暇というものがない。
 「じゃあ、さっきバスを降りたところにあった『銀座ホテル』をみてみるか?」
 「いいわよ」
 「でも、立派そうなホテルだから、安くはないぞ」
 高いと文句をいいそうだから、防衛線を張っておく。
 「そんなの聞いてみないとわからないわ」
 「まぁ、そりゃそうだけど・・・」
 もとの道を戻り、「銀座ホテル」へと向かった。

 14:25、ホテル到着。さきほどは通りの対面からみたのでわからなかったが、近くでみるとそれほどまでは高くなさそうだ。せいぜい三ツ星ぐらいだろう。ここでOKなら、ずいぶんと時間が節約できる。そう考えていたが、フロントで尋ねてみると、一泊300RMB近くしたため、Zに却下されてしまった。やむなくタクシーで、 次の候補地であるビジネス・ホテルへ向かうことにした(14:25)。 数十RMBぐらいの差だったら、ここに決めてしまったほうが、時間が節約できて良いと思うんだけれども。

 5分ほど走って、ホテルに到着(5RMB)。インターネットで調べた情報では新しいホテルのはずだったが、見た目がずいぶんと古い。ホテルとしてオープンしたのは最近だが、建物自体は古いということか。オープンしたばかりなら、内部はリフォームされているだろうから、外観がボロくても良しとするか。
 あっさり決まるだろうとたかをくくってドアを抜けたが、フロントで料金を聞くと、部屋が空いていないと言われた。まともなロビーすらない、小さなビジネスホテルなのに、満室とは意外や意外・・・。幸い、その次の候補のホテルが徒歩で5分ほどのところにあったため、そちらの方へ早速向かった。だが、ずいぶんと古い上に、衛生的にも問題がありそうな感じだったために、Zによって駄目出しをされた。

 あちらも駄目、こちらも駄目。結局、タクシーで再び「銀座ホテル」へと戻ることになった。再び、さきほどのフロントで料金を尋ねると、今度は320RMBの部屋しか空いていなかった。フロントスタッフの間で交わされた会話を横で聞いていた限りでは安い部屋が全くないわけではないようだったが、何らかの理由でそちらは使わせてもらえないようだった。まだ早い時間だから、高い部屋から売っていけ、そんな指令でも上から出ているのだろうか。そんな雰囲気だった。  

 部屋代は320RMB。二泊分の保証金が1000RMB。最近の私たちの(Zによって引き下げられつつある)標準からすると、やや高い感じだが、部屋は非常に綺麗で良かった。場所が街の中心にあるというのも大変便利だ。銀川の市内観光地はここ周辺に集中しているから、ずいぶんと助かる。(ただし、浴槽は無し)。

   地図で観光ルートを定めた後、出発(15:40)。
 ホテルを出たすぐの角のところで、歩道の上を小さな子犬がよたよたと歩いていた。私たちが来るのを見て、慌てた様子で、すぐそばのレストランの階段を登って逃げ始めた。身体がちいさいため、段差をすんなり登れず、後ろ足をばたばたさせてようやく上の段に登った。そして、レストランの窓際に設置されているエアコンの室外機の下にもぐり込んだ。離れたところから見てもずいぶんと汚れていたから明らかに捨て犬だ。高級な洋犬の子犬のようだったから、金融危機の影響を受けた家で飼いきれずに捨てられたのかもしれない。
 「何だか、私たちのこと見て怖がっていたみたいね」
 「うん、捨て犬みたいだから、けっこう追っかけまわされたりしてるんじゃないか。エアコンの室外機のところは暖かいから、あそこに住み着いているんだろう」
 「なんだか、可哀想・・・」
 私たちが飼っている犬のマイクも、昨年やってきたばかりの頃は生まれて数ヶ月しか経っておらず、いつもヨタヨタと歩いていた。今はそのマイクを置いて旅行に来ているから、Zは捨て犬とマイクが重なって見えるのだろう。Zは歩きながらも度々後ろを振り返っている。
 戻ってやることは簡単だが、ここであまり情を移されても困る。
 「また、帰りに様子を見てやれよ。その時に餌でもをやれよ」と諭して先へ向かった。

 空港に着いたばかりの頃は、薄暗かった空がずいぶんと明るくなってきて、暑いぐらいだ。幸い、ホテルを出て10分も歩かないうちに最初の目的地である「南関清真大寺」へ到着した (15:50)。

 「清真寺」 =「モスク(mosque)」で、イスラム教の礼拝堂のことだそうだ。だから、「南関清真大寺」もイスラム教のお寺ということになる。旅行であちこちのお寺を訪れているが、モスクに入ったのはごく限られた回数だけだ。仏教のお寺は国が違うとは言え、なんとなく親しみがあるが、イスラム教となると理解の範囲を超えているため、中に入るのもやや緊張させられる。 
 

 

 

 さあ入ろうと声をかけると、Zは「私、外で待っているから、○○(私の名前)だけで見てきなよ」と門から離れようとする。
 「いや、それじゃ一緒に来ている意味ないから、入りなよ」
 「私、お寺に興味ないから」
 「俺も興味があるわけじゃないけど、せっかく来たんだから入ろうよ」
 「じゃあ、チケットが安かったら入る」
 門のところに座っている白髭のおじいさんに料金を尋ねると「10元」と短い返事があった。
 「10元だって!」とZに呼びかけると、不承不承ながら、一緒についてきた。
 中庭を抜けて階段を登り、奥の建物へと向かった。ピカピカの真新しいタイルで床が覆われているため、なんだか違和感を覚えた。日本でも中国でも、仏教のお寺は木造であることがほとんどであるから、そのためだろう。(旅行後、インターネットで調べてみると、1981年頃に一度再建されているそうだ。30年も前に建てられたにしてはタイルが新しすぎるから、それ以外にも補修がされているのだろう)。
 

 

 

 室内は入室禁止になっていたために、外から絨毯にしかれた室内を眺めるだけとなった。建物の左右を見てみたが、特に何もなく後方には宿舎らしきものが建っているだけだった。 Zから、「ほら、何にもないでしょ」とそらみたことかという調子で声がかかった。「しょうがないだろ。入ってみないとわからないんだから」と言い返したものの、確かに何もすることがない。写真をとるだけとって外に出ることにした。
 

 再び中庭を抜けて寺の外へ出た。地図によると、この通りの前をまっすぐ進んで行けば次の観光名所である「玉皇閣」へと着く。しかし、その前に食事だ。深センの空港にあるケンタッキーで食事をしてから後、口にしたのは飛行機の中での軽食のみ。そろそろ食事にしないとZの怒りが爆発する。
  「そろそろ、食事にしないとね」
 恐る恐る切り出すと、「当然でしょ」とあっさり切り捨てられた。
 これはさっさと食事所を探さないと危険だ。
 木陰の多い歩道を歩きながら、「Z、いい店があったら、教えて」と声をかける。良い食事所がなかった場合の責任回避作戦だ。しかし、「どこでも良いわよ、食べられれば」と返事され、かえって逃げ場を失ってしまった。 
 

 雲が途切れて、日差しがますます強くなってきた。しかし、木陰に入ると途端に涼しくなるから歩いていてもそれほど苦にならない。きっと湿度がとても低いに違いない。時間が遅いせいか、店が開いていても客の姿どころか従業員の姿まで見えない店ばかりが数軒続いたが、ようやく一軒、客でいっぱいになっている店があったので、その店に入ることにした。

 空いていた一番入り口近くの席に座った。ウェイトレスがやってきてメニューを置いていく。他のテーブルをみると、皆黒い土鍋に入った麺を食べている。「砂鍋麺」だ。美味しそうだったので、私も同じものを食べることにした。Zは「拌麺」を注文。飲み物はスプライトを頼んだ。
 

 すぐにスプライトとともに小さな小さなジョッキが2個出てきた。こちらの人はこんなジョッキでお酒を飲むのだろうか。よほどアルコール度の高いのを飲むに違いない。
 スプライトは早かったが、料理はなかなか出てこなかった。ようやく料理が出てきて、箸を取り出して食べ始めようとすると、Z が手を伸ばしてそれを止めた。
 「ちょっと待って!」
 「どうしたんだ?」
 「箸が臭いのよ」
 「本当か?」
 鼻を箸に近づけて嗅いでみた。
 「くっさ~~」
 確かに臭い。雑巾の腐ったような臭いだ。消毒済みと大きく書かれた袋に入っているのにひどい。
 「私、箸を代えてもらって来る!」
 そういって、Zは店の奥へ入っていった。
 助かった。Zがいなかったら、危うく臭い箸で食事をするところだった。胸をなでおろした。
 しばらくして、Zが割り箸を二膳手にして、戻ってきた。
 「もう最悪。使い捨てじゃない箸は全部、臭いのよ。だから、割り箸を持ってきたわ。念のため、お湯で消毒してもらってきた」
 割り箸があるなら、最初から割り箸を出してくれ。あんな恐ろしい臭いのする箸をよくも出せたものだ。しかし、他の客は気にならないのか?実に不思議だ。
 気を取り直して食事を始める。実際のところ、箸をあんな臭い状態にしておくということは、麺が入ってる皿や鍋の衛生度も「推して知るべし」というところだ。しかし、Zの麺は普通の皿に入っているだけだが、私の麺はぐつぐつ煮込まれた鍋だ。きっと熱消毒が十分に行き渡っているに違いない。そう信じて、箸をつけた。
 

 衛生度はともかく味はなかなかいけた。麺もスープも合格ラインだった。だが、やはり箸の臭いが気にかかり最後まで食事を楽しめなかった。よく店内を眺め渡すと、奥の方にカクテルを作るカウンターがあり、夜はスナックとして営業している様子が見て取れた。食事専門の店ではないらしい。これまで客で混んでいれば安心だという基準で店を選んでいたが、これからは考えを改めるとしよう。ここで食事をしたことことをやや後悔しながら、外へ出た。

 改めて、「玉皇閣」へ向かう。少し歩いたところで、目を疑うものに出くわした。つい先ほど後にしたばかりの「南関清真大寺」が再び姿を現したのである。
 (あれっ、方角間違えたかな?)
 一瞬、本当にそう思った。いや、そんなはずはない。なんか少し小さいし・・・。
 近づいて見ると、「新華清真大寺」と門の上に書かれている。なんだこりゃ、「南関清真大寺」の偽物か?そう思った。だが、よく考えると、モスクというものは、だいたい同じ構造で作られるようだし、同じ規模の大きさのものだとだいたい同じ形になるのかもしれない。しかし、本当に良く似ている。

 

 さらに北に進むと、繁華街が現れた。大きなデパートが立ち並んでいる。その通りを越えて、さらに先に進むと、歩道の木立が一層増え、その先に「玉皇閣」が見えた。涼しい風を浴びながら、「玉皇閣」前の公園に到着した(16:55)。

 「玉皇閣」へ近づいていこうとすると、Zが後ろから呼びかけてきた。
 「私、ここでヨーグルト食べてる」
 「『玉皇閣』見てからにしようよ!」
 「嫌、私興味ないし」
 「日焼けするのが嫌なだけだろ、行こうよ」
 「行かない」
 Zはそういって、大きなパラソルを広げてヨーグルトを売っている店に入って行き、椅子に腰を下ろしてしまった。もはや取り付く島もない。諦めて、一人で「玉皇閣」へと向かった。
 

 「玉皇閣」は明らかにごく最近再建されたもので、真新しく、綺麗に作られていた。上に登ることもできるようだったが、階段のすぐそばに、再建祝賀関連の大きな舞台が構築されていて、いかにも観光用の建物のようだったので、登るのを止めた。
 ぐるりと建物の周囲を回り、すぐにZのいるところに戻った。Zが「美味しいよ」と勧めるので、私もヨーグルトを食べることにした。1瓶3RMB。瓶ごと買うと5RMBとのこと。自然な味で非常に美味しかった。
 

 一休みが終わると、今度は「鼓楼」へ向かうことにする。まっすぐ西へ進めば良いだけだから、簡単に行き着ける。
 道は簡単だったが、今度は木立が日を防いでくれないため、けっこう暑い。日焼けを嫌がるZがぶぅぶぅと文句を言うのを宥めながら、なんとか「鼓楼」へ到着(17:15)。この「鼓楼」も、再建さればばかりの綺麗な建物である。ガイドブックによると上に登れるとのことだったので近づいていったが、工事中というような看板が出されており、登城は禁止されていた。
 

 これで残る観光地は「承天寺塔」のみ。時刻はすでに午後5時を越えている。暗くならないうちに、たどり着くとしよう。ガイドブックによると、けっこう高い塔で、上まで登れるそうだから、是非登らせてもらうとしよう。
 

 まず「鼓楼」から南へと向かう。途中、大きな商店街を抜ける。「鼓楼南街」というらしい。短いが歩行者天国となっていた。Zが、「銀川の街はつまらない。なんだか、全部商業化されているし、民族的な味わいがないわ」とぶつぶつ文句を言っている。恐らく、一昨年訪れたウルムチの町並みと比べての発言だろう。
 確かに、これまで見た限りでは、銀川の中心街は民族色を一切捨て去ったかのようだ。歩いている人々も、民族衣装を着ている人は非常に少ない。私が想像するには、銀川というところは、新疆ほど資源等に恵まれなかったため、独自文化を主張しながら生き残れる力がなく、中央政府の指導を粛々と受け入れるしかなかったのではないだろうか。もっともその分、女性は解放され、新疆と違って顔を隠したりせずに堂々と歩いている。ただ、その表情がそれほど明るくないのは、宗教的な保護から放たれた不安定な地位によるものかもしれない。

   「鼓楼南街」と「新華東街」が交差するところから、今度は西へ向かう。5分ほどで着くと思ったが、歩けど歩けど「承天寺塔」が見えてこない。地図で見る以上に遠かったようだ。Zを宥め宥め、歩き続け、17:40に到着した。
 「さあ、塔に登るぞ!」
 「嫌、私は登らない」
 「駄目だよ。登らなくちゃ、せっかく来たんだから」
 「嫌」
 「旅の思い出になるんだから、一緒に登らなくちゃ意味がないだろ。絶対登らなくちゃ駄目!」
 勢い込んだ私だが、寺の門の入り口には「工事中のため入場禁止」の立て札が置いてあった。
 「○○(私の名前)、入れないって」
 嬉しそうに声を上げるZ。
 やられた。何のために歩いてやってきたのか全くわからない。タクシーでくれば良かった。
 しかし、いくら悔しがっても入れないものは入れない。敷地を外からぐるりと一周してみたが、どの出入口にも工事中の札があり、入場禁止となっていた。塔に一番近い出入口からのぞいてみると、塔の足元で子供たちが数人遊んでいるのが見えた。そっと足を忍ばせて中に入ろうとしたが、門番らしき少年が走りよってきて、「今は中へは入れません」と阻止されてしまった。残念無念。 
 

 「承天寺塔」に登れなかったため、少し郊外にある「海宝寺塔」へ行ってみようかとも思ったが、日が暮れ始めてきたので断念した。タクシーでホテルに戻ることにする(18:00)。今日は到着日でもあるし、頑張って歩いたほうだろう。

 ホテルに戻って、小休憩。シャワーで汗を流して、仮眠をとった。
 夜の8:00に再び起きて、夕食のために外に出た。外は夏とは思えないほどの涼しさ。非常に気持ちの良い夜だ。
 

 近所にレストランらしきものがないので、タクシーであちこちを回ってもらったが、銀川には大きなレストラン街がないらしく、適当なところで下車して、やや高級そうなレストランに入った。
 

 料理を2品ほど頼んだが、疲れすぎていたのか二人ともあまり食事が進まず、ほとんど残してしまった。
 食事を終えると、タクシーでホテルへ戻った。ホテル対面の果物屋でZが果物を購入してから、部屋へと戻った(22:25)。
 

 到着日としては、けっこう行動できたほうだろう。明日からが旅行の本番だ。ゆっくり寝て体力を養うことにしよう。