2010年6月-7月(day055)

2010年6月-7月(day055)


2010年6月4日(金)
 今週がずっと曇りが続いた。雨も時々降ったが、ぽつりぽつり程度だった。湿気は少なく、洗濯物は太陽が出ていなくとも良く乾いた。
 一昨日、とうとうドラマ「天道(2006年放映)」を見終わった。このドラマはまず最初に、主な人物である「芮小丹(女性)」が死ぬ場面が描かれ、それを遡った3年前から物語がスタートする。だから、「芮小丹」が死ぬことは最初からわかっていたわけなのだが、ドラマの最後に至って再度演じられるその死が、最初に描かれていた場面よりも遥かに凄惨であったため、少なからずショックを受けた。
 「芮小丹」の職業は警官(刑事?)で、出かけた先の帰り道でたまたま指名手配の犯人(数名)に出くわし、犯人の逃走を妨げようと試みる中で、代償として自らの命を失うことになった。「芮小丹」はその任務に取り掛かる直前に、恋人の「丁元英」に電話をして状況説明をするのだが、彼が何も答えないうちに電話は切られ、「芮小丹」は無残な死を遂げることになった。
 このとき、「丁元英」が何も言わなかったことが原因で、彼は「芮小丹」の同僚や父から強く非難されることになる。その後、「丁元英」の以前の部下で、良き理解者でもあり、「芮小丹」の親友でもある「肖亜文」がこの理由を尋ねると、「丁元英」は「私には、私が彼女が任務に取り掛かることを止めることができないことがわかっていたし、彼女も私が止めようとしないことがわかっていた。(省略・・というか忘れた)。ただし、重要なのはそういうことではない。最大の理由は彼女が警察(官)だったからだ」と答えた。
 正直、私は、「丁元英」のこの答えがかなり意外だった。このドラマの半ばぐらいに、「丁元英」が「芮小丹」に警官を辞めるように勧める場面があり、この中で「芮小丹」は、「貴方の言うことは多分正しいけれども、私が貴方の思う通りの生き方をしたとしたら、貴方を愛しているのは私ではなく、貴方自身だということになってしまうわ」と拒否をしている。私はてっきり、この伏線が回答であり、視聴者にこれを想像させる形で終わると思っていたら、「丁元英」ははっきりと答えただけでなく、回答の内容も私が予想していたものと違って、「彼女が警察だったからだ」というものだった。
 それはちょっとおかしいのではないかと私は思ったが、ある人がインターネット上で書いていた「天道」の感想で、「芮小丹」はこのドラマのテーマ音楽となっている「天国の娘」を象徴する人物で、天国では悪の存在は許されず、被害者を一人でも少なくするのが「天国の娘」の義務であった。だから彼女はこの任務に背を向けることができなかったのだというのがあった。なるほど、そう言えば、「芮小丹」と映画監督の父と語る場面があり、その中で父が摂っている「天国の恋(?)」に関する議論をしていた。あまり重要ではないと思って聞き流していたのだが、あの中に伏線があったのかもしれない。
 「天道」には、これ以外にもたくさん見所がある。「丁元英」の孤高な性格が8年ぐらい前に観たことがあるドラマ「背叛」に出てくる主人公に似ているなと思ったら、各々ドラマのもとになっている小説を書いたのが同じ作家だった。「背叛」をみて、面白かったと感じる方だったら、この「天道」もきっと楽しめると思う。是非、お勧めしたい。
2010年6月6日(日)
 今日もやや曇り気味な天気となりそうである。日本にいた頃は、天気は晴れが一番で、気持ちが良い。そう考えていた。中国に来てからも、貴州、天津、東莞にいる間は、同様に感じていた。しかし、深セン郊外に移り住んでから、年齢の影響もあるのだろう、徐々に広東省の暑さが堪えるようになってきて、曇り空ぐらいのほうが気持ちよく感じるようになってきた。だから、曇り空のときの気分はやや複雑である。太陽を求める幼い頃からの習慣と曇り空を心地よく感じる現在の身体がそうさせるのだと思う。さらに年齢を重ねたら、太陽=嫌いになるのだろうか?
 さて、今朝から運動量を少し増やしてみた。1セットに付き、腕立て伏せを5回、腹筋・背筋を5回ずつ増やした。これで、スクワット50回、腕立て40回、側筋20回、腹筋15回、背筋15回が1セット。朝晩2セットずつ(ただし、土日は朝のみ)だから、合計では1日スクワット200回、腕立て160回、側筋80回、腹筋60回、背筋60回ということになる。
 腕立てを増やしたのは、今朝やってみると急に筋力が増えたように感じたからだ。昨日の昼に韓国焼肉で腹いっぱい肉を食べた分がそのまま筋肉になってくれたのだろうか。そうだとありがたい。スクワットも増やせそうな気分だったのだが、同時に増やすと負荷がかかりすぎるかと思って止めた。もう2週間ぐらい経って、イケそうだったら増やしてみようと考えている。
 腹筋・背筋はやや無理に増やした。腹筋はただ上半身を持ち上げるだけでなく、5秒ぐらい静止させるやり方なので5回増やすだけでも結構な負荷がかかる。しかし、腹筋は腕立てとかスクワットとか違って、身体に馴染むのが速いのではないかと勝手に考えて増やしてみた。結果はどうだろう。しばらく様子見だ。
 柔軟体操は相変わらず、大きな変化はない。足を外旋させる方法を主に地道に続けている。大きな変化はないが、以前に誰かがホームページで書いていた、物につかまっての前屈は良くないという意味が体感できるようになってきた。自助努力だけで前屈をやっていると、わずかずつだが、前屈が楽になってきている感じがする。前屈 の姿勢を支える筋肉が増えてきているのだと思う。
 開脚に関してはほとんど進歩がない。このままではジリ貧なので、昨日、Amazonでスポーツ関連の本を注文した。この本に新たな突破口が載っていればと期待している。 筋力運動で身体をもたせるのは、せいぜい50歳ぐらいまでかと思うから、長期的に考えると柔軟体操のほうが重要だ。なんとか真向法の4つの運動は全部できるようになりたい。
 冷水摩擦は毎朝やっている。今日は腕立てを増やしたからキツク感じるかと思ったら、そうでもなかった。 冷水摩擦は、筋力運動も柔軟運動もできなくなっても、続けられる最後の切り札(?)だ。こちらも地味に続ける他ないだろう。

 ここ数ヶ月で、意識し始めたことだが、私がいつも行くデパートの品揃えが微妙に変化してきている。○○均一とかの安売りが常態化してきたり、長らく続いていた涼菜の品揃えが急激に減ってきたり、特売のトイレットペーパーのランクが下がってきたりしている。一方で、豆腐関連の品揃えが増えたり、有機野菜のコーナーやブランド肉のコーナーが拡張したり、固定化したりしてきている。
 これらは、物価上昇と健康志向の影響だと思われる。物価上昇の影響は深刻なものとなりつつある。また、健康志向は富裕層 だけに限られ、中国の一般の庶民にはまだ関係のない話だという考えもあるかもしれないが、実際の影響範囲はもっと広いだろう。ベビーブームの影響で、子供のことを考えて の健康 意識が強まっているからだ。(以前に書いたが、健康志向の一つとして、豆乳メーカーの流行がある)。確かに一般の中国人の生活はまだまだ日本人に及ばない面が多い。しかし、彼らの、生活向上を求める意識はもはや押さえ込むことも、否定することもできない強いもの であり、さらに生活の多方面に渡ってもいる。
 このように過去の単純労働者以上の意識が芽生えてきたということは、物価上昇への対応も以前のような単純労働者とは違ったものになるだろう。 現状維持ではなく、未来を求めてきているからだ。社会、企業に求められるものも、きっと異なるに違いない。中国の社会、企業は彼らの要望に正しく答えることができるだろうか?
2010年6月9日(水)
 急速に気温が上がっている。今年もクーラー不使用でいく予定のため、暑さに不安を感じる。しかし、今のところは扇風機さえつけていれば、非常に気持ちが良い。特に夜寝るときは快適だ。
 昨日、ちょっとした衝突事故にあった。いつものように電気自転車タクシーに乗って、工場から帰宅中、ふざけあっていた若者たちが乗った自転車が横からぶつかってきたのだ。お互いの自転車の前輪がぶつかった程度だったので、大きな被害はなかったのだが、若者の身体がぶつかるのを避けようと伸ばした私の右手がいけなかった。その手に若者の体重がのっかってきたのか、或いは右手を急に伸ばしたことによって、不自然な姿勢をとったのかが原因かわからないけれども、その直後から左の胸筋が痛みだしたのだ。
 電気自転車タクシーの親父が若者をどなりつけ、自転車は再発車。一路、私の住んでいるアパートへ向かった。だが、痛みはひどくなる一方で、自転車の後部座席に座っているのも苦痛なほどになった。しかし、下車したところで、歩いて帰らなければならないのでじっと我慢した。その間も痛みはひどくなる一方。急遽アパートの近くの薬局で下ろしてもらうことにした。シップ薬だけでも買って帰ろうと思ったのだ。
 ところが、下車して、薬局でシップ薬を選んでいるうちに、今度は急速に痛みが消えていった。歩いてアパートに着いた頃には、全く痛まなくなった。今朝の運動中には、この事故のことを全く忘れていたほどだったから、もう大丈夫だろう。本当に何事もなく終わって良かった。ここで、胸筋にトラブルが出たら、運動プランが大きく崩れてしまうところだった。しかし、あの程度の衝撃を受けただけで、身体に異常が起こるなんて、やはり年齢を重ねるということは大変なことだなと改めて感じた。それに、筋力運動とか柔軟体操ということよりも、何かのスポーツをやらなければ、本当の全身運動にはならないのかもしれない。
2010年6月13日(日)
 気温が上がってきたので、扇風機が頼りの毎日である。昨日は、2台ある扇風機を両方とも掃除した。深センの大気汚染は凄まじく、せっかく綺麗に掃除をしても、一週間も経つと、埃で真っ黒になってしまう。このような空気が自分の肺に出入りしているのかと思うと空恐ろしい。
 物価上昇、間接人員の削減など苦しい状況が続いているが、一方で、全く違う現象もある。例えば、私がよく利用している軽トラ・タクシーの運転手。昨年からクーラーを使い始めている。昨年は初めてのことで、電気代が心配で、様子を見ながら恐る恐る使用していたようだが、今年はさして暑くない頃から全開で使っているとのこと。もはや、クーラーのない生活は考えられなくなっているようだ。最近は近所の大型デパートにある電気店の配送業務も請け負っていて、これが良い収入になるそうだ。1件配達すると、30RMBになり、多いときは1日20件以上も依頼があるのだという。20件というと、600RMBを越える。大きな収入だ。それだけ、電気製品が売れているということでもあり、中国の景気の良さをうかがわさせられる。さらに、電気店の担当者からは、件数いくらではなく、月決めで7,8千元で仕事をしてくれないかと持ちかけられているらしい。ということは、電気店も、少なくとも数ヶ月に渡ってそれだけの販売量を見込んでいることになる。
 このように電気製品を購入している人々というのは、どのような人たちなのだろうか。地元の人、工場の職員、自営業者、私が住んでいる街は出稼ぎ労働者の街だから、そんなに多種多様な人がいるわけでなく、むしろ偏っているはず。次に運転手に会ったら、是非尋ねてみることにしよう。
2010年6月20日(日)
 ますます暑くなってきている。しかし、昨年、クーラーなしで耐えてきた身体である。これぐらいはまだなんともない。扇風機と時折窓から入ってくる風さえあれば十分だ。昨年の記録を読んでみると、昨年は今年よりだいぶ暑かったようだ。今年は意外に楽な夏になるかもしれない。そんな期待を抱いている。
 昨日は、銀行に行ってきた。H銀行である。この銀行は固定電話代、携帯電話代の引き落とし用に利用している。以前は一般ユーザでも、カード用のパスワードだけで気軽にネット上で残高を確認できる仕組みだったのだが、今年の初め辺りにシステムが変わり、ネットバンクのユーザとして登録しなければネット上から残高確認ができなくなった。そこで、昨日、ネットバンクのユーザ登録に行った次第である。結果から言うと、30分以上待って窓口で得た回答は、「貴方はすでにネットバンクのユーザになっていますよ」であった。2003年にすでにネットバンクのユーザとして登録されているのだそうだ。そう言えば、以前に登録したことがあるような気もする。その後、パスワードを忘れたか何かして、使うのを止めたのだ。
 帰宅後、銀行で教えてもらったユーザ名をもとにパスワードを再設定した。先日更新したはずのパスポート番号が、またもとの古いものに戻っているのが不思議だったが、パスワードの更新自体はうまくいったので残高照会は問題なくできるようになった。来週にでも、再度パスポート番号の更新に行ってくるとしよう。

 筋力運動は、やや膠着状態である。腕立てはそれほど大変ではないが、腹筋が思ったほど力がつかない。もう2週間から一ヶ月は今の回数で続けないと、駄目なようである。スクワットの方も同様にしばらくは現状維持だ。柔軟体操に関しては、書籍が届いた。外旋運動の重要性が説かれていて、それは理解できたのだが、毎日30分ぐらいはやるように書かれていて、実行に困難を感じている。テレビを見ながらやれば良いと勧められているのだけれども、テレビは中国語で見ているから、けっこう集中力がいる。ストレッチ運動をやりながらみるというのは相当に難しい。さて、どうしたものか。 
2010年6月25日(金)
 最近、「霧柳鎮」というドラマをインターネットTVで見ている。先日幾度か感想を書いたドラマ「天道」を見た後の心の空白を埋めるために、なんとなく見始めたものだ。中華民国期、軍閥が割拠していた時代の一 つの鎮に関する歴史ドラマである。
 見始めた当初は、着ている服装もなんだか不自然だし、演技は大げさだしで、つまらないドラマだなと考えていたのだが、話が先に進むにつれて目が離せなくなってきた。主役級の人々は、当然ながら、派手なシーンで英雄的な大活躍をする 。それはそれで面白い。このドラマではそれだけで終わらず、最初はただの脇役だったはずの乞食たちが物語りが進むに連れて、心情を吐露するようになり、大きな存在感を示し始め るのだ。日本では考えられないぐらい、蔑まれ、人間として扱われずに生きてきた彼らの生き様がひしひしとこちらに伝わってきた。 何も持たぬ者たちが、どのように生き、どのように死んでいくのか。他にも、同じく脇役のはずの主人公の妹たちにも存在感が出てきている。主役級以外の人たちがこれだけ強く自分たちを主張するドラマというのは非常に珍しい。最後まで目が離せそうもない。機会があったら、また感想を書くつもりだ。
2010年6月27日(日)
 最近は雨がよく降る。昨日は深セン市内に買物に行ったのだが、やはり雨に降られた。
 もっとも、羅湖でバスを下りてしまえば、あとは地下鉄での移動なのでほとんど雨に影響されることはない。まず東門に移動して、歩道橋の脇にある店で靴を買った。バッタ屋のような安売りの店なのだが、今履いている靴もここで買ってなかなか良い感じなので、もう一度買ってみることにしたのだ。前回は約360RMBの値札のものを約260RMBで買ったのだが、今回はもうちょっと高いのを試してみることにした。気に入った靴の値札を見ると、1166RMBとあり、5.5割引になると書いてあった。店員を呼んで値段を聞いてみると、約520RMBだという。直接的に「450RMBにしてくれ。それだったら買う」と指値をすると、「それは駄目」と断られた。さらに「この靴はね、脇のところに通気口があるのよ。ほら!」と靴の脇についている直径5ミリの円形の網を指差した。なるほど確かに通気口らしきものがついている。これでムレを防ぐというわけか。「でも、ここから水が入って中が濡れちゃうんじゃないか」と疑問を投げかけると、大げさに手を振り上げて、「水はなかに入らないの。そういう構造になっているの」と力説した。「もうちょっと安くしてよ」。「ここの値段はね、店主が決めた値段なの」。「いや、でも貴方にだって与えられた値引きの範囲ってのがあるでしょ」。・・・・と交渉が進み、最終的に462RMBとなった。もう少し頑張れば、450RMBまで下がっただろうか?
 それが終わると、Zは引き続き東門でショッピング。私は再び地下鉄に乗って「大劇院」で下車し、書城に寄った。先日観終わったドラマ「天道」の原作「遥遠的救世主」を買うためである。インターネットで中国人たちが書いた「天道」の感想を読んでいたとき、ある人が「『天道』では(時間に制限のあるドラマでは仕方のないところだが)、原作を削ったり、修正したりしている箇所がある 」と書いていたのが気になったからだ。私の場合、買ってしまうとそれだけで満足してしまい、全く読まないケースが多々あるが、もし読むことになったら、 このホームページに感想を書くとしよう。
 最後はJUSCOでお買物。今回の目的は「コエンザイムQ10」である。今週は筋力運動が思うようにできず、朝晩のどちらかを休むことが多かった。疲れが残ってしまって、やる気にならなかったのだ。何か栄養素が不足しているのかと考え、以前日本に話題になったという「コエンザイムQ10」を試してみることにしたのだ。日本から取り寄せることも考えたのだが、こちらで買えるならそのほうが安くて良いかなとJUSCOで探してみることにしたのだ。中国でも、ここ数年サプリが大人気であり、どこの薬局にもたくさんのサプリが置いてある。JUSCOの薬局にもたくさん並んでいたので、尋ねてみた。すると、「あります」とのこと。私がインターネットで調べたのと違うブランドのものだったが、たしかに「コエンザイムQ10」だ。二種類あって、中国産が299RMB。輸入物が399RMB。けっこう高い。Amazonで取り寄せたほうが安かったかも 。身体に入るものなので、念のため輸入物を買った。(帰宅後、さっそく服用してみたところ、運動時にはあまり効果が感じられなかった。その代わり、ホームページとか書いているときには気持ちがいつもよりシャッキリしているような気がする)。
 帰りは、来たときと同じルートでバスに乗って帰った。(偶然にも、会社の食堂を切り盛りしてくださっている調理師の夫婦方と同じバスに乗ることになった。日本人社会というのは狭い)。帰りもずっと大雨が降っていた。雨続きだと 洗濯物が乾かなかったりと不便も多いが、夜涼しいので助かる。この調子だとしばらく雨ばかりかもしれない。 
2010年7月1日(木)
 昨日、会社から帰宅して食事をした後、部屋の掃除をした。部屋で犬を飼っているから、まめに部屋を掃除しておかないと虫が居つきやすいからだ。
 モップで床を拭き終わったので、次にソファベッドを広げて、掃除機をかけることにした。掃除機の電源コードをすぐ後ろにあったコンセントに差し込んだ。その瞬間である。掃除機の後部にある排気口からボォッと物凄い勢いで 炎が吹き出た。長さ5cm、幅10cm弱あったと思う。「熱っ!」。その火のすぐ先にあった私の両手が痛みを感じた。左手でコンセントを押さえ、右手で電源コードを差し込んでいた、その両手に何かが飛び散ってきたのである。
 (何だ?これは)
 見ると、両手に真っ黒な泥のようなものが飛び散っている。掃除機の排気口から出てきたものらしい。恐る恐る指で触ってみるが、手に焼き付いてしまっていて とることができない。まだ痛みは強くないものの、左右の掌は明らかに火傷をしてしまっている。とりあえず、コンセントのスイッチをオフにして、台所の水道水で両手を冷やした。水で洗い流しても、ヘドロのように黒い飛沫はほとんど落ちない。皮膚に固く焼き付いてしまっているのだ。
 こんなバイ菌の塊のようなものが手にはりついてしまっていては、薬を塗ることもできない。いや、そもそも火傷の薬が家にない。困ったことになった。ともあれ、火傷をしたら、徹底的に患部を冷やすのが原則だったはず・・・。綺麗なバケツをもってきて、両手を突っ込んだ。気持ちが良い。・・・が同時に徐々に痛みが出てきた。水道水の水温では火傷を冷やすのに十分ではないようだ。冷蔵庫から氷をもってきてバケツに放り込もう・・・と思ったが、アイスボックスの中は空。慌てて水を注ぎ込んで、冷凍庫で冷やす。氷ができるまでの間は、水だけで乗り切るしかない。ジャブジャブとバケツの中で手を動かして痛みをまぎらわし、テレビでドラマをながら、根気よく手を冷やした。何度か水を交換しているうちに、氷なしでもなんとか痛みが引いてきた。そこで、薬局にいって、オキシドールと火傷薬を買ってきた。
 買ってきたオキシドールで手を軽く擦ってみるが、真っ黒な飛沫はびくともしない。これでは火傷薬を塗るわけにもいかない。引き続き、バケツの水で手を冷やす。そうこうするうちに、氷もできたので、氷を追加。だんだん痛みが治まってきた。黒い飛沫も、軽く手で擦っているうちにわずかずつではあるが、剥がれ落ちてきた。これなら、根気よくやっていれば、全部とれるかもしれない。
 しかし、何で、掃除機が爆発(?)したのだろう。確かに購入してから、8年経つが、それこそ年に数度しか使っていない。Zは掃除にモップしか使わないからだ。私が最近掃除機を使ったのは、前日と爆発した日だけだ。一応、日本メーカーの掃除機だし、あんな火を噴くようなトラブルが起こるなんておかしい。8年前の引越し前後に購入したのだが、どの店で買ったかは覚えていないから、保証書を探し出して、メーカーにクレームをつけてみようか?
 黒い飛沫は恐らく、掃除機の排気口付近にこびりついていた汚れの塊だろう。掃除機の排気口を改めて点検すると、排気口のところも出てきた飛沫で汚れている。うーん、そもそも何であんな爆風が起こったのだろう。溜まって、こびりついていた汚れが突然飛び出てきた・・・。よく考えたら、排気の風で飛んだわけではなく、炎と一緒に爆発したような勢いで飛んできたのだ。あんな爆発の仕方は普通は ありえないだろう。
 そこでハタと思いついた。そういえば、掃除器の電源コードをコンセントに差し込む前に、掃除器を開けて、ゴミ収納袋に向かって殺虫剤を何度も吹き付けたのだった。昨日もやってなんともなかったから、気づかなかったが、あれが爆発の原因だったのかもしれない。日本にいた頃、新聞などで、殺虫剤の缶が爆発して起きた事故のニュースを読んだことがある。殺虫剤に使われている気体の爆発力はけっこうなものなのに違いない。きっとその気体が掃除器の中にたまってしまい、電気が通った途端に爆発を生じたのだ。あーあ、なんと愚かな・・・。ある意味、これだけで済んで幸運だったと言えるかもしれない。万一、顔をもう少し下に近づけていたりしたら、目がつぶれていても不思議ではない。深く反省するとしよう。
 その後、夜中の3時頃まで、バケツで手を冷やし、丹念に飛沫をこすり落とした結果、黒い飛沫は3分の1ぐらいに減った。飛沫がとれたところの下に、けっこうな量の水泡があることがわかりぎょっとしたが、薬を塗って就寝した。完全に治るのに何日ぐらいかかるだろうか?
2010年7月2日(金) 朝
 「遥遠的救世主」の第一章を読み終わった。全部で四十六章もあるので、読みきれるかどうかわからないが、一章ずつ、あらすじやら、感想やらを書いてみようと思う。
 物語はドイツのフランクフルト空港に「肖亜文(以下「亜文」)が到着するところから始まる。そこへ、「芮小丹(以下「小丹」)」が迎えに出る。「小丹」と「亜文」は中国の警察学校での同級生 (ともに女性)であり、「 亜文」は数年警察を勤めた後、ビジネスの世界に入り、「小丹」はずっと警察に身をおき、今は刑事部門に所属している。「小丹」は現在フランクフルトにいる母のところで休暇を過ごしている。フランクフルトはまた、「小丹」が子供の頃9年間を過ごした場所でもある。
 今回「亜文」が「小丹」に会いにきたのは、ある人物の住居の手配を依頼するためだ。その人物とは「丁元英」。「亜文」によると、「丁元英」は、 この1年ほどの間、ドイツのプライベートファンドのファンドマネージャーをしていた人物で、「亜文」の上司でもあった。その奥深さは計り知れず、「人ではない。鬼か悪魔である」とのこと。「丁元英」は来月にも契約を終了し、ファンドマネージャーを辞めるのであるが、北京付近に部屋を探しておいてくれと「亜文」に依頼している。しばらくどこかで静かに暮らしたいのだそうだ。「丁元英」がファンドマネージャーをやめると同時に、プライベートファンドは解散され、「亜文」の仕事もなくなる。つまり、「丁元英」の部屋探しを最後に「亜文」と「丁元英」との縁は完全に切れてしまうことになる。
 「亜文」はこの鬼才「丁元英」との縁を保ったままでいたい。それで、いろいろ考えた挙句、北京で刑事として働く「小丹」に「丁元英」の部屋探しを依頼することにしたのだ。様々なことに気が利く「小丹」のそばに「丁元英」を置いておけば、「小丹」を通じて「丁元英」との繋がりを保ったままでいられると考えたのだ。そのために、一度は契約までした天津の部屋をキャンセルして、改めて「小丹」に北京の外れにある「古城」辺りに部屋を探してくれるよう依頼することにしたというのだ。さらには、この依頼を確実に「小丹」に引き受けてもらうため、自費でフランクフルトまで来て、今日のうちに北京に戻るのだという。
 「小丹」は、この学生時代から優秀だった友人がこれほどまでに高く評価する「丁元英」という人物に疑惑と興味を抱く。また警察に刑事として働いている自分が関与してよい人物かどうか心配しつつ、友人の強い依頼を断りきれず、部屋探しを引き受けることになった。
 「亜文」は「小丹」に忠告する。「丁元英」に惚れては駄目、それは地獄への門を開けるに等しいと。「丁元英」過去一度結婚しており、わずか半年で離婚している。それは、「丁元英」が根本的に普通の人間と異なったランクの人間であり、同等な人間として付き合うことができないためだったのだそうだ。「私は忠告しておいたからね。惚れて苦しむことになっても、恨まないでね」との言葉を残し、「亜文」は北京に戻っていった。
 以上が第一章のあらすじである。
2010年7月2日(金) 夕方
 暑さが増している。だが、今のところ、暑いなとは感じるものの、耐えられないほどではない。ただ、汗が止まらないのがネックだ。
 さて、「遥遠的救世主」だが、けっこう先のほうまで読み読み進めてしまった。今のところ、ドラマ「天道」と大きく違ったところはない。むしろ、「天道」が驚くほど小説に忠実に作られていることに感心させられている。
 第二章は、ドイツのベルリンにある建物の会議室を舞台にして始まる。ここで、「丁元英」をファンドマネージャーとした、プライベートファンドの関係者たちを集めた会議が行われる。ファンドはファンドマネージャー、リスク担保側、投資側の三つの参加者で構成され、ファンドマネージャー以外は複数いる。ファンドマネージャーは資金の運用、リスク担保側は損失が発生した場合の負担、投資側は資金の提供を担っている。この会議では、ファンドマネージャーである「丁元英」が、このファンド契約の停止を求めたため、その処理を行うことになっている。
 会議はリスク担保側代表の「詹妮(ジェニー)」によって進められ、まずこのファンドは約11ヶ月運用されたが、個人的な状態と資金の安全性を理由に「丁元英」から契約の停止が申しだされたため、解散されることになったことが宣言された。ファンドは、純利益として、4280万マルク(約24億日本円?)をもたらした。これは契約に従って、各々の参加者に一定の比率で分けられる。金額については、各々の参加の財務担当者がすでに確認を行っているため、参加者は書類にサインを行うだけである。
 書類にサインが行われた後、質疑応答や参加者の意見が出され、結果として、「丁元英」の取り分は2ー3年の間、凍結されることになった。また、投資側からの要請で、5年間は現在と同じ業界で仕事をしないことを約束することになった。この時、投資側は代償として、18万マルクの提供を申し出たが、「丁元英」はこれを受け取らず、代わりに凍結分のなかから、13万6千マルクを生活費として使えるようにして欲しいと主張し、承認された。
 会議後、「詹妮(ジェニー)」と「丁元英」と「亜文」は三人で高級バーにて最後の酒席を設ける。「詹妮(ジェニー)」は「丁元英」がなぜ突然、ファンドの停止を申し出たのかの真相を聞きだそうとしたが、「丁元英」はこの問題は中国人として外国人と論ずる性質のものではないとだけ告げるにとどまった。「詹妮(ジェニー)」には疑問だけが残された。
 以上が第二章のあらすじである。投資側が代償として提供しようとした18万マルクを受け取ったのかどうか、私の中国語では、実ははっきりと読み取れなかったのだが、多分受け取らなかったのだろうと思う。また、あらすじには書かなかったが、「詹妮(ジェニー)」は「丁元英」と大学時代から付き合いがあり、当時の「丁元英」は現在のように口数が少なくはなく、相当しゃべるタイプだったようだ。
2010年7月3日(土) 
 火傷の具合が心配で外に出られない。ばい菌でも入ったら大変なことになりそうだからだ。20個ぐらい水泡があるから、病院へ行ったほうが良いのかなと思うが、見た感じではゆっくりとではあるが、回復に向かっているようなので薬局で買った薬だけで治そうと思う。
 今日も、「遥遠的救世主」 を読んだ。もう十二章まで読んでしまったので、あらすじを書くのが全く追いつかない。しかし、中国語の勉強にもなると思うから、続けられるだけ続けてみよう。
 第三章は「丁元英」が中国に帰国し、北京に到着するところから始まる。「丁元英」は迎えにきた車の中で、会計士から最後の報告を受ける。ファンドの解散にともなって、北京の事務所も必要なくなるからだ。会計士は、「亜文」を含むスタッフの給与の処理やコンピュータ等の事務機器の処理、電気代や事務所レンタル費用について細かく報告をした。
 車はまず「陽光ホテル」に到着。そこでは「丁元英」の妹夫婦が待っていた。「丁元英」があらかじめ呼び寄せておいたのである。「丁元英」は妹「丁秋紅」に車を一台とそのメンテナンス費用や父母の危急時のためのお金として合計6万ドルを渡した。妹「丁秋紅」は父親が経営しているお茶屋さんに関して、改築を考えており、兄である「丁元英」に父親を説得してくれるように頼むが、「丁元英」は父親の判断が正しく、現状維持のままが望ましいと答えた。妹は兄の言葉が常に正しい結果となることを骨身に染みて知っており、一言も反論することなく従った。
 妹に車を受け渡すと、「丁元英」はタクシーに乗って、ファンドの事務所に向かった。事務所は返却前の荷物のまとめの真っ最中で、空港から直接事務所へと向かった「亜文」が引越し会社のスタッフに忙しげに指示をしていた。「亜文」は「丁元英」が到着したのを知ると、最後の報告と同時に惜別の言葉を交わした。この時突然、一人のセレブ風の女性が事務所に訪れた。「陳茹」- 「丁元英」の大学時代からの親友であり、今回のファンドのリスク担保側の一人でもある「韓楚風」の妻 - である。「陳茹」の弟が酒場で問題を起こし、そのトラブル処理に必要なお金を都合してもらいたいと依頼に来たのだ。「韓楚風」は「陳茹」の弟を厄介者だとみなしているため、夫に相談できず、「丁元英」のところに相談に来たというわけである。「丁元英」は即座に承諾し、15万元を渡すことになった。これによって、「丁元英」の手元に残された現金は2万元ほどになってしまう。
 事務所の片付けが済むと、今度は「韓楚風」が所有する、過去「丁元英」が北京における臨時の住居として使用していた建物に向かった。この建物の地下室にわずかに残された荷物を預けるためである。荷物の処理がだいたい終わった頃に、「韓楚風」が「丁元英」を迎えにやってきた。北京(中心)を離れる前に、一晩「丁元英」と飲み明かそうというわけである。
 ホテルの豪華な一室で、最高級の料理をつまみながら、「韓楚風」は「丁元英」に三回の乾杯を申し出た。
 一回目が、今回のファンドに関する感謝を示す乾杯(三杯飲んだ)。
 二回目が、「韓楚風」が所属する正天グループに関するもの。「韓楚風」は現在、正天グループの一つである正天商業ビルの総経理である。最近、正天グループ全体の総裁が亡くなり、その遺言として「韓楚風」が次の総裁となるよう言い残した。「韓楚風」はこれを受けるべきかどうか。当然のことながら、「韓楚風」にとって非常に重要な問題であり、もっとも信頼する頭脳を持つ「丁元英」に幾度となく、この問題に関して相談をしたのだが、はっきりとした回答が得られていない。「韓楚風」は「丁元英」が回答を避けているということはすなわち、今回は総裁の任を受けるべきでないとの意味だと察しているが、このチャンスは失ってしまえば、あまりにも甚大な損失となるため、明確な理由が知りたいと思っており、この酒の機会になんとか「丁元英」から聞き出そうという腹だった。
 幸い、酒の勢いも手伝って、「丁元英」は重い口を開き、 「今回は総裁になるのを見送って、(現在の)二人の副総裁に譲ったほうが良い。そのほうが最終的に勝てる可能性が高い」とアドバイスをする。「二人が 争って、消耗してボロボロになったとき、自然と誰が総裁にふさわしい人物かが明らかになる。その時を待って総裁になったほうが本当の権力を持つことができるだろう。逆に、お前が先に総裁になったとしたら、二人の副総裁に共同戦線を張らせることになり、最初の犠牲者はお前ということになる」。
 「じゃあ、もし二人が争わなかったら?」と「韓楚風」が尋ねると、「丁元英」は「これは、文化属性の問題で彼らの意思でどうこうなるものではない」と答えた。「韓楚風」は本当に「丁元英」の言うとおりになるかどうか賭けをしようと言い出し、現在の「韓楚風」の車であるベンツ(だいたい70万元として)を賭けるといった。これに対して、「丁元英」は「なら、お前と俺とで1:5の賭けとしよう」と言い切る。「そんなに確信があるのか」と驚く「韓楚風」。「丁元英」は「これは確信ではない。確率の問題だ」とあっさり答えた。(再び、お互いに三杯を飲む)。
 三回目が、ファンドの解散に関してである。「今、一番儲かっていた時期なのに、なぜ止めてしまったんだ」と質問する「韓楚風」。これに対する答えは「プライベートファンドは狼の口から肉を取ってくるようなものだ。ほどほどのところでやめておかなければならない」というもの。さらに問う「韓楚風」に「丁元英」は多くを語るが、それはつまるところ、「丁元英」が中国人だから、ということに尽きた。
 二人はそのまま中国の文化を題材に語り続け、飲み続け一夜を明かしたのだった。
 以上が第三章のあらすじである。比喩や哲学的な話を交えての会話なので、私には何を意図したものなのか意味のわからないセリフが多かった。似たような比喩や会話はこの後も頻繁に出てくるようなので、わかったら改めて説明したい。
2010年7月4日(日)
 昨日から今日にかけてずいぶんと暑くなった。昨晩はZと扇風機の取り合いになったほどだ。これぐらいの暑さになってくると、シャワーを浴びても、1時間としないうちに汗がだらだらと流れ出してくる。とにかく慣れるしかない。
 さて、毎年この季節になるとのどが渇きやすくなる。暑いのだから当然だ。昨年はジュースをがぶがぶ飲んだが、今年からはアイス・プアール茶とアイス・コーヒーをメインにしている。アイス・プアール茶は昨年もよく飲んだが、アイス・コーヒーは今年から始めた。数年前に買った水出しコーヒー用のガラスボトルを使って、アイス・コーヒーを冷蔵庫に常備しておくことにしたのだ。以前にこのボトルを使ったときは、説明書通りにコーヒー粉を入れたら、やたら濃くなってしまった。そこで現在は量を調整して飲んでいる。いろいろ試したが、水出しコーヒーの場合、あまり薄すぎると美味しくなくなる。そこそこの量は使わないと駄目なようだ。これはドリップでも同じか・・・。
 さて、「遥遠的救世主」 の第四章。一晩、「韓楚風」と飲み明かした「丁元英」は「亜文」たちとともに、夕方4時に北京(中心)を離れ、「小丹」が古城に手配しておいてくれたマンションに向かった。夜の9時に古城に到着。「小丹」はパトカーを脇に置いて、彼らを待っていた。これは故意にそうしたのであり、「小丹」の警戒心と「丁元英」に対する警告の表れであった。「亜文」から聞いた「丁元英」の過去の経歴から、「小丹」は彼に好意をもっていなかったのだ。
 マンションの下で「丁元英」と「小丹」は挨拶を交わすが、「丁元英」からは昨日の酒の残り香がぷんぷんと漂っており、「小丹」はますます「丁元英」に悪い印象を抱いた。挨拶の後、「小丹」は住居周辺の 状況を簡単に説明した。それから、5階に上がり、部屋に入り、説明を加えた。「この部屋は一番上の階で、断熱処理をしていないため、すごく暑くなります。だから、貴方はエアコンをつける必要があります。これについて大家から条件が出されていて、エアコンをつけるなら有名メーカーの製品でなければならないとのことです。エアコンの費用の半分は来年の部屋代の一部分として認めてくれるそうです。このことは急ぎの用件でないため、貴方が来てから決めることにしました」。「丁元英」は「わかりました」とだけ短く答えた。
 この部屋は70平方メートルの2L1Kの新しい部屋で、内装もされておらず、床はコンクリートむき出しの状態だった。部屋にあるのは北京から持ってきた「丁元英」の生活用品のみ。ベッド、デスク、ソファ、テーブルが置かれ、また一千枚以上のミュージックCDが寝室の本棚に詰まっていた。あとは、リビングにテレビが1台と1セットの音響機材及び2台のノートPC等の電気製品があった。
 部屋を去るに当たって、「小丹」は連絡用にと自分の電話番号を書き記したメモを「丁元英」にやや冷たい態度で渡した。
 帰り道、「小丹」は古城の繁華街にある「ビーナス・ホテル」に寄る。親友でホテルのオーナーである「欧陽雪」が門から出てきて、短い会話を交わす。
 「見てなさい。幾日も経たないうちに、その男、理由をつけて貴女に電話してくるわよ」と言う「欧陽雪」。「かかってきたら、そのときはそのときよ」と「小丹」は返して、再び帰路に着いた。
 以上が第四章のあらすじである。 
2010年7月6日(火)
 日差しがきつい。火傷の後に暑さが染みるから、左手の甲の一番ひどいところは右手で覆うようにして歩かなければならない。はやく完治して欲しい。
 さて、筋力運動について。先々週は朝やったら、夜やらなかったり、朝さぼって、夜やったりで怠けがちだった。そこで先週は月曜日から水曜日まで朝晩きっちりやって挽回を試みた。ところが水曜日の夜に火傷を追ってしまったため、木、金曜日と全く運動できなかった。もともと怠けたいという気持ちがある上に、火傷に差し障りがあるのではと不安が重なって、やれなかったのだ。このままでは駄目だと土日は朝だけなんとか運動し、昨日の月曜日は朝晩きっちりやった。どういうわけだか、昨日からスクワットも腕立ても先週よりぐっと楽になった。数を間違えたかなと錯覚したほどだ。二日間まるまる休んだことで、筋肉から疲れがとれたのだろうか。筋力量が増えたのだったとしたら嬉しいのだけれど、しばらく様子をみないと何とも言えない。
 暑くなってくると、運動後に汗がだらだら出るのが面倒くさい。腹筋と背筋を始めてから特に汗が出やすくなった。体に十分に負荷がかかっている証拠だから、良いことなのだろうけれども、汗は困る。それで最近は、朝の運動後にシャワー、出発直前にもう一回シャワーを浴びている。洗濯物も増えるから困るのだけれども、仕方がない。一度のシャワーの時間を長くして、冷水で体を十分に冷やせば汗が出なくなるだろうか?クーラーをガンガン使えば、こんな悩みもなくなるのだが、今年もクーラーなし生活をやり遂げるつもりなのでそれもできない。悩み尽きず。
2010年7月8日(木)
 火傷がほとんど治った。水泡も一箇所を除いて、消えた。その一箇所も今日中にはなくなりそうだ。思いのほか、はやく治って助かった。
 昨日のことであるが、このホームページを読んでくださっているYさんというから、メールを頂いた。その中で、「馬油」というのが火傷に大変効くとご紹介頂いた。あいにく、火傷はもうほとんど治ってしまったので、今回は使用する機会はなさそうだが、次回何かあったときのために、「馬油」というものを調べておこうと思う。アドバイスをありがとうございました。
 さて、筋力運動のほうは、やや進捗が見られている。先日感じた通り、スクワットも腕立ても確かに楽になってきた。筋力量が増えたのは確かなようだ。大変嬉しい。腹筋・背筋はまだまだであるが、こちらも、わずかに楽になってきた。このまま継続するとしよう。
 柔軟体操のほうも、わずかに変化がみられた。以前に書いた通り、最近は脚を外旋させる方式で、開脚を促進する訓練をしていた。ところが、その外旋がなかなかできなかった。本来は30分ぐらいやらなければならないのだが、数分やっただけで脚が動かなくなってしまうのだ。今まで動かしたことのない筋肉だから、すぐにバテテしまっていたのだ。それが、今朝やってみると、これまでよりぐっと楽に継続できるようになっていた。30分はとても無理だが、いままで1分やるのも辛かったのが、2,3分は問題なくできるようになった。この調子でいけば、もう少し長時間できるようになるかもしれない。そうすれば、開脚度もぐっとあがることだろう。筋力運動は昨年10月ぐらいから始めて明確な結果が出ているが、柔軟体操はすでに1年以上もやっているのに、開脚度はほとんど変わっていない。体全体のバランスはよくなっていると思うが、開脚度が上がらないと、上達を感じられずにつまらない。外旋方式で、なんとか目に見える結果を出したいものだ。
2010年7月10日(土)
 昨日の夜は強い風が吹いて、雨も少し降ったかと思うが、今日はかんかん照りだ。私の部屋は幸い2階であるため、今のところそれほど暑くない。しかし、全身を毛で覆われたマイクにとっては大変らしく、しばしばこんな格好で寝ている。 快適になるにはどうしたら良いかを知っているようだ。
 
 

 上は、マイクと虎のぬいぐるみの写真だ。全くといって良いほど他の犬と接触させていないので、この虎のぬいぐるみは私とZを除いては唯一の遊び相手で、相当気に入っている。たまに洗濯をして、ベランダの物干しにつるしておくと、そばに行っては「くぅーん、くぅーん」と鳴く。乾いたところで床に置いてやると、しばらくは寄りつかない。どうやら、臭いがなくなっているのが気に入らないようだ。それでも、少しずつちょっかいを出し始めて、次の日にはもとのようにじゃれて遊んでいる。そのうち、もっと巨大なぬいぐるみを買ってやろうかと思っている(がZのOKが出ないだろう)。

 さて、「遥遠的救世主」 の第五章。「丁元英」が古城に移って、8ヶ月が瞬く間に過ぎ去り、あと数日で中国の伝統的な記念日である春節がやってくる。この8ヶ月間、「丁元英」が「小丹」に電話してくることは一度もなかった。「小丹」は刑事部門における仕事で毎日を忙しく過ごしているうちに、「丁元英」についても少しずつ忘れていった。しかし、ふとした拍子に「丁元英」のことを思い出し、彼に電話をすることにした。親友の「亜文」からよろしくと頼まれた人物のことなのだから、最低でも春節の前には電話の一つもしておかなければならないと考えたのだ。
 電話をしてみると、「こんにちは。何か御用ですか?」と礼儀正しいながらも短い言葉が返ってきた。「小丹」はこれにちょっとむっとしながらも、「いいえ、私が用事があるんじゃなくて、そちらに何か用事がないかと電話をしたんです。もうすぐ春節です。何か必要なものはありませんか。特に誰かに頼んで部屋の様子を見ておいてもらうとかの必要はないですか」と尋ねた。「丁元英」からの答えは「私は春節は実家に戻りません。だから、何の心配もいりません。お手間をかけさせました。ありがとうございます」というものであり、会話はそれだけで終わった。
 春節の前の日、事件が発生した。小物ばかりながらも、8人の犯罪者が捕まった。「小丹」も大活躍し、逃亡を図って銃を奪おうと襲い掛かってきた犯人の一人を瞬く間に押さえつけ逮捕した。一仕事を終え、刑事部門の仲間たちとわいわい言い合っていたとき、「小丹」の脳裏に再び「丁元英」のことがよぎった。先日の電話における短い会話の中にあった「何か御用ですか」の一言が意味するものに気づいたのである。そのとき、「小丹」はなんとなく不快に思っただけであったが、冷静に考えるとこの一言が意味するものは簡単ではない。これは明らかに「意識の位置」の問題であり、「丁元英」の頭の中には、「他人に物を頼む」という考えが全くなく、ただ「私が相手のために何かやってやれるか」との考えだけが存在していることを意味する。これは人より一歩抜きん出た高い位置にあることに、無意識のうちに慣れた者ののみが成せることである。
 「小丹」はまた考えた。結局のところ自分は「亜文」から「丁元英」について頼まれたのだから、彼が春節に実家に戻らないのなら、どんな理由があれ、彼のところへ一回行って挨拶をすべきだだろう。自分の考えは考えとして、礼儀は礼儀として尽くさなければならない。それで、「小丹」は仕事が終わると、古城の「丁元英」のマンションに行った。ところが彼は部屋におらず、探しに行こうとした。すると、「丁元英」がインスタント・ラーメンが詰まった箱を二箱抱えて戻ってきた。「春節だから、食事をやっている店が皆閉まってしまうからね。近くの店で食料を仕入れてきたんだ」とのこと。「小丹」は刑事という職業がら、インスタント・ラーメンは飽きるほど食べていて、見るのも嫌なほどだ。それを「丁元英」は半月近く食べるというものだから、信じられなかった。「何でまた、同じものばかり買ったの。いろいろ冷凍食品だってあるでしょう?肉マンとか餃子とかワンタンとかの。味付けもできるし」と言ってみたが、「丁元英」の答えは、「いや、これで十分なんだ」というものであった。
 特にそれ以上言うこともなく、年越しの挨拶だけして、「小丹」は「丁元英」のところを去った。帰り道に、「小丹」は(ホテルのオーナーである)「欧陽雪」のところに寄って、「丁元英」のところに食べる物を少しばかり届けてもらうように頼んだ。「亜文」によろしくと頼まれた人に半月もインスタント・ラーメンを食べさせたのではいかにも具合が悪いからという説明つきであったが、「欧陽雪」は「小丹」の口調から、彼女がすでに「丁元英」に反感を持っていないのに気づいた。それについて問うと、「小丹」は、彼女が「丁元英」が住んでいる地区の守衛の一人に尋ねたところでは、彼は毎日三回食事をしに出てくるだけで、誰とも付き合っておらず、ほとんど部屋に篭りきりだということだった。そんな何も悪いことをしていない人に反感を持つこともないでしょうということだ。
 しかし、「小丹」は同時に「亜文」がフランクフルト空港で別れたときに言っていた言葉を思い出していた。「私の知能では、あの人のことを到底理解できない」、そう言っていた。「小丹」は思った。(でも、「亜文」ほど頭の良い人なんてそうはいないというのに)。
 以上が第五章のあらすじである。「小丹」の「丁元英」への気持ちに小さな変化が現れてきた。第一章のあらすじのときに書き損ねたが、「亜文」が「小丹」に説明した「丁元英」の履歴の中に、酒と女にうつつをぬかした期間があり、正義感が強く、潔白を良しとする「小丹」はそれに反感を持っていた。その反感が、この章で払拭されたことになる。また、ドラマ「天道」の最後の方で、「小丹」が死ぬ前に、「丁元英」との思い出を回想した際、この章にある彼がインスタント・ラーメンを両手に抱えて戻ってきたシーンが出てきた。30回以上もある長いドラマ(中国では普通の長さ)なので、観ていた私にとってもすごく懐かしく感じられた。小説では回想シーンがどんな風に表現されるのだろうか?

2010年7月15日(木)
 ここ数日、暑さが増したなと思っていたら、フィリピンで発生した台風が近づいてきているのだという。熱風を吹き付けてくるなんて、とんでもない奴だ。冷風だったら、皆喜ぶだろうに。
 最近、マイクがおからを食べなくなって困っている。おからを食べてくれないと体臭がきつくなるから、あれこれと別の食材を混ぜて食べさせるのだが、最近はその混ぜる食材に肉とか好物のものを混ぜても食べたがらなくなってきた。おからの臭い自体が嫌いになっているようだ。そこで、おからの臭いを消してしまおうと、ごま油で炒めたり、オイスターソースで味付けしたり、カレー粉で味付けしたりしてみたのだが全く無意味だった。
 昨日は卵3個とおから300gぐらいを混ぜて炒めてみた。そのままお皿に入れて上げても食べそうもないので、まず私が食べてみせて、それから少し皿に移してやるという方法をとってみた。そうすると、迷いながらもなんとか食べる。多く入れすぎて、ぷいとそむかれるとアウトなので、毎度食べて見せては、皿に移してやった。そうやって最後までやってやると全て食べてくれたが、明らかに私が食べた量が多い。4分の3ぐらいは私が食べた。夕食を食べた後だというのに卵が3個が入った料理を食べてしまう羽目になった。この方式は駄目だ。
 つまり、おからに味付けして食べさせる方法では無理なのだ。恐らく、臭いだけでなく、外観とか食感とかでも、おからを拒否してしまっているのに違いない。そうであるならば、逆転の発想だ。おからを食べたい!そういう気持ちにさせれば良い。まず、マイクが一番好きなレトルトに入った高級ドッグフードを用意する(最近は贅沢になって、缶詰のドッグフードすらなかなか食べなくなった)。これにラー油を混ぜる。最初はほーんのわずかだけ入る。たくさん入れると、辛くて食べてくれないからだ。少しずつ量を増やす。そうしていくと、そのうち、ラー油大好きワンちゃんになる。もう、ラー油なしではいられない。そういった体質にしてしまう。それから、今度はおからにラー油を混ぜて差し出すのだ。これはもう食いつかずには入られないに違いない。
 しかし、ラー油なしではいられない犬というものどうなんだ?新種の四川犬とでも呼ぶべきものか。それに犬の体質にラー油はどうなんだろう。四川の野良犬はきっとラー油入りの料理をぱくぱく食べているに違いないからそんなに問題はないと思うが、ちょっと心配だ。やるべきか、やらざるべきか。 
2010年7月17日(土)
 台風は中国へは入らず、ベトナムへ上陸したようだ。そのため、時おり、強い風雨があるものの、全体的には安定した天気が続いている。
 「遥遠的救世主」 の第六章。再び4ヶ月が過ぎた。「丁元英」の住居の大家が電話をしてきて、あと五日で契約の期限が切れると連絡してきたため、「小丹」は「丁元英」のマンションへ向かった。契約が切れるということは、「丁元英」が古城に来て、もうすぐ一年になるということだ。
 「丁元英」に来訪を告げ、部屋に入ってみると、むっとした暑さを感じた。これはちょうど一年前、「丁元英」に部屋の引渡しをした時にも感じたことであり、「小丹」はその時以来、「丁元英」の部屋に入ったことはなかった。「丁元英」は結局、部屋にエアコンを取り付けなかったのだ。
 エアコン取り付けに関して大家が要求したのは、有名メーカの製品でなければならないというものであり、それには約8000元ほどかかる。また、エアコンの費用の半分は二年目のや家賃に充当してよいというものだった。これらの要求はやや厳しいものだったが、「丁元英」のような生活レベルの者にとって、何でもないことのはずだ。彼は、あまりにも計算高すぎるのか、それとも何か問題でも抱えているのだろうか。「小丹」は遠まわしにエアコンの取り付けについて「丁元英」に尋ねたが、「丁元英」は、「今のままで十分です」と簡単に答えただけだった。
 「丁元英」は一年分の家賃その他の費用を「小丹」に渡したが、「小丹」は「同じ家賃でもっと良い部屋がないか探してみるから、先に一ヶ月分だけ大家に渡して置くわね」と告げた。つまり、これはエアコン付きの部屋を探すという意味だが、双方とも、そのことには直接触れなかった。エアコンについての話題をこれ以上するのを避けるために、「小丹」は「丁元英」のオーディオセットで音楽聞かせてくれと頼んだ。「丁元英」のオーディオセットは一つのラックに13台もの機器を配置してあり、見るからに高価そうなものだった。
 「丁元英」がCDをセットして、オーディオセットから流れてきた音楽を聴いて「小丹」は強い衝撃を受けた。それは一人の穢れなき女性が天国から、まるで神の慈愛をもって人類を見つめて歌っているかのような声だったからだ。「小丹」は身を震わせるほど感動した。曲が終わり、歌の名を尋ねると、「天国の娘」という歌だということがわかった。オーディオセットの値段についても尋ねると、「丁元英」は「そこそこの値段です」とあいまいに答えた。「小丹」が「そこそこってどのくらい」と突っ込むと、「数万元ぐらいだ」と告げるのだった。「小丹」はそのCDを借りて家に帰った。
 家に着くと、「小丹」は毎日の日課である500字の日記を書いた。これは中文とドイツ語の両方で書くことになっていて、彼女が自らに厳しく課している日課だ。一つは表現能力を高めるためであり、もう一つは将来職業を弁護士に変えるためにドイツで法律の勉強をするときの準備としてである。
 日記が終わると、借りてきたCDを聞くために、CDをコンピュータのCDドライブに入れた。しかし、コンピュータのスピーカーから流れてきた音楽は、「丁元英」のところで聴いたものと全く異なる音質で、天と地の差があった。天国はすでに天国ではなく、天国の娘は天国の娘というべきものではなかった。「小丹」はしばらく考えたの後、自らもオーディオセットを購入することに決めた。「果たして私はそのような生活レベルにふさわしいのだろうか」と悩みながら。
 以上が第六章のあらすじである。この部分は、音楽が出てくることもあって、ドラマ「天道」のほうが「小丹」の感動が伝わってきた。この音楽は幾度もドラマで流れ、観ている私までも(俺もオーディオセット買おうかな)と考えさせられたほど印象深かった。ともあれ、この件をきっかけに、「小丹」は「丁元英」に急速に惹かれていくことになり、同時に彼の奥深さが少しずつ表面に現れてくることになる。 
2010年7月18日(日)
 昨晩は長いこと雨が降っていたようだが、今日は再びからりと晴れた。台風もきっと遠くに消え去ってしまったことだろう。日が照りつけている割には、私の部屋はあまり暑くならない。2Fだから、直接日光が差さないのと熱が上の階で吸収されてしまってこちらまで降りてこないのだろう。「今年は意外と涼しいよね。なんだか、あっという間に夏が終わっちゃいそうだね」。ぽつりを私が言うと、Zが「何言ってんのよ、暑いわよ。もうしゃべらないで、頭にくるから!」と怒りをぶつけられた。Zも、私と同様に昨年はクーラーなし生活をやり遂げたというのに、どうして気温に対する感覚が異なるのだろうか。ちょっと不思議だ。
 以前にも書いたが、私がいつも利用している軽トラ・タクシーの運転手は、近くのデパートの電気店から配送の仕事を請け負っている。今年はクーラーが馬鹿売れで、儲かって仕方がないらしく、特に月曜日はにこにこしている。天気の良い日曜日には今や30台以上ものクーラーが売れるから、一日の収入が1000RMB前後にもなり、自然と笑顔がこぼれるらしい。運転手はしばらく前までは、キャンペーン中で値段が安いから売れるのだろうと考えていたらしいのだが、シーズンになって値段が上がっても、台数は伸びる一方なのだという。以前に客層を尋ねたときは、「いろいろだよ」とあいまいな答えが返ってきたが、私に質問されてから客層を観察し始めたらしく、「クーラーを買うのはほとんど出稼ぎの人たちだ。地元の人たちはすでに持っている人が多いからだろうね」と改めて教えてくれた。こんな風に売れ出すと、お互いに行き来が多く、噂話が好きな中国人のことである。隣が買ったからうちもという具合に皆が皆、クーラーを取り付け始めるのだろう。最近多い賃上げ要求のストライキも、こうした生活レベルの向上が大きな原因の一つになっているのではないだろうか。
 さて、運動の状況について。今日から腕立て伏せを1セットに付き5回だけ増やした。腕にも脚にも筋肉が増えたような気がしたので、スクワット10回増加と腕立て10回増加とやりたかったが、安全をみて腕立て5回だけにしておいた。過去の経験からしても、いけるぞ!と思って思い切って数を増やすと、たいてい長い間辛い思いをすることになったからだ。これはどうしてなんだろうと考えてみたのだが、恐らく、筋肉の増量を感じた瞬間というのは、その運動-例えば腕立て-に必要な全ての筋肉が増加したわけではないのだ。その運動に必要な一部分の筋肉が増加したに過ぎないから、そこで一気に数を増やしてしまうと、増えていない部分にやたら負荷がかかり苦労することになるのだ。
 ともあれ、これで1セットが、スクワット50回・腕立て45回・側筋左右20回・腹筋15回・背筋15回となった。朝晩2セットずつだから、1日の合計はスクワット200回・腕立て180回・側筋左右80回・腹筋60回・背筋60回となる。しかし、これだけやっていても、お腹の贅肉は今ひとつ減らない。腹筋・背筋の量が今の2倍ぐらいになったら、ちょっとは減ってくれるかな?とにかく地道に頑張るとしよう。
2010年7月23日(金)
 台風が2週連続でやってきたが、2回とも遠くを通りすぎってくれて助かった。近くに来さえしなければ、台風は適度な風と雨をもたらしてくれる恵みの神である。近場にやってきたりすると大変だ。インフラが弱いこの辺りでは排水がままならず、道路が容易に深い河へと変わってしまう。マンホールの蓋が盗まれてなくなっていたりするから、河になった道路を渡るのはそれこそ命がけになる。今回は前回よりも風も雨も強かった。地域によっては大雨が降ったようだったから、けっこう際どかったのだろう。次に台風がやってきたら、やられるかも・・・。
 今月は、私が勤めている工場や周辺の工場で、ストライキが頻繁に行われた。幸い、大規模なものではなく、ほどなく治まった。炎天下の中、道路に出て抗議の姿をみせている彼らを目にすると、 気分が沈む。ストをすれば、給与が上がると考えている。日系企業や台湾系企業で起きたストライキが成功したのを見て、我も我もと相乗りしようとしている。そんな風に捉えることもできる。しかし、けっしてそれだけではない。
 私が初めて中国にやってきたのは十数年前のことだった。中国の内陸にある貴州省で語学留学をした。数ヶ月ほど経った頃、学内の文具屋にシャープ・ペンシルを買いに行って驚いた。シャープ・ペンシルと並んで、昔懐かしいロケット・ペンシルが売られていたのだ。しかも、ついでに置いてあるという風ではなく、ショー・ウィンドウの中でシャープ・ペンシルとほぼ同じ面積を占めていたのだ。その時は、(そうか、中国は急に市場開放を進めたから、シャープ・ペンシルがロケット・ペンシルを駆逐することなく、同等のものとして市場に根付いたのだろうか)と不思議に感じた。そこで売られていたシャープ・ペンシルの芯が特にお粗末で、ちょっと力を入れただけで、面白いぐらいポキンと折れた。これではロケット・ペンシルを追い出せないのも無理はない。そう思ったものだ。
 そして、現在。今や、見よう見まねで作った外国製品ではなく、ノートPC、デジカメ、携帯電話、家電、化粧品、衣服、ありとあらゆる本物の製品が市場に溢れている。溢れてはいるが、値段は決して安くない。むしろ、日本で買うより高かったりする。溢れているのは商品だけではない。広告もだ。これも素晴らしい、あれも素晴らしい。 そこかしこに消費欲をそそる宣伝がなされている。これで、物が欲しくならないほうがおかしい。誰だって自分のものにしたいと願うだろう。
 実際、これらの商品を日常的に購入できる人たちがいる。富豪と呼ばれるほどでなくとも、マンション、車、家の中には高級家具、外国製品の電気製品、化粧品を揃えている人たちが少なからずいる。全てではないが、大中企業の上級管理職クラスはこうしたものに不自由していない人が多くいるようだ。こうした人たちはストライキなどに参加したりはしない。ストライキに参加するのは、市場に溢れるこれらの製品に手が届かない人たちだ。見ずに暮らせるのであれば、欲望を刺激されることもない。しかし、休日にデパートやスーパーを訪れる度に、「こんなものもある、あんなものもある」と見せつけられては誰だってたまらない気持ちになることだろう。隣人を訪れて、エアコンの快適さを知れば、欲しくなる。エアコン自体は安いから、買ってしまおうということになるが、電気代は 安くない。たちまち家計を圧迫し始める。ストライキをやって給料が上がれば、電気代の足しにできる。切実な願いだ。「給料に見合った生活をすべきだ」。わかりきった道理を口にするのがすごく困難に感じられる。
 現在、ストライキをやっている世代は、それでも子供時代は何もないところで暮らしていた人たちがほとんどで、沿海地域にやってきて経済発展の中に身を浸して初めて、物質社会、消費社会を知った人たちだろう。しかし、彼らの子供たちの世代になったら、そうではない。幼いときから、そうしたものに囲まれて育って、なおかつ手が届かない。そんな人たちが社会の大勢を占めるようになったら、一体何が起きるのだろう。そんな不安を抱かずにはおれない。
2010年7月25日(日)
 まだ台風の影響が残っているのだろうか。昨日から雨が降ったり降らなかったりと変な天気だ。今日は夕方から大雨が降った。
 さて、私が住んでいるのは、深セン郊外の街のメイン通りから一つ奥に入ったところにある、地元の人が建てた7階建ての地味な建物の一室である。このアパートに面する通りは果物屋、食堂、文房具屋、クリーニング屋、歯医者と生活に必要なお店はたいてい揃った、小さな商店街のようになっているのだが、これらの店の外観がここ一年で見違えるほど変わってきた。どういう変化かというと、以前は小汚い店ばかりだったのが、小奇麗な構えのお店が立ち並ぶようになってきた。数年前から、ちらほらと看板や内装が綺麗なお店が現れていたのだが、ここしばらくの間に皆が皆、そんな店に変わった。まだ店によって程度にばらつきがあるけれども、あと数年も経てば立派な商店街になりそうな雰囲気である。日本と違って、町内会で話し合ってとかいうことはないから、この辺りに住んでいる人たちの生活水準の向上や出稼ぎ族の定住化を示しているのだと私は思っている。
 出稼ぎ族の定住化を示す出来事がもう一つある。もともと深セン郊外の小さな食堂では、近所であれば料理の配達をやってくれる。私もけっこう利用していて重宝している。しかし、マクドナルドやケンタッキーなどの大手のチェーン店は深セン市内では何年も前から宅配サービスを始めているものの、私が住んでいる街のような郊外では宅配サービスをやる様子はなかった。それも道理である。小さな食堂が合間を見て配達する程度ならともかく、大手チェーンがシステマッティクに宅配をするには、郊外の住人が住む場所はあまりにも複雑に込み入っており、住人たちの入れ替わりも激しすぎたからだ。
 ところが、先日、近所のケンタッキーに行ったら、店の前に配達用ボックスを載せた自転車が数台並べられているではないか。驚いて店員に訪ねると、「9月ぐらいから宅配サービスを始める予定」とのことである。店員の口調が「始まってほしくないなー、面倒臭いな」という感じだったので、本当に始まるかどうかまだ怪しいところだ。自転車を並べてみて、客の反応を見ている段階なのかもしれない。しかし、こうしてケンタッキーという大手が宅配を検討しているということは、この出稼ぎ族の街に、宅配というサービスをシステマッティクに展開できるような状況が整いつつあるということだと思う。出稼ぎ族たちの定住化、治安、その他の状況が揃ってきているのだ。私が住み始めた8年前から比べても、この街はずいぶんと変わってきたが、これから数年後の変化はそれをはるかに上回るものになるかもしれない。そんな想像をさせられている。
 さて、「遥遠的救世主」 の第7章。「丁元英」のところで聴いた「天国の娘」は、「小丹」に大きな影響を与えた。「小丹」は同じ音質を再現できるオーディオセットが欲しくてならなくなってしまったのである。数万元もするオーディオセットを購入するのは、あまりにも贅沢すぎるのではないかと悩みながらも、欲望を抑えきれず、「小丹」は支出を決定した。ところが、 街中(古城)の音響関連の店をまわっても、「丁元英」のオーディオセットと同様な音を出せる機器が見つからない。「小丹」は焦るあまり、仕事がまともに手につかないほどであった。それはやがて上司、同僚に知れ渡ることになり、とうとう半月もの停職処分を喰らってしまった。
 しかし、この処分も「小丹」のオーディオセットへの情熱を冷まさせることはなく、彼女はその日のうちに、古城の音響店の一つを経営する「葉暁明」のもとを訪れた。そして、「この街でオーディオを趣味にしている人で私が知らない人はいない。貴方が言っているような音質というのは、そのときの心理的な作用で、理想化してしまっているだけだよ」と言う「葉暁明」を説得して、 半ば無理やり連れて「丁元英」のもとを訪れた。その物を見せて、同じ機器を揃えてもらうためであった。
 「丁元英」のところでオーディオセットを見た「葉暁明」は一目でこの機器が通常のものと大きく異なることを見抜いた。「丁元英」の許可を得て、前後左右から機器を観察し、CDを借り音楽を聴いた。曲が終わっても、動く様子のない「葉暁明」に「小丹」が「しっかりと見た?」と尋ねると、彼は再びオーディオセットのところに行き、置いてあるCDをしげしげと眺めた後、「しっかりと見たよ」と答えた。
 「丁元英」のもとを去り、店に戻った「葉暁明」は「小丹」に驚くべき二つの事実を告げる。一つは、「丁元英」のオーディオセットが普通のお店で買い求められるようなレベルのものではなく、全く独自に設計・製作されたもので、同様なものを実現するには少なくとも40万元は必要であること。もう一つは「丁元英」のところでみたCDには、彼の名前が刻印されており、同様の刻印のあるCDが半年前ほどから、彼の友人が開いているCD店で販売され始めたとのことだった。これはつまり、「丁元英」が、自分の名を刻印をするほど大切にしているCDを売り払わねばならないほど生活に困っていることを意味した。
 「小丹」は改めて、「亜文」が「私の知能では、あの人のことを到底理解できない」と言ったことを思い出し、「この男はやはり特別みたい」とうめいた。
 店主の下を去った「小丹」の心は羞恥と怒りの間を揺れ動いた。羞恥とは友人に頼まれた人物がそこまでの困難に陥っていることを全く知らずにいたことであり、怒りとは最初から40万元もすると知っていれば、せずに済むはずの苦労を無駄にさせられたことによるものだった。それらの複雑な気持ちを抱いたまま「小丹」は「丁元英」のもとを訪れたが、結局顔を見ただけで何も言えず、部屋にも入らず、その場を立ち去った。
 「丁元英」のもとを去った「小丹」は友人の「欧陽雪」のところへ行き、事の経過を話した。そして、食事の席を設けて、客として預かった人物である「丁元英」に対するお詫びの気持ちを伝えるつもりであると告げた。
 以上が、第7章のあらすじである。実は、すでに第21章まで読み進めてしまっているのだが、途中から急に難しくなってきて、きちんと理解できているか自信がなくなってきた。もっとも「丁元英」の話すことは他の登場人物もよくわかっていないようだから、それも仕方がないか。自分を慰めつつ、先を読み続け ることにする。
2010年7月31日(土)
 ここ一週間は激しい雨が降ることが多かった。雷も落ちて、コンピュータ・サーバ室内のブレーカが飛んだり、一部の機器が故障したりもした。しかし、例年のように膝がつかるほどの雨はなかったのと、雨合羽とビーチサンダルを常に持参していたおかげでさほど苦労は感じなかった。ここでの生活も9年目になるので、ひどい雷に慣れてきたことも影響しているのかもしれない。
 「遥遠的救世主」 の第8章。「小丹」を見送った「葉暁明」はすぐに同じ「王苗村」出身である「馮世杰」を呼び出し、今日の出来事について語った。まず、「小丹」から頼まれたオーディオセットについて話をした。「丁元英」と全く同じオーディオセットを手に入れることは不可能だと知った「小丹」は、中国メーカー製品で、同様な構造のオーディセットを作ってくれるように「葉暁明」に頼んだのだ。オーディオを趣味としている「馮世杰」はその構造を聞いただけで、「丁元英」のオーディオが一般の人では考えもつかないような商品であることを知り、「葉暁明」と同様に「丁元英」が特別な人物であることを悟った。
 次に、「葉暁明」は、前々から「馮世杰」が提起していた、彼らの村をなんとかして今の貧困から抜け出させる問題の解決を「丁元英」に相談したらどうかと持ちかけた。「馮世杰」も即座に同意し、二人が次にやることが決まった。
 以上が第8章のあらすじである。これまでのに比べてやけに短いが、手を抜いたわけではなく、第8章はも4ページにも満たないほど短い章なのである。