6:15、ホテル発。帰りの便が午前中だけという可能性もある。最悪の場合に備えて朝一番で出発。外はまだ真っ暗だ。本当はもっと早く出たかったのだが、そうは言っても、早すぎても今度は出発便がない。そこで、この時間となった。
バイタクを飛ばして、バス・ステーションへ。チケット売り場で和平県までのチケットを手に入れる。「熱水鎮へのチケットは?」と聞くと、「バスに乗ってから買えばいいわよ」とのこと。おいおい、大丈夫なんだろうな。構内に入り、ベンチに腰を下ろす。不安に苛まれながら、周囲を見回すと、なんと「旅行サービスセンター」と書かれたカウンターがあり、スタッフが数人座っている。これは助かったと、いそいそと歩み寄った。「熱水漂流の河下りって、今やってるんですか?」。「知らない」スタッフ同士で顔を見合わせている。「和平鎮からの熱水鎮までのバスって、今の時期も走っているんですか?」。「知らない。行ってみればわかるわよ」。・・・・・ええ加減にせえよ。お前らの仕事は何なんだ。座っているだけか。カウンターについている「旅行サービスセンター」の文字は間違ってついているのか。
もはや運を天に任せるしかない。心の中で十字架を切って、バスを待っていると5分ほどして「和平県」行きのバスが入ってきた。改札を抜けてバスに向かう。ちょうど、運転手が降りてきたので、「熱水鎮までのバスはあるのか?」と尋ねると、「チケットは買ったか」と逆に質問されてしまった。驚いて、「バスに乗ってから買えばいいと言われたぞ」と答えると、「そうか・・・」と言ったきりスタスタと去っていってしまった。うーむ。とにかく向こう(和平鎮)まで行って、怪しかったらそのまま戻って来よう。自分を慰めつつ、バスに乗り込んだ。
6:40、出発。バスは縦8シート、横4シートの合計約32シートの中型豪華バス。豪華バスだと喜んでいたら、けっこうガタガタと揺れる上に、隙間風が入ってくる。どうやら、外装を改造しただけで、内部はオンボロバスのようだ。最初に座った席も、リクライニングが壊れていて、移動するはめとなった。客は朝も早いというのに意外と多く、半分ぐらい席が埋まっている。
7:17、道は一応舗装されていて、それほど悪くない。だが、崖に面している上に、ガードレールがない。落ちたらまっさかさまだ。この手の落下事故はしょっちゅう起こっているので、自分の身に降りかからないように祈るしかない。
8:00、まだそれほど山中という感じはない。ただ、道路工事が多く、使えるのは一車線のみ。それを両側からきた車が奪い合うようにして、使っている。
8:21、徐々に山中へ。
8:40、和平バス・ステーション到着。バス・ステーションといっても、舗装もされていない小さな広場があるにすぎない。ただし、バスは各地から来ていて、東莞市や深セン市からも直通便があった。
さあ、熱水鎮行きのバスを見つけねば!(運転手に聞いたら、降りてから買えと言われた)。周囲のバスを一つ一つ検分するが、熱水鎮行きは一台もない。諦めて広場の外へ出る。タクシーでもつかまえればいい。そう思ったが、青タクすら見つからない。寄ってくるのはバイタクの運転手ばかり。「どこに行くんだ?」とうるさいので、「熱水漂流」の場所だよと答えると、「50RMBだ!」と値付けをしてきた。「高い、高い」と手を振って追っ払う(歩きながらなので、実際には私が歩みさっている)。すると、次のバイタクが声をかけてきて、今度は「40RMBだ」という。「熱水漂流のところまでどのくらいかかるんだ」と尋ねると、「1時間ぐらいだよ」との答え。1時間で40RMBは高いとは言えないかもしれないが、1時間もバイタクに乗るのはきつかろう。(昨晩は4時間でも乗るつもりだったが、バスに2時間揺られた後とあって考え方も現実的)。だいだい、バイタクの運ちゃんだってきつかろう。本当に行ってくれるのか。山の中で強盗にはや変わりして、俺を土の中に埋めたりするんじゃないのか。
考えあぐねて、ふと道路に目をやると対面に青い小さな標識が出ていて、「熱水鎮1.7Km」とある。1.7Km?ずいぶん近いじゃないか。すかさず運転手に向かって、標識を指差す。「あれを見ろ、1.7Kmと書いてあるじゃないか。どうして40RMBなんだ!高いぞ」。運転手は困ったという顔をして、「いや、あれは違う意味なんだよ。熱水鎮は遠いんだぞ」。「そんなことはないだろう。じゃあ、あの標識はどういうことだ」。「だから、標識が間違っているんだよ」。「そんなわけはねぇーだろ」。「本当だって!」。「よーし。わかった。俺はとにかく歩いて行ってみる。もし、違ったらもどってくるから、そのときはお前のバイクに乗ろうじゃないか」。そう言い捨てて、道路を渡った。運転手も諦めてついては来ない。
道路を渡りきったところで改めて標識を見上げる。確かに書いてあるよ、「熱水鎮1.7Km」と。覚悟を決めて標識が指し示す方向に向かって歩き始める。しかし、あの運ちゃんたち、どうして50RMDだの、40RMBだのと馬鹿高い料金をつけたのだろう。熱水鎮が仮に本当に1.7KMのところにあったとした場合、運転手は遠回りをしてでも1時間は走らなければならなくなる。そうでなければ客も金を払わないだろう。そうすると、運転手は本当のことを言っていたのか。そもそも河源市総合バス・ステーションのチケット売りのスタッフは和平県から熱水鎮まで1時間ぐらいかかると言っていた。ちょうど運転手の話と一致する。いや、待てよ。あのスタッフが間違っていた可能性だってある。だって、地図上ではあんなに近いんだからな。お金の支払わせ方だって、いろいろあるだろう。人気のないところでナイフでも出されたら払わうしかないしな。うーーん。
と、後ろからプッ、プッーとバイタクのクラクションが聞こえた。振り返ると、先ほどの運転手がバイクをゆっくりと走らせて私の横で停車した。「おい、乗ってけよ。熱水鎮は遠いんだからさ」。「だって、標識に1.7Kmって書いてあったじゃないか」。「あれは違うんだって」。私は腕組みをして考え込む。とうとう運転手はポケットから身分証を取り出し「ほら、これを持ってろ。もし俺のいうことが嘘だったら、これをもってどこへでも行け」と言い出した。(身分証をもらってもなぁ。だいたい、それ、本物か?)と思ったが、結局バイタクに乗っていくことに決めた。なぜかと言うと、昨日からの強行軍で足が疲れきっていたからだ。とりあえず値切ってみる。「身分証はいらないよ。30RMBでどうだ」。「だめだ」。「なら、35RMB」。「だめだって。1時間も走るんだぞ」。まぁ、これだけ粘るんだから、少なくとも山に埋められることだけはなさそうだ。OKを出して、後部座席に乗った。
私が座席に座ると、運転手はバイクをアクセルをかけ、スピードが乗るか乗らないかのうちにユーターンをして逆方向に走り始めた。「何でこっちの方向に行くんだ?」と驚いて質問した。「こっちの方が道がいいんだ」。「同じぐらいの時間で着くのか?」。「そうだ」。(本当かよ・・・)と思ったが、疲れていたので何も言わずにいると、運転手の方から「じゃぁ、向こうの方からいくよ」と再度ユーターンをして元の方向に戻してくれた。なかなかいい奴だ(8:40)。
しばらくいくと、左折を示す標識が現れ、「熱水鎮 23Km」と書かれているのが見えた。運転手は標識に従って左に曲がり、私に言った。「ホラ、ここまでで1.7Kmだ。俺が来なかったら大変なところだったんだぞ、お前は」。「わかった、わかった」。(23kmぐらい歩けるぞ!)と言いたかったが、これでは負け惜しみだと気づきやめた。
熱水鎮までの道路はまだ建設中らしく、ほとんどが剥き出しの土のままだ。だから、埃がすごい。運転手の背中に隠れて懸命に砂を避けるがほとんど効果がない。そして、風の冷たいこと。厚着をしてきて良かったとこの時ほど自分の習慣に感謝したことはない。
バイタクの運転手も私も黙り込み、ひたすら目的地に向かって走ってゆく。これまで私はこうした二輪のバイタクは、シート付きのバイタクよりは安全だと思っていた。シート付きのバイタクは椅子に座ってゆったり出来る反面、道のでこぼこに影響を受けやすく、身体が上下左右に跳ね飛び易いという欠点がある。従って、油断をしていると幌を支える鉄の格子やポールのどれかに頭をしたたか打ちつけかねない。こんな危険を冒すぐらいだったら、シートのない二輪のバイタクに乗った方がよほどマシだというのが持論であった。
ところが、今回、寒空の中後部座席につかまっている中、今にもバイクから振り落とされるのではないかという不安に苛まれた。冷たい風が覆いのない私の顔と手を麻痺させ始め、絶え間ない揺れがもたらす疲労も手伝って座席をつかむ手に力が入らなくなってきたからだ。中途で何度も「少し休憩しようか」と弱音を吐きそうになったほどである。これだけのガタゴト道をシート付きバイタクで揺られていくのはかなり危険だが、少なくとも落ちる心配はない。ポールに頭を打ち付けるのと、後部座席から転げ落ちてしまうのとどちらが危ないだろうか。
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【バイタク1時間<1>】 |
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登りと降り、永遠に続くかと思われるアップダウンの繰り返し。一体どこまで続くのだろう。だいたいすれ違う車すらほとんどない。これだけ苦労して到着して、シーズンオフのためやってませんと言われたりしたら泣くに泣けないなぁ。
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【バイタク1時間<2>】 |
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9時半頃、ようやく熱水鎮に到着。標識に「熱水漂水 5km」とある。結局、1.7km+23km+5Kmか。こういうのはまとめて書いておいてもらわなきゃ困るよ、と怒りが込み上げてきた。
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【熱水鎮】 |
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9:40、とうとう「熱水漂流」に着いた。門も建物も新品同様だが、お店にはシャッターが下りていて、周囲に人っ子ひとりいない。座席から降りたところで運転手が声をかけてきた。「帰りはどうするんだ?」。私が少し考えて、「俺が帰るのを待てるか?」と問いかけると、運転手は「いいよ」と明るい表情で答えた。「じゃ、帰りも行きと同じで40RMBでいいな」と確認。運転手はしばらく考えたあと、また「いいよ」と返事をした。
そうと決まれば話が早い。さっそく、運転手の力を借りることにした。「お店が閉まっているじゃないか。今日はやってないんじゃないか?」と問いかけをする。すると、「そんなことはないよ、やってるよ」と答えが返ってきた。「だったら、どこへ行けばいいんだよ」と促すと、仕方がないなという顔をして広場の奥に向かって歩き出した。
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【ボート出発所】 |
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運転手の行く先に目をやると、広場の奥から10メートルぐらいの上り坂が始まっており、上がりきったところにの2階建てのレンガ作りの家がみえた。坂道を上がってゆくと、椅子に座ったおじさんがプカプカとタバコをふかしている。私たちが、「熱水漂流は?」と尋ねると、黙って家のドアの一つを指差した。私たちがそちらに向かっていくと、気配を察したかのように中から若い男が一人、後に続いてそれより少し年下の女が一人現れた。女も男も、どんぶりを手にして麺類をすすっている。男が私たちに向かって、片手で、中に入れと合図をした。中に入ると、「まぁ、座れよ」と声がかかった。私たちが腰を下ろすのを確認すると、男は外へ出て行き、女だけが食事を続けた。私が「熱水漂流はやってるのか?」と尋ねると、面を口から垂らしたまま、うんうんとうなずく。それなら、とりあえず安心だ。女が食事を終えるのをじっと待つことにした。運転手は、タバコが吸いたくなったらしく、途中席を立って外へ出て行く。(俺から金をぼったくる相談をしに行ったんじゃねぇだろうな)と疑ったが、そうであったところで打つ手もない。じっとテーブルの表面を見つづける。
女がどんぶりを空にしたのを見計らって、私は「まだ行かないのか?」と催促した。女は、食後ぐらいゆっくりさせてよという顔をしたが、しぶしぶと立ち上がった。後をついて外へ出ると、先ほどの男と運転手が談笑をしている。私が「行こうぜ」と声をかけると、男は「まず先に2階で登録をしてもらわなきゃならない」と告げた。後について階段を上りながら、「登録って、お金を払いに行くだけのことじゃないのか」と尋ねると、男は苦笑して、「そうとも言うな」と答えた。
2階の部屋に入って、名前とパスポート番号の登録、そして、50RMBを支払う。「高い!」と文句を言うと、今は安いんだぞ、夏なんか80RMBもするんだと反論された。そして、「三つの終着所があるけど、どこまで行くんだ」と尋ねてきた。「一番遠くまで行くと、何時間かかるんだ?」。「3時間だよ」。「3時間!そんなにかかるのか」。「今は水が少ないからな」。
3時間ねぇ。よーし、行けるところまで行こうじゃないか。「よし、それじゃ、三つ目の一番遠い終着所まで行くよ」。男は意外そうな顔をし、「本当に三つ目まで行くのか。遠いぞ・・・」と小さな声で言った。「問題なし。そのためにこんな朝早くからやってきたんだ。遠ければ遠いほどいいんだ」と私は叫んだ。男は諦め顔で、「わかったよ」とつぶやく。
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【ボート漕ぎのおじさん】 |
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建物の外に出ると、男は坂道の前に座っているおじさんに指示をした。おじさんは軽くのびをしてから広場の方へと下っていく。私と運転手もあとをついていく。広場につくと、おじさんはさっそくお店のシャッターをガラガラと開けた。中を覗くと、数百個ほどのボートが積み上げられているのが見えた。おじさんは中へ入ると、ボートの一つをひっぱり出し、機械を使って空気の詰めなおしを行った。それが終わると、ボートを川の上まで運んで出発だ。運転手は終着地で待っていると私に告げ、バイクを走らせて去っていった(10:10)。
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【ボート置き場とバイタクの運転手】 |
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【ここから出発!】 |
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おじさんは私を先にボートに乗せ、オールを一つ渡す。その後に、自分もオールを手にして乗り込んできた。おじさんがタバコをくわえながら、オールをこぎ始めて出発!川の流れは穏やかで、激流を下っていく様を予想していた私には少し物足りないぐらい。考えてみれば、付けられている名前は「熱水漂流」、つまり「漂い流れる」であって「激流」とはどこにも書かれていなかった。それでも、川の所々に段差があり、通り抜けるたびに、水しぶきが服にかかる。
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【河下り<1>】 |
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おじさんに向かって「もっと速く流れていくもんだと思っていたよ」と言うと、「夏だったら、水も多いから面白いんだけどね」と答えが返ってきた。そう言えば、恵州の「九龍潭」も殆ど水がなかった。これだけ水があるだけでも立派なものかもしれない。
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【河下り<2>】 |
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数十分進んだところで、アヒルの団体に遭遇した。30匹ぐらいのアヒルが流れに乗って遊んでいる。おじさんによると、近所で飼われているアヒルだそうだ。こうやって放し飼いにしておけば、餌も勝手にとってくるし、繁殖だってしてくれる。なんとも便利な話だ。アヒルは20年間も生きるそうだから、2,3百匹も放し飼いにしておけば食うのに困らないのではないか。私もアヒルを飼って暮らそうかとのんきなことを考えていたが、先月の末には中国広西省南寧市で鳥インフルエンザに感染して200匹のアヒルが死んだという事だ。そんな事態になれば一瞬にして飯の種が消えてしまう。うまい話はないものだ。
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【河下り<2>】 |
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アヒルばかりで、何にもなく、いささか退屈になってきたところで川岸から声がかかった。数人の子供たちが一生懸命こちらに向かって叫んでいる。「向こうで牛が死んでいるぞ~」だそうだ。冗談かと思っていると、しばらくして、川の外れに硬化して剥製のような姿で倒れている牛が見えてきた。本当だったのだ。野生の牛ではないだろうから、飼われていた牛が死んだまま放り出されていることになる。誰も片付ける人がいないとは狂牛病に感染して死にでもしたのだろうか。全く恐ろしい世の中になったものだ。南無阿弥陀仏を唱え手を合わせる。
さらにいったところに水車が現れた。雲南省麗江古城の看板となっている水車の小型版といった感じで非常に良く似ている。真似をして作ったのではないかと推察されるが、水車を四角に作るわけにもいかないだろうから、適当に作っても同じような形になるのかもしれない。いずれにせよ、実用につくられたものではなく、河下りをしてきた客の目を楽しませるために設置されたもののようであった。
「熱水漂流はいつから始まったんだい?」と尋ねると、「去年の5月に始まったばかりだよ」という。「熱水鎮で工場を運営している香港人のボスが大規模な投資をして切り開いたんだ」という。そう言えば、ショベルカーを使って整備をしたらしき個所がところどころに見られた。最初からボートが流れるような川幅があったわけではなかったのだ。「こんなところまで人がくるのか」「夏は多かったよ。日によっては一日200人ぐらい来たときもあるよ」。夏は一回80元と言っていたから、なんと一日で1万6千元の売上だ。一ヶ月も続けば50万元。おじさんの給料を聞いてみると、一ヶ月200元だというから、経費はほとんどなしじゃないか。香港人のボス、大儲けだな。そう思っておじさんに確認してみると、「そんなには儲からない」そうだ。200人も来る日はそんなに続かないし、投資も馬鹿にならない金額だそうだ。私が乗っているボートも、一つ4000元するもので、それが100個ほどあるそうだ。なるほど、それだけで40万元だ。試しに、昨日は何人ぐらい客が来たのか聞いてみると、一人もいないとのこと。道理で一台もバスがなかったわけだ。昨年の5月に始まったばかりではこれからの観光地というところだろう。
そんな風におじさんと話しをしたり、景色に見入ったりしているうちに、第一中継地、第二中継地を過ぎた。第二中継地の休憩所もまだ建設中で、大工さんたちが一生懸命に作業に励んでいた。私を乗せてきたバイタクの運転手は川沿いの道路に沿って私たちのボートを追いかけてきており、時々土手から顔出してみせる。のんびりと川を下っていくだけのことなので、私はすっかり手持ち無沙汰。何か食べ物をもってくればよかったと後悔するがもう遅い。水が少ないのはここしばらく続いていたことらしく、数箇所、水のかさを上げるために石を積んで故意に川幅を狭くしている場所すらあった。今日はそれですら間に合わず、ボートが川底の石に乗り上げてしまうことが4回あった。その度におじさんは川に足を踏み入れてボートを押し出してくれた。
12:40、終着点に到着。約2時間半の行程だったことになる。終始穏やかな流れだったため、刺激は少なかった。夏になると、水流が増えることだろうから、家族や友達、恋人同士で来るにはよい場所だと思う。夏に訪れることになった人がいたら是非感想を聞かせて欲しい。
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【熱水漂流の終点】 |
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終着点には木造の綺麗な休憩所が建てられていた。更衣室まであり、おじさんに尋ねてみると、夏はここで泳げるようにもなるそうだ。もちろん、今日は私とボート漕ぎのおじさんと、先に来て待っていたオートバイの運転手しかいない。ここで5分ほど休憩して、バイタクの運転手と私は出発。漕ぎ手のおじさんは、ボートを回収に来るトラックを待ってから帰るとのことであった(14:45)。
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【帰路】 |
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帰りの道は行きの時よりも舗装された部分が多く、比較的楽である。そうは言っても1時間近くかかるバイタクの道。最初は広がる山河の風景に見とれていたが、最後の方はまだ着ないのか、まだ着かないのかと頭の中で繰り返すばかりであった。
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【熱水鎮の山河】 |
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13:40、和平県バス・ステーション着。運転手が食事に行かないのかとしつこく尋ねてくるが、断って別れる。きっとただ飯にありつけるのも計算に入っていたのだろう。恨めしげな顔をされて気がとがめるが仕方がない。こんなところで変な物を食べさせられて腹を壊したら帰りのバスで苦しいことになる。人情よりも安全と自分に言い聞かせてバス・ステーションの中に入っていった。
14:00、バス発。大変な強行軍であったし、「熱水漂流」も考えていたほど刺激の強いものではなかったが、かつてないバイタク1時間という試練を乗り越え一日を有意義に過ごすことができた。バスに2時間も乗ってきて「熱水漂流」ができない、ということもありえたのだから、幸運というしかない。ともあれ、朝から続いた強行軍に、私は泥のように眠った。中途、何度か目がさめたが数分後には再び意識を失う始末であった。
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【和平県のバス・ステーション】 |
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16:00、河源市バス・ステーション着。気がついてみると、ほとんどの乗客がすでに下車している。後を追うようにして私も下りた。ドア口ですでに習慣となっている、財布と携帯電話のチェック。・・・!?携帯電話がない。慌てて、その他のポケットをチェック。しかし、やはりない。ダッシュで元の席までかけ戻る。座席を見下ろすが携帯電話が落ちている様子はない。再び、下車してポケットを再度チェック。その間、バスはするすると別の場所に移動していった。
やられたか。この時点で、半分以上は観念した。中国で物が取られて戻ってくる確率は限りなくゼロに近い。しかし、やるだけのことはやっておこう。そう決めて、十数メートル先まで進んで停車していたバスを追いかけて再び乗り込んだ。今度はもう少し時間をかけて座席をチェック。だが、やはり携帯電話は見つからない。諦めてにバスを降りる。
16:15、ショックを抑えてバイタクに乗り、ホテル着。シャワーを浴びて一日の汗を流しながら、心を落ち着かせた。私の携帯電話は購入当時はまだ値段が高くて、私の持ち物の中でこれよりも値段が張るのはパソコンぐらいしかない。それを失ってしまったのだから痛手だ。しかし、携帯電話は今や流行もの。新商品を購入できるきっかけだと思えば、それほど悔しくはない。問題は、携帯電話を取られてしまったという事実だ。中国に来て7年間になる私だが、これまでお金や物を盗まれたことは一度もなかった。中国にいる以上、いつかはこの日が来るだろうとは思っていたけれども、それが今日とは。どうしても頭が俯き加減になってしまう。
まずやらなければならないことはSIMカードの停止処理だ。私のカードは国際電話は利用不可となっているが、長距離電話を一晩中かけられたら携帯電話が1個買えてしまうぐらいの損失となりかねない。バイタクを飛ばして中国移動の営業所へ向かった。
中国移動の営業所へ着くと、さっそくカウンターで尋ねる。「携帯電話と一緒にSIMカードをなくしてしまったので、カードの使用を停止したい。パスワードを忘れてしまったのだが、停止できるか?」。「身分証があればできますよ」と返事があった。(助かった)。ほっと一息ついてパスポートを出す。しかし、続いて電話番号を告げたところで、「これは深センの電話番号でしょう。ここではできませんよ」と冷たい答えが返ってきた。
「何とかならないのか」と粘ると、「パスワードがわかれば電話で処理できますが・・・」とスタッフの人も困った様子をみせる。終いに、隣のスタッフに尋ねてくれるが、「市を跨っての処理はできないのよ」と明確な答えをもらっただけであった。「深センには明日にならないと帰れない。別の方法はないのか」とさらに粘ると、「直接、深センの営業所に電話すれば一時的に止めてもらえるかもしれないけれど・・・」とのことであったが、手伝ってくれそうな気配はない。管轄外の客のことまで面倒は見れないとの態度だ。同じ中国移動なのに何で処理できないんだと怒りが湧き上がるが、相手が「同じ」だと思っていない以上仕方がない。相手をしてくれるだけでもありがたいのかもしれない。
念のため別の営業所に当たってみるが、やはり駄目であった。こうなったら、自分で営業所に電話してみるしかない。食事を済ませてからホテルに戻る。部屋に入ると、まずは、なくした携帯電話に電話してみようと受話器をとり番号を押す。ところが一向に繋がる様子がない。調べてみると、フロントに連絡
して外に繋がるように設定してもらう必要があるらしい。
(フロントに連絡して電話を使えるようにしてもらって、電話帳で深センの営業所の電話番号を調べて電話して、恐らくパスポートのコピーをFAXさせられて・・・・)と考えるうちにだんだん面倒になってきた。だいたい、一晩中長距離電話をかける奴もいないだろう。仮に目いっぱい使われたとしても、1500RMBを超えることはあるまい。疲れも手伝って、あいまいな理由で自分を説得にかかる。そもそも、自分の電話ではいくらまでかけられることになっているのか・・・。結局、SIMカードの利用停止はギブアップ。運命に身を任せ一眠りすることにした。
19:10、フロントで河源市名物の噴水について情報を集める。すると、今は毎日19:30-19:00までやっているとのこと。昨日は19:00にホテルに戻ってしまったから見ることができなかったというわけだ。さっそく、バイタクに乗って市の中心にある河へ向かった。
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【河源市の噴水<1>】 |
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河に着くと、すでに人だかりができていた。皆、噴水が始まるのを待ちかねている。しばらくして、音楽とともにアナウンスが始まり、河から水が吹き上がり始めた。高い、高い。どんどん水が上へ昇っていく。その吹き上がった水を河の両岸からレーザが虹色に照らす。まさに水と光と音楽の競演だ。頂点までいくと、今度は上から落ちてくる水と下から吹き上げてくる水が激しくぶつかり合い始め、これも見もの。それが終わると、水流は力を弱めて低い位置に留まる。そして今度は、小刻みに高さを変えながら音楽に合わせてダンスをする。30分という短い時間の中でこれを二回繰り返し、噴水の観覧は終了。人波がサーと去り、辺りは闇に包まれる。私もホテルへ退却した。
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【河源市の噴水<1>】 |
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本日は長時間のバイタクと河下りという大冒険を成し遂げた一方、携帯電話をなくすという大失態を犯した大変な一日であった。明日は、ようやく帰途の旅。疲れきって床に着く。 |