7:40、ホテル出発。
「龍虎山」の入場料はわずか20RMBだという。3000匹もの猿を抱え、中国4大猿山の看板を掲げる観光地としては驚くほど安い。最近、中国の観光地はどこも値上げが激しく、100RMBを超える入場料も珍しくない。そう考えると、20RMBというのは、極めて良心的な料金だ。だが、一方で疑念もわく。こんなに安い入場料ということは、恐ろしくみすぼらしい観光地なのではないか。タクシーで行くと往復で300RMB-400RMB。入場料20RMBの観光地に300RMBも支払って行くことはできない。何としてもバスで行かなければならないところだ。一応、昨日バスのルートを確認しておいたので不安は大幅に取り除かれているが果たして結果はどうだろう。
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【翔雲大酒店】 |
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7:45、バス乗車。昨日と同じ52号線だ。南寧駅の前を通り過ぎ、さらに走る。なかなか着かない。昨日はバス・ステーションから南寧駅まで歩いたわけだが、よくもこんな長い距離を歩いたものだと我ことながら感心した。
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【市内バス-52号線-】 |
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8:05、バス・ステーションに到着。龍虎山に行くと伝えると、チケット売り場のスタッフは「龍安まで行って乗り換えなければならないわよ」と言ってきた。「えっ?昨日のスタッフは大新行きのバスで行けるって言ってたわよ」とZが答えると、スタッフは一瞬考えたあと、なるほどねという表情をして、「大新だと、あれは直行便だから、大新までのチケットを買って途中で降りなければならないわよ」と教えてくれた。大新までいくらかと尋ねると、38RMBだという。
Zがどうするという顔でこちらを見るのに、「大新でいいよ」と答える。南寧から龍虎山までと、龍虎山から大新までが同じくらいだから、半分ぐらいは捨て金となってしまうが龍安経由ではいつになったら着くかわからない。今日はできれば南寧のもうひとつの観光地である「伊嶺岩」にも行きたいと考えているから、時間を優先するとしよう。
バスに乗る前にビスケットやひまわりの種を買い込む。すかさずZから、「何でそんなに買うの?」とチェックが入る。私は中国滞在が長くなって以来、何かと余分に買い込む習慣が身についている。日本と違って、どこでも必要なものが入ると限らないから手に入るときに手に入れておくという生活の知恵である。特に旅行中は、深センのような便利な場所ではなく、内陸の不便なところをまわることが多いからなおさらだ。当然、余ることもあり、結果として捨ててしまったりする。Zはそれが嫌いらしく、私が小物を買おうとすると止めにかかるのだ。
「いや、食べるために買うんじゃないんだよ。猿の餌だよ。ここで買っておいたほうが安いだろ」と説明すると、納得した顔をして引き下がった。猿の餌を買い終わると今度は私たちの餌、いや食事の購入だ。Zが今日はソーセージはいらないというので、私がソーセージ一本と燻製(?)の卵を1個、Zが同じく燻製(?)の卵を2個買うことになった。
8:30、バス発。36席の豪華大型バスだ。バスが動き始めると、私とZはすぐに朝食開始。バスの中で食べるソーセージはうまい。昔はバス・ステーションでは絶対に食べ物を買わなかったのだが、Zがいつもうまそうに食べているのをみて、とうとう手を出すようになってしまった。慣れとは恐ろしいものである。
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【龍虎山<1>】 |
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9:50、「龍虎山」に到着。真ん前で下車できてひと安心。帰りはどうなるのだろうかと周囲を見回してみるが、バス停らしきものはない。だが、この通りはよく整備されていて車通りが多い。バスも結構通りそうだし、心配ないだろう。
チケット(20RMB/人)を購入し、入場。Zに「さっき買ったばかりじゃない!」と非難されながらも、猿用の餌として、落花生4袋(2RMB/袋)を追加購入。猿山に来て餌がなくなっては話にならない。「山の上にいったらもっと高い値段で売っているだから今のうち買っておいたほうがいいんだよ。餌がなくなったら、Zもつまらないぞ」と言うと、疑わしげな表情でこちらをみたが言っても仕方がないとおもったらしく黙って引き下がった。
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【龍虎山<2>】 |
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入場門のすぐ横にトイレがあったので用を足しておく。外観は今ひとつだが、きれいに清掃されており、安心して使うことができた。ただし、ドアなしである。
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【龍虎山<3>】 |
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【龍虎山<4>】 |
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しばらくは公園のような道が続く。それから山へ突入。山の入り口でモンキーバナナが売っていた。一房2RMB。猿が喜んで食べるのだという。さっそくZが購入した。モンキーバナナを猿にやるのか~と面白く思っていたら、Z自身がぱくぱくと食べだした。「おい、それ猿用だぞ」。「大丈夫よ、美味しいもの」。バナナに猿用も人用もあるものかという様子である。「あなたも食べる?」と一本差し出されるが断る。確かに中国でもあるし、人用だからきちんと管理されているとか猿用だから管理がいい加減だとかいうこともないのだろうが、どうも「猿に食べさせるため」と名づけられてしまったものを食べる気にはならない。頭の固い私である。驚くべきことにZはそのまま食べつづけてとうとう5本も食べてしまった。
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【龍虎山<6>】 |
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【龍虎山<7>】 |
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【龍虎山<8>】 |
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【龍虎山<9>】 |
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山のふもとを突き進んでいくと、橋が現れた。橋のたもとまで来たとき、本日最初の猿が登場。それほど大きくない。欄干を辿ってスルスルとこちらに向かってきた。
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【龍虎山<10>】 |
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猿の目標はZの手元にあるバナナ。今にも飛び掛ってきそうな猿をみて慌ててバナナを一本投げやるZ。猿はすばやくキャッチしてむしゃむしゃと食い始めた。
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【龍虎山<11>】 |
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これ幸いと突破を図ろうとするZであったが、猿は瞬く間に食べ終わってZを追いかける。慌ててさらに一本を投げてやるZ。
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【龍虎山<12>】 |
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Zは小走りに橋をかけぬけようとしたが橋のなかほどでまたもや猿に追いつかれてしまった。Zはもの惜しげに一本をちぎり再び猿に投げやる。もう三本目である。いい加減満腹するだろうと思ったが、猿は素早く食べ終わり、すっかり足のすくんだZを再び見やる。四本目のバナナを差し出して、「○○(私の名前)~どうしよう」と私に訴えるZ。「もう全部やっちゃえよ」と言うが、首を振るZ。残った2,3本のバナナを死守する構えである。それなら進むしかない。「もう相手にせずに進むしかないよ」と突破を指示。二人で何とか橋を渡りきった。そこそこ満足していたのか、縄張りの関係があるのか、猿はそれ以上追ってこようとはせず助かった。
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【龍虎山<13>】 |
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だが、一難去ってまた一難。今度は通りの正面から十数匹の猿が走り寄ってきた。もはやバナナを守りきれないと悟ったのかZは残った数本を前方に投げ出し、私の後方に逃げ込む。
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【龍虎山<14>】 |
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【龍虎山<15>】 |
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ふふっ、とうとう出番だなと私はリュックからおもむろに落花生を取り出した。ところが、袋を開ける間もなく、すばやく近寄ってきた猿に袋ごと取り上げられてしまった。一瞬猿の指が私の手に触れどきっとしたが幸い怪我はなかった。唖然とする私を尻目に、スルスルと木に登り、美味しそうに落花生を食べ始める猿。よく見ると子連れだった。小猿をお腹に抱えたまま器用に落花生を食べている。「○○(私の名前)、全部とられちゃったわねぇ」と嬉しそうにはしゃぐZ。(おまえは猿の仲間か!?)と言いたかったが、ぐっとこらえる。
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【龍虎山<16>】 |
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そして、「まだ3袋もあるんだ」と空元気で答え、私は落花生をもう一袋取り出した。さっきは油断していたからとられたんだ。今度はそうはいかない。袋から一掴み取り出し、集まってきた猿に投げやった。ところが、私が投げやった落花生には目もくれず仲間の猿の間をささっと足早に抜けてまっすぐにこちらに近づいてくる猿がいた。うわっ、何だ、このサルは。俺をじっと見つめているぞ?違う、左手につかんだ落花生の袋を狙っているんだ。ぱっと左手を離し落花生の袋を地面に落とした。猿はすかさず袋を拾い、仲間の間を抜けて近くの木に駆け上る。
なるほど、大半の猿は投げられた落花生を夢中になってむさぼるが、一部の猿は賢く立ち回って一攫千金を狙って袋を取りにくるというわけだ。うーん、面白い。でも、あんな猿がいるんじゃ、落花生の袋を出せない。Zよ、後ろでにやにやするな。振り返らなくてもわかるんだぞ。
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【龍虎山<17>】 |
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餌をやるのを諦めて、先へ進む。すごい、どんどん猿が増えていく。前後左右、木々の上、取り囲まれていくようだ。さすが、三千匹の猿を擁しているという山だ。それでもなんとか、先へ進んでいくうちに、私たちよりも先に来ていた家族らしきグループが、少し開けた場所で休憩をとっているのに出くわした。あまりの猿の多さに圧倒されて、疲れ気味の様子。その一団から少し離れた場所で、老人が落花生を売っている。料金が書いてあって一袋1RMBだ。門で売っていたものより値段は安いが、量も半分ぐらいしかない。老人は隙をみては寄ってくる猿たちに向けて長くて太い棍棒のような枝を威嚇するように何度も振り向ける。猿たちは枝の恐ろしさを知っているらしく、常に一定の距離を保ち続けているようだ。
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【龍虎山<18>】 |
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その老人をしたように見ていた家族グループの一人が「そうだ、木の枝で猿を追っ払いながら進めばいいんだ」と声をあげた。なるほど、と皆が近くの枝を拾い上げる。準備完了!出発進行。女性たちを囲むようにして、前進する。
しばらく行くと、二階建ての建物が現れた。どうやら、猿の餌やり場らしい。大小の猿たちが建物のあちこちに座り込んでいる。家族グループは建物の左階段から枝を振るいながら2階へと登り始めた。私も負けてはいられない。このぶっとい根棒なみの長い枝があれば、どんなに数がいようとも、猿など何ほどのものか。私はZを励まし、敢えて右階段から登ることにした。Zは「危ないよ~、皆と一緒に行こうよ」と怯えた声を出す。「じゃあ、Zはあっちの一団と一緒に行け!」と指示を出し、あくまで右階段登りを固守する。家族の一段の後ろにくっついたZを見届け、私は猿が待つ階段に向かった。
ど太い枝の威力はすさまじく、一振りするだけで、猿たちはわらわらと逃げていく。うーん、ちょっと気分がいいぞ。猿たちを前に英雄気取りの私。鼻息が荒くなる一方である。・・・が、神の雷撃を下す私の杖の威光に全く動じない猿がいた。欄干の上をちっとも動こうとしない。何奴だ。じっと猿の顔をにらみつける。げっ、顔にすっごい傷があるよ。柳生十兵衛みたいに片目の真中をでっかい傷が走っている。真っ赤で、めちゃめちゃ怖い顔。体もでかい。これがいわゆるボス猿か。
しかし、ボス猿といえども、神の杖の前には・・・。だって、他の猿はどんどん逃げていくじゃないか・・・。だが、あくまで動こうとしないボス猿。子分どもの前だからって虚勢を張らなくてもいいじゃないか。でも、本当に怖いよ。この顔。
駄目だ、何だか本気だよ、この猿。もしかして、ヤバイんじゃないか俺。ここを無事通り抜けられるのだろうか。急に及び腰になる私。飛び掛ってきたら、叩き落さなきゃならない。しかし、本気になった猿のスピードに私の枝は追いつくことができるだろうか。もはや完全に防衛姿勢に入ってしまっている。
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【龍虎山<19>】 |
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2Fの横幅はおよそ3メートル。ついさっきまでは、8車線の広さがありそうだったが、今は縁側の幅ぐらいにしか感じられない。一番反対側の隅を歩いていったとしても、ボス猿の跳躍力をもってすれば、ひとっ飛び。これは本当ーにやばい。来るなよー、来るんじゃないぞー、と神に祈りつつ、枝は猿に向けたままにじわりじわりと進む。刺激してはいけない。だが、万一襲い掛かってきた場合には叩き落とさねばならない。この苦しさを理解して頂けるだろうか。
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【龍虎山<20>】 |
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ふっー、なんとかボス猿の射程距離を離脱し、家族グループに紛れ込んだ。家族グループは数に物を言わせて建物の左隅を制圧しきり、餌を撒いて楽しんでいる。Zも混じってニコニコ顔だ。「いやー、危ないところだったよ。あっちにでっかい猿がいてさ。死ぬかと思ったよ」とうめく私に、「馬鹿ねぇ。だから危ないっていったじゃないの」と大笑いするZであった。振り向いて、すでに遠くに見えるボス猿に目をやると、なんだかこちらを見下したような顔をしている。うーむ、今回は敗北を認めてやるとするか。(猿・・・、猿に・・・)。
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【龍虎山<21>】 |
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十分楽しんだ後、建物を降り先ほどの餌売り場まで戻る。途中、さらに先に進むための道が分かれていたが、皆猿の多さに圧倒されて足が前に進まなくなってしまったのだ。
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【龍虎山<22】 |
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家族グループの皆が帰ろうとすると、Zも「○○(私の名前)、私たちも帰りましょうよ」と言い出した。「駄目。絶対に行く。まだちょっと見ただけじゃないか」。「でも、危ないわよ~」と情けない声を出す。「絶対に行く。この棒があれば大丈夫だよ」。ボス猿の前では役に立たなかったが、普通の猿なら問題なく追い払えるはずだ。確かにこれだけの猿がいると、もしや一斉に襲い掛かってきたりするのではないかという錯覚にとらわれるが、そんなことはあるまい。何より、こんな遠くまで来て、これだけでは帰れないぞ。
私の固い決意を感じとったのだろう。私一人では盾として十分でないと考えたのか、Zは家族グループたちを勧誘し始めた。「みんなで行きましょうよ。そうすれば大丈夫よ。来たばっかりで帰るなんてもったいないじゃない」。大道演説みたいな調子で家族グループたちに向かって懸命に呼びかける。
Zの激励が功を奏し、家族グループの男たちがまず動き始めた。「じゃあ、行くか。皆で枝を振りながら行けば大丈夫だろう」。女性団はまだ躊躇している。だが、構わずに私が先頭に立って歩き始めると、家族グループたちもゾロゾロとついてきた。
ところが、その時、女性陣から「きゃあ!」と声があがった。振り返ると、何かを手にした猿がすぐそばの木をスルスルと上っていく。わいわいと騒ぐ家族グループの隙間から木を見上げると、猿が手に持っているのはペットボトル。どうやら、飲みかけのペットボトルを奪われたらしい。
猿はペットボトルを持ち上げ、人間と同じように飲もうと試みる。だが、蓋がしてあるため水が出てこない。今度はひっくり返して、底の方を歯でガジガジと噛み切る。そうしておいて、ペットボトルの上部を上に持ち上げて、ごくん、ごくんと水(多分、お茶)を飲み始めた。家族グループが一斉に歓声をあげる。「上手に飲むねぇ」。「本当、人間みたい」。
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【龍虎山<23>】 |
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騒ぎがひと段落ついたところで、出発。細い道を抜けていくと猿が道脇の樹木の間からぞろぞろと集まってくる。それを枝を振って追い払いながら進む。後方をついてくる家族グループが「蚊が多いな」、「蚊が多いわね」とぼやいているの聞いてZの顔がこわばる。Zは蚊に好かれる体質で、私と一緒にいると蚊は皆Zの方に行ってしまうのだ。私が愛用している血行促進の塗り薬「活絡油」は蚊除けの効能もあるようなので、そのせいもあるかもしれない。当然、本日もたっぷりとあちこちに塗りたくってあるので、私が蚊にやられる心配はない。一層元気のいい足取りで私はゆく。
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【龍虎山<24>】 |
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【龍虎山<25>】 |
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十数分も歩いた時、前方に川を渡る細い橋が現れた。近づいてみると、竹でできている。足で踏んでみると、かなり揺れる。うーん、怖い。私は高いところが嫌いなのである。だが、これを怖がっていてはZに馬鹿にされてしまう。勇気を出して、足を前に踏み出す。後ろから「○○(私の名前)、怖いんでしょ」と見透かしたようにZの突っ込みが入る。「うるさいなぁ」とZを牽制しながら、こわごわと足を進める。手すりも竹でできているから、いつ折れるかわからず、頼りにすることができない。山中、これだけ木があるのに何で竹で橋を作ったりするんだ。竹の方が、水を弾いて長持ちするのだろうか。
私を馬鹿にするZも高いところが得意なわけではない。二人揃って、おっかなびっくり橋を渡り切った頃、「きゃあ!」という先ほどより大きな声が後ろで響いた。
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【龍虎山<26>】 |
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【龍虎山<27>】 |
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【龍虎山<28>】 |
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何だ?家族グループの一団がワイワイと騒ぎながら、こちらに背を向けて、橋の反対側のたもとの方角をみている。私の中国語のヒヤリングは騒ぎのもとが何であるかを聞き取れるほどの水準にはない。我慢し切れずに「Zっ、何があったんだ」と口に出した。猿が襲ってきて、紙袋ごと取ろうとしたみたい。「取っていったのか?」。「大丈夫みたいよ。ほら、あそこ」。Zが指差した先を目で追ってみると、なるほど、一部破れた紙袋を手に下げた女性がこちらに向かってくる。
うぁー、すごい。少しでも物が見えていると、アタックをかけて来るんだなぁ。「Z!俺のリュックのチャック、ちゃんと閉まっているよな」。はっと気づいて尋ねる。「閉まっている、閉まっている」。よし、これで安心だ。橋を離れで歩き出す。しかし、すごい猿だなぁ、橋の上を縄張りにしているのだろうか。振り返って、橋の上をみると、おっ、猿が橋の真中までやってきている。これを写真にとらない手はない。再び橋のたもとまで戻って、猿の写真をゲット。こうして見ると、まるで橋の番人だ。最初の橋にいたのが比較的若い猿。餌やり場にいたのが年季の入ったのボス猿。この竹の橋を守っているのがベテラン猿。きっと、世代ごとの一番賢く、強い奴らがこうした要所要所を守り、かつ、美味い汁を吸っているのだろうなぁ。
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【龍虎山<29>】 |
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【龍虎山<30>】 |
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橋のたもとを離れて川下に向かって歩く。私たちが写真をとっている間に先へ進んだ家族グループが、前方の小さな広場で立ち止まり、何やら騒いでいる。おっ、また事件か!?急ぎ足で追いついた。追いついてみると、小さな公園があり、ベンチやブランコにたくさんの猿が集まっている。家族グループたちは、その真中で餌をばらまきながら、ワイワイと騒いでいる。私も残りの餌を取り出そうかと考えたとき、男の一人があっちに桟橋があるぞ、あそこから餌をやろう!と大きな声をあげた。
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【龍虎山<31>】 |
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男は皆の先頭に立って、川に向かって突き出している桟橋の先まで行き、川岸近くの水面に向かって餌を投げ始めた。すると、猿たちは次々に川の中に飛び込み始めた。おおっ、すごい、泳いでるよ、猿。私も落花生やビスケットをリュックから取り出して川に向かって投げる。泳ぐだけじゃない。潜水して川底に餌を取りにいく猿もいる。「泳いでる、泳いでる!」、「潜ってる、潜ってる!」。家族グループも私たちも感嘆の声がとまらない。
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【龍虎山<32>】 |
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最初の驚きが過ぎ、じっくりと観察を始めると、全部の猿が泳げるわけではないことがわかる。餌は欲しいものの、川の中に入れず、物欲しげに水面を眺めている小さな猿。川の中には入っても、足の着く場所で、流れてくる餌を拾うことしかできない猿もいる。泳ぎができる猿はたくさんいるが、潜水までできる猿は多くない。賢い猿は、餌を手に入れても川岸まで戻らず、近くに打ち込まれた木のくいの上に留まり次の餌を狙う。私たちが餌を投げ込むとくいの上から跳躍し、餌の方角に向かって迷いなく飛び込む。一つの餌を争って、川の真中まで泳ぎ出す数匹の猿。餌を手に入れた猿は意気揚揚と戻ってくるが、とり損ねた猿はなんとも無念な様子だ。「落花生ちょうだい、落花生ちょうだい、私も投げる!」。Zも懸命に餌を川に向かって放り続ける。
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【龍虎山<33>】 |
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【龍虎山<34>】 |
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【龍虎山<35>】 |
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【龍虎山<36>】 |
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あまりの楽しさに、家族グループも私たちも、瞬く間に餌を使い尽くした。猿たちも疲れたのであろう、へとへとの様子で川岸やくいの上で休み始めている。お猿さんたち、楽しい時間をありがとう。皆、満足げに川を離れた。
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【龍虎山<37>】 |
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【龍虎山<38>】 |
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木から垂れ落ちている蔦を使ってターザンのように遊ぶ猿たち。その下を通って、一路出口へ向かう。途中、山中へ入っていく道があったが、皆疲れきっていて、奥へ踏み入っていく元気はなかった。トンネルを抜けて反対側に出ることができるようだったので、あの先に何があったのかいささか気になるところだ。
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【龍虎山<39>】 |
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【龍虎山<40>】 |
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入口近くでZはまたもやモンキーバナナをひと房購入。「それ、猿用なんだぜ」と言ってみてもまるで効き目がない。バナナに人間と猿の見分けがつくわけではないから、私の偏見と言われても仕方がないが、猿用の方が賞味期限が長く扱われるのではないかと思うのは私だけだろうか。Zは「安くて美味しいんだから!」と大喜び。まぁ、バナナを売っているおばさんにしてみれば、食べられるバナナと食べられないバナナの二種類しかないんだろうから、賞味期限がどうのというのは先進国病なのかもしれない。案外、人間よりも猿の方がうまいバナナにうるさかったりして・・・。
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【龍虎山<41>】 |
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11:40、龍虎山の出口に到着。さて、バスはどのくらいでくるかな?
11:50、走ってきた大型バスにZが手を振って合図する。バスは急ブレーキをかけ、キキッィと大きな音を立てて、10メートルほど先のところに停車した。「○〇(私の名前)、はやく、はやく」。Zの声に急かされて、私も走る。前を行くZは見事なまでに前傾姿勢だ。こういう時の中国人女性ってすごい。日本で、(バスに乗るのに)こんなに必死になる女性をみたことがないせいか、いつ見ても圧倒される。
バタバタとバスの中に駆け込み。席に座る。なぜか私たち以外の客はいない。いつもだったら、心配になるところだが、天気がよくて空は青空。バスの中にさんさんと降り注ぐ太陽の光が心の陰りを吹き飛ばしてしまう。
サングラスをかけた陽気なオヤジが運転手。音楽をガンガン鳴らしながらバスは走る。窓の外は、山も田んぼも緑でいっぱい。やっぱり9月の旅行は最高だなぁ。心も体も空を飛ぶような気分だ。
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【龍虎山からの帰途】 |
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1:00、北大バス・ステーション着。お昼休憩を取りたいところだが、のたらのたらしていたら、すぐ夕方になってしまう。次の観光地である「伊嶺岩」へ急がねば!いつもだったら、昼ご飯、昼ご飯とうるさいZも、今日は気持ちが同じなのか、何も言わす従ってくる。あぁ、モンキーバナナをたくさん食ったから満腹なだけか。
「龍虎山」と「伊嶺岩」では方角が全く違うので、起点となるバス・ステーションも違う。バス・ステーション間もバスが走っているのだろうが、市内の移動で時間を使うのは惜しい。タクシーを飛ばして、安吉バス・ステーションへ真っ直ぐに向かうことにした(26RMB)。
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【安吉バス・ステーション】 |
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1:20、安吉バス・ステーション着。「伊嶺岩」行きのバスは6RMB/人と安い。ということはすぐに着くのかな?腹の減った私はソーセージ一本と卵二個を買って乗り込む。私たちが席に着くと、バスはすぐに出発。私がソーセージ一本と卵、Zは卵だけ。「ソーセージ何でいらないの?」と尋ねると、「ソーセージなんて塩辛くて食べられないわ」と強い拒否。いやいや、お前いつも食べてるだろ。今日だけだろ、食べなかったのは。バナナあんなに食べなかったら、今も食べてるんじゃないか。
Zは「龍虎山」から帰ったときのバスが相当気に入っていたらしく、何度も「さっきのバスは良かったわねぇ」と繰り返す。まったくだ。風が気持ちよく、周囲も緑いっぱいで最高だった。バスそのものは、今座っているバスの方がしっかりしているのだが、環境が違うと感じ方も変わるものだ。
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【伊嶺岩<1>】 |
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【伊嶺岩<2>】 |
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1:45、「伊嶺岩」到着。入場料は15RMB。鍾乳洞の部分は別途25RMBとのこと。まとめて払おうとすると、ここでは入場料だけを払ってくれと断られた。入り口から少し入ったところにあるベンチのところでしばらく待たされる。他の客が集まってから、案内を始めるのだという。すぐ脇で猿用の落花生を1RMB/RMBで売っていたので、一応購入しておく。結局、20分近く待ったが誰も来ず、ガイド一人(無料)と私たち二人で出発。(ベンチそばの建設中の建物の奥にトイレ有り)。
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【伊嶺岩<3>】 |
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鍾乳洞へまでの道はガイドの案内に従って、少数民族の生活に関連する様々な物品を見て歩く。中学生の文化祭レベルのレプリカなので、あまり気分が乗らないがガイドの女の子も仕事だろうから、文句を言っても仕方がない。トボトボと後ろをついていく。
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【伊嶺岩<4>】 |
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【伊嶺岩<5>】 |
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【伊嶺岩<6>】 |
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結婚式の時にやるとかいう、縄跳びのような要領で遊ぶ棒飛びゲーム。初めてだったら感動があるかもしれないが、あちこちで見たりやったりしているので、仕方なく参加という感じだ。
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【伊嶺岩<7>】 |
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【伊嶺岩<8>】 |
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まずスタッフたちが歌を歌い、それに歌を返すと刺繍した飾り球がもらえるとのこと。だが、私は歌は駄目。Zも恥ずかしがって歌わない。賞品は頂けなかった。
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【伊嶺岩<9>】 |
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少数民族の家のレプリカ。もうちょっと上手に作れないものか。
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【伊嶺岩<10>】 |
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家の中には農具が置いてある。とても実用に耐えそうもないもの。
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【伊嶺岩<11>】 |
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少数民族の食べ物。結構ボリュームがある。饅頭と粽。Zは怪しんで全く食べようとしない。うーん、いつ作ったのだろう。だが、ガイドがどうして食べないの?という表情で待っているので、頑張って半分ほど食べた。可も不可もない味。Zが「味、どうだった」と尋ねてくる。「普通」。「どうして全部食べなかったの」。「万一やられた場合、被害が半分で済むと思ったから・・・」。Zの奴め、興味があるが怖くて食べられなかったようだな。うーん、お腹が心配だ。
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【伊嶺岩<12>】 |
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鳥園のようなところを通り過ぎ、・・・。
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【伊嶺岩<13>】 |
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少数民族の生活用品の博物館。
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【伊嶺岩<14>】 |
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叩いて村人に合図をする器具。三回叩くと歓迎すべき相手、七回叩くと敵対者が現れた合図となるらしい。
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【伊嶺岩<15>】 |
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ここで少数民族の踊りを見せてくれる。着ている服装は、以前に深センの歓楽谷というテーマパークでみたものと同じ。そうか、あれは広西省の少数民族の踊りだったのか。しかし、あちらの方が楽しげで、良かった。観客が少ないからやる気がみられないスタッフたち。本場なんだから、もうちょっと頑張らないとね。
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【伊嶺岩<16>】 |
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まだ鍾乳洞につかない。道脇にいくつも像が立っていて、ガイドが説明をしてくれる。多分、英雄とか神様の像だろう。
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【伊嶺岩<17>】 |
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色つきの石で三つに分けられている階段。三つのうち、どれを通るかで運命がわかるらしい。
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【伊嶺岩<18>】 |
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力溢れる像なので、写真にとってみた。そう言えば、最近、こうした像があちこちの歩行者天国でみられる。湖南の長沙にもあったし、深センの東門や、広州の上下九道にもあった。高級感があって耐久性もあるから採用されているのだろうが、材質は何なのだろうか。
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【伊嶺岩<19>】 |
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【伊嶺岩<20>】 |
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小さな門を抜けると、底は酒蔵。これもレプリカで酒の造り方を説明してくれる。
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【伊嶺岩<21>】 |
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2:40、ようやく鍾乳洞に到着。なだらかな坂をずっと登ってきたので、気づかないうちに、けっこう高い所まで来ていたようだ。下の田んぼを見下ろすことができある。土産物が少し出ていて、ここで5分ほど待たされる。土産物を買う時間として定められているのだろうが、もうちょっと、特色のあるものを置いておいてもらわないと買う気にならないよ。
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【伊嶺岩<22>】 |
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鍾乳洞への入場料25RMB/人を支払って中に入る。桂林の七星岩にあった鍾乳洞と同様、ガイドがついて説明を始める。
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【伊嶺岩<23>】 |
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【伊嶺岩<24>】 |
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予想通り、ネオンライトの連続。どーしてこんなケバケバしい色をつけなければならないのか。もっとも、そんなネオンも、都会からやってきたものだろうから文句も言えないか。
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【伊嶺岩<25>】 |
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同じ広西省の鍾乳洞だけあって、桂林の七星岩とほとんど変わらない。もっとも、鍾乳洞というのはみんなこんなものかもしれない。ただし、七星岩の鍾乳洞より、規模がだいぶ大きい。通路も上ったり下りたりと、空間をふんだんに使っていてヒヤヒヤ感があって面白かった。もうちょっと色使いを控えめにして、石の形自体を楽しめるようにすると、心に残るような観光地になると思うのだが・・・。
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【伊嶺岩<26>】 |
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【伊嶺岩<27>】 |
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【伊嶺岩<28>】 |
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【伊嶺岩<29>】 |
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3:30、鍾乳洞の出口に到着。ふっー、疲れた。真っ暗な中を長時間歩くのは疲れるものだ。背伸びをしながら歩いていくと、前方に猿の集団を発見。買っておいた落花生が役に立つ。午前中訪れた「龍虎山」ほどではないが、十数匹の猿がどっと集まってくる。餌を瞬く間に使い果たしてしまった私は、昨日買った「ひまわりの種」がまだリュックに残っているのを思い出した。中国では、バスのお供に必需品のひまわりの種。小さいのでなかなかお腹がいっぱいにならず、暇つぶしには最高である。それを猿にあげてみようというわけだ。落花生は大人気であるが、ひまわりはどうか?興味を示さなかったらさびしいなぁと考えながら、ばら撒いてみる。
おおっ、皆食べ始めたぞ。しかも、実が小さいので、ゆっくりパリパリと食べるのがやっとだ。落花生のように一瞬に食べ終わるのは無理のようだ。パリパリと可愛く食べている様子が楽しめる。うーん、なぜ「龍虎山」にいる時に思い出さなかったのだろう。あの大勢の猿にひまわりの種をパリパリと食べさせてみたかった。喜んで少しずつばら撒いていると、Zが「私の分も残しておいてよね」と口をはさんできた。(おまえは猿とも競争するのか!?)と思ったが、猿用のモンキーバナナも食べる奴だ。きっと、食べ物には「私が食べられるもの」と「私が食べられないもの」の二種類しかないのかもしれない。「わかった、わかった」と適当に返事をしておく。
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【伊嶺岩<30>】 |
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【伊嶺岩<31>】 |
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3:45、「伊嶺岩」の出口に到着。
3:55、バス乗車。
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【伊嶺岩の前の通り】 |
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4:20、安吉バス・ステーション到着。2号線バスに乗って、市街へ出る(1RMB/人)。
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【伊嶺岩からの帰路<1>】 |
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ここで面白い現象が発生。バス乗車をしたとき、私たちの前にたまたま一組の母子が座った。おっ、可愛いなぁと思っていたら、次のバスでもう一組やってきて、最初の母子の隣に座った。なんだ、今日は赤ん坊だらけだなぁと感心していたら、次の次ぐらいのバス停で、さらに一組の母子が登場。その前の席に座った。おおっ、三組目だ。他の席にもいるのだろうかと車内を見回すが、赤ちゃんを抱えた母子がいるのはこの一角だけだ。さすがにそれ以上は続かず、一組、また一組と下車していったが、これは偶然だったのだろうか。或いは、母子はお互いに寄り添う傾向があるのだろうか。
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【伊嶺岩からの帰路<2>】 |
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4:50、朝陽広場に到着。昨日、ぶらぶらして何も発見できなかった場所だが、昨日は歩みを止めてしまった場所をさらに行くと、屋台街があった。美味しいものがたくさん。私は写真をパチパチととり、Zは、美味しいわね、美味しいわね、と繰り返しながら食べまくる。
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【再び朝陽路周辺<1>】 |
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【再び朝陽路周辺<2>】 |
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【再び朝陽路周辺<3>】 |
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屋台で半分ぐらいお腹が満ちたが、これで夜を越えるのは厳しい。良いレストランはないかと探したが、見つからず、地元の中華ファーストフード・チェーン店に入った。だが、これは外れ。
5:45、タクシー乗車(7RMB)。
6:00、ホテル着。今日はハードな一日だった。もう何もしたくない気分。シャワーを浴びてゆっくり休もう。カードを挿入し、部屋に入る・・・。ガチャ、ガチャ・・・、空かないぞ。ガチャ、ガチャ・・・、開かない。
この時点で、原因はほぼ判明している。過去にも似たようなパターンを食らったことがあるからだ。デポジット不足である。二泊するのに一泊分のデポジットしか払っていない。だから、部屋に入れないように設定されてしまったのだ。こう書くと私がミスをしたみたいだが、違うのだ。
二泊すると決めた時点で、私はフロントに行き、「二日泊まることにした」と告げていた。フロントのスタッフは、「わかりました。手続きをしておきます」と簡単に答えるだけ。「でも、デポジットを足さなければ駄目だろ」と私が聞くと、「いえ、結構です」と自信満々に断ってきた。「本当にいらないの?」と重ねて聞く私に、そのスタッフは、しつこいね、キミはという調子で、「大丈夫です」と力強く繰り返したのだ。ここまで言われて、「いーや、俺はどうしても払いたいんだ!」とは主張できないものである。それで、やむなく引き下がった。その結果がこれである。
「部屋が開かないんだけど・・・」。昨日は男性だったフロントが今日は女性。反撃の唯一のチャンスが去ったのを悟った。
「カードをお持ちですか?」
「これだよ」
「・・・デポジット不足ですね」
「二日泊まるって言ってあったよ」
「・・・はい。そうなっていますね。でも、デポジットが不足してます」
それだけか。二泊と記録されていて、なぜデポジットが不足しているかについての話はないのか。金が足りないのだけが問題というわけだ。しかし、ここで(恐らく何の結果も生まない)議論を展開するには疲れすぎている。
お金を取り出しつつ、「デポジットを追加する必要はないって、フロントスタッフが言ったんだけどね」と告げてみる。が、私の言葉は、彼女の左耳に入って右耳から抜けてしまったようだ。全く反応なし。黙って、受領書を書き綴っている。自分の仕事はデポジットを集めることで、他のことは関係がないと考えているのだ。
ああ、腹が立つ。本当にいないのか、昨日のスタッフは!!フロントの内側を見回すと隅に立っていた男がササッと姿を隠した。奴だ。きっと、奴に違いない。髪型がそっくりだった。だが、顔を覚えていないのでは役に立たない。
女性スタッフが差し出した受領書を黙って財布に突っ込み、とぼとぼとフロントを離れた。
エレベーターに乗り込むと、Zが「デポジット足らなかったの?」と話し掛けてきた。(駄目ねぇ、○○(私の名前))はという調子である。「デポジットは追加しなくていいって、昨日のスタッフが言ってたんだよ」と短く答える。フロントに対して追求しなかった以上、Zに不満をぶちまけても仕方がない。
被害は少ないけれど、精神的にこたえる微妙な仕掛け。例えて言えば、地雷と地雷の間に忍ばせてあるバナナの皮。そこに足をのせてしまい、引っくり返って尾骶骨を痛めてしまったようなもの。しかし、そんな不愉快な気分も、隣のベッドで楽しそうにテレビドラマに浸っているZをみていたら、どこかへ飛んでいってしまった。Zの功能である。
明日は靖西。今回の旅で一番スリルな部分。楽しみ、楽しみ。 |