8:00、起床。天気はやや曇りだ。気温も低い。今日は雨が降らないことを祈る。
8:18、部屋を出て食事に向かう。一泊160RMBの宿泊所の無料の朝食なので、まぁ、それなり。
8:35、ホテルを出た。本日の目的地は「南山牧場」であるガイドブックで紹介されていたバスの出発口へとタクシーで向かった。
タクシーで下車した場所に停まっていたのは、ツアーバスのみだった。料金を聞いてみると、南山牧場まで往復入場料込みで45RMB。安い!安すぎるぐらい安い。ツアー嫌いの私も、心が揺らぐぐらいの料金だ。Zに意見を聞くと、「安いからツアーでいいわ・・・」とすでにツアーの方へ気持ちが傾き始めていた。しかし、先日の「天池」一日ツアーのときもそうだったが、ツアーでは土産物屋巡りに時間を割きすぎて、十分に観光地巡りができない。不満がつのって楽しい観光どころではなくなる。やはりツアーは避けたい。「絶対土産物屋巡りさせられるぞ」と話してみるが、「普通のバスがないんだから仕方ないじゃない。タクシー高いし」と一蹴されてしまった。
それでも、なんとか説得し、タクシーをとめて聞いてみることになった。
1台目。「南山牧場までいくら?」。「180RMB」。駄目だ。高すぎる。
2台目。「南山牧場までいくら?」。「100RMB」。おおっ、許容範囲内だ。
片道の料金だから、バスツアーの往復料金と比べると、やはり高い。ツアーは入場料も込みだし。しかし、ツアーは時間が限られるし、不愉快度が高いから、これぐらいの差額なら、ツアーはなんとしても避けたい。だいたい、Zだって、土産物屋で待たされる時、ブゥブゥと文句を言うのだ。少し強い調子で説得すると、ZもしぶしぶOKを出した。
9:05、タクシーに乗車して発車。
気温が低いので、窓を開けたままだとやや寒い。しかし、気持ちがいいので、窓の上部だけ開けておく。
運転手とZのおしゃべりの間に、時々口を挟み、目的地に関して話を聞き出す。すると、私たちが当初行く予定だった「南山牧場」とは違う場所に向かっているみたいだ。「約束と違うんじゃないか」と問いかけると、運転手は「(連なっている)同じ山だ」と言い張った。「地球の歩き方」によると、一口に「南山牧場」と言っても、「東白楊溝」、「西白楊溝」、「水西溝」といくつかに分かれていて、ツアーバスでは「西白楊溝」に行くことが多いそうだ。三つのうちのどれかに着くのならいいが、全然関係ないとんでもないところで下ろされたら困る。最悪は、そこからさらにバスかタクシーで移動ということになるのだろうか。気のよさそうな運転手だから、そんなにアコギなことはしないと思われるが、これっばかりは着いてみないとわからない。
「帰りはどうなるの。私たちを待っていてくれるの?」とZが聞いた。良い質問だ。
「向こうにどのくらいいるんだ」
「うーん、4,5時間かなぁ」
「電話番号を教えるから、電話をすれば迎えに来るよ」
「料金は?」
「100RMB」
行きと同じか。まあ、リーズナブルと言えるだろう。
一応、「もっと安くならない?」と聞いてみたが、「駄目、駄目」とあっさり断られた。
10:00到着。牧場への入口のようなところで、下車。運転手は私たちと一緒についてきてくれ、道路の脇にある待機所のようなところでたむろっていたスタッフに、私たちに代わって要求を伝えてくれた。運転手が去ると、厚いコートを着たスタッフの女性は私たちを待機所に招き入れ、「馬が来るまでしばらくかかるから、ここで待ってなさい」と親切に言ってくれた。しかし、待合所と言っても、暖房もないコンクリートの部屋に過ぎない。風が当たらない分、外よりましという程度だ。入場料(15RMB/人)を支払ってから質問をした。
「馬に乗るの一時間いくら?」
「25RMBよ」
「さっきの運転手は20RMBって言ってたよ」
「そう、それなら20RMBでいいわよ」
運転手から情報を仕入れていてよかった。しかし、さらっと、値切りを受け入れる感覚がよくわからない。だったら最初から20RMBって言えよという感じだが、彼女にとってはそのまま通れば儲けものという
悪気のない挨拶のようなものなのだろう。
馬が来るまで10分ぐらいかかるというので、トイレに行くことにした。トイレは待機所から数十メートルほど離れた広場にあるというので、外に出た。外に出たついでに、建物の壁に取り付けられた、入場料を示したプレートをまじまじと眺めた。「
照壁山旅遊風景区」とある。やっぱり、ここ、南山牧場じゃないよなーと思うが、今さら仕方がない。要は馬に乗れればいいのだ。
トイレは柵に囲まれた広場の隅にあった。どっぽん式のトイレで、糞便が斜めになった坂を転げ落ちて建物の裏に出るようになっていた。建物の裏に落ちた糞便は牧草の肥料となるのだろう。環境にも優しくエネルギーは無尽蔵の引力のみ。素晴らしいトイレだ。たまにしか掃除している様子はないが、ここでトイレを使う人自体少ないらしく、それなりに綺麗だった。ハエがうろちょろしているのはいただけないが・・・。
再び待合所に戻ると、Zが「寒いから手袋が欲しい」と言い出した。そこで、すぐそばにある商店で、手袋(軍手?)を購入した。戻ると、二頭の黒毛の馬が待合所のそばで私たちを待っていた。ずいぶんと綺麗な馬だ。馬のそばに30過ぎぐらいの男が立っていた。上下をジーンズに身を包んで身軽そうな様子だ。今の会社の前に勤めていた工場の副工場長に、驚くほど体型や動作がそっくりでびっくりさせられた。服の趣味や帽子をかぶっているところまで一緒だ。副工場長には入社当時、ずいぶんを面倒を見て貰っていたのに、徐々に関係が悪くなっていってしまった(転職とは関係がない)。いささか気まずい思い出である。それがこんなところで、そっくりさんに出会うことになるとは・・・。ちょっと眉毛が太いが、それ以外はずいぶん似ている。
「馬に乗るのはどっちが上手なんだ?」
いきなり難しい質問が飛んできた。私もZも観光地でしか馬に乗ったことがない。一人で馬二匹を連れてきたということは、私たちのうちどちらかは一人で馬に乗っていかねばならないということなのだろう。Zに一人で行けなどというと、馬乗り自体を拒否されかねない。やむなく、「私だ」と答えた。もちろん、「いや、俺だってほとんど乗ったことないんだよ」とは付け加えてみたが、相手は一人しかいないのだから大して意味はない。私を先に馬に乗せ、「この手綱で馬を操るんだ」とだけ言って、Zの方へ行ってしまった。
大騒ぎをしながらZが馬に乗ると、男は手綱をとってやるだけでなく、Zの後ろに乗って乗り方を教え始めた。(俺も乗り方知ってるわけじゃないんだけど・・・)とは思ったが、とにかく出発だ。幸い、馬はよく馴らされていて、私が特に手綱をとらなくてもZの馬にくっついてトコトコと歩いていく。今まで、麗江の玉龍雪山の麓と内モンゴルの草原とで馬に乗ったことがあるけれども、どちらも大半の時間は手綱を引いてもらっていた。今日は、この調子でいくとずっと一人で乗ることになりそうだ。なんとも刺激的である。
馬は横に並んで歩くのに慣れているらしく、手綱を取らないと、Zの馬の左側にぴったりとくっついてしまって危ない。
「○○(私の名前)、向こう行ってよ。ぶつかっちゃうじゃない」
「いや、俺が来てるんじゃなくて、馬が勝手にそっちに行くんだよ」
「ほら、離れて、離れて!」
なんとも冷たい。Zの後ろに座った男が手綱を左に引っ張れと教えてくれたのでその通りにすると、馬は嫌がりながらも左に移動し、Zも満足してくれた。
しばらく舗装道路が続いた。その間、両脇は小さな牧場がちらほらと現れた。どこでも牛や羊が草を食べるのんびりとした風景が広がっている。牧場ごとにパオがあり、風景に趣を添えていた。牛が草を食べ終わったら、また移動して別の場所で暮らすというようなことをやっているから、固定された家よりもパオのような移動式の家屋のほうが実用的なのだろう。
「この馬、いくらぐらいするんだい?」
二匹ともすごく綺麗な馬なので、興味があって聞いてみた。
「一匹3000元だよ」
「観光客を乗せるために買ったのか?」
「そうだ」
一匹3000RMB。うーん、すごーく安いような気もするけど、客が来なければ、ただの大飯ぐらいということになる。もっとも牧草地だから、餌に余分の費用がかかることはないのかもしれない。尋ねてみると、今日の目的地との往復でだいたい3時間かかるとのことだ。一時間20RMBだから、一人当たり60RMB。少し延長したとして80-100RMB。なるほど、毎日客がくれば、月5,000RMB以上稼ぐこともできるわけだ。中国全土が物価高になっているとは言え、これだけの僻地であれば、高い収入と言えるだろう。儲かるようだったら、ある程度まで馬も増やせるだろうし。ただ、シーズンオフの期間も長いだろうから、平均すると、そんなに稼げないのかな?
12:20、ほぼ目的地に到着。ここから先は道が険しく馬ではいけないのだそうだ。奥に滝があるから自分たちで行けという。男はついてくるつもりはないようだ。その間、何をするかというと、キノコ取り。ここへ来るまでの間もだいぶとったらしく、風呂敷代わりに使われたジーンズの上着には、すでにたくさんのキノコが入っていた。
(内職かよ。だったら、その分料金を下げろ!)と言いたくなるところだが、借りたのは馬だけだし、男がついてきてくれているのは無料サービスということになるのだろう、多分。まぁ、自分の馬が傷ついたり逃げたりしないか心配でついてくるのだろうが。
馬に乗っていようがいまいが、1時間20RMB/人には変わりがない。キノコ採りにひどく興味を引かれている様子のZをせかして、先に進むことにした。中国の河川というと、とにかく大きくて広いというイメージだが、ここのは日本の渓流に近い。妙に親近感を覚える。奥へ奥へと向かうが道がどんどん険しくなっていくばかりだ。なんどか岩をつたって川を横切った後、とうとうギブアップ。岩の上はひどく滑るからあまり無理をして怪我をしては手遅れだ(というか、天池ですでに足を痛めているし)。滝を見るのは諦めて、男のもとに戻ることにした。
戻る途中、携帯電話をみると、信号の強度を示すアンテナマークに×がついている。えっ、携帯電話の電波が届かないのか、ここは。驚いて、携帯電話はあちこちに向けているとアンテナマークがついた。全く届かないわけではないようだ。
男のところに戻ると、すでに12:40。
もう十分楽しんだので、さっさと戻りたいところだ。山の斜面でキノコ採りに励んでいた男を呼び戻そうとすると、Zが「私もキノコをとる!」と斜面を登って行ってしまった。どうしてもキノコ採りをしないと気が済まないようだ。とりあえず、男を呼び戻して、滝までは行けなかったことを伝える。男は、「そんなことはないだろう。行けるはずだ」と答え、もう一回行ってこいという素振りをみせた。どうやら、もうしばらくキノコ採りに励みたいらしい。キノコ採りに励みながら時間も稼げるわけだから、男にとっては一石二鳥だ。わからないわけではないが、こちらにも都合がある。もう一度、無理だということをよく説明した。それでも納得しない男は俺が連れて行ってやるという様子を見せたが、キノコを数個採ったZが戻ってきて一緒になって説明するとしぶしぶ諦めた。がっかりした様子で帰りの準備を始めた男に、Zは「ねぇ、私のとってきたキノコ、あってるでしょ。これでいいのよね。あげる」と上機嫌でキノコを差し出した。男は仕方なさそうに、「うん、うん」と答えながらキノコを受け取っている。きっと、そんなことしてくれないでいいから、滝まで行ってきてくれよと思っているのだろう。そんな男の思惑に構ってはいられない。男とZを急かして帰途に着いた。
最後にアクシデントがあったが、無事待合所のところまで戻ることができた。4時間だから、20RMB×4(時間)×2(人)で160RMB。Zにお金を渡して男に払って貰うことにし、私は待合所から様子を見守った。馬のそばでZがお金を渡すと、お金を数えた男は、「チップくれよ、老板(社長)!」とおねだり。「私、老板じゃない」。「あんなに長いこと歩いていったんだからさ、老板!」。「私、老板じゃない」。「頼むよ、老板!」。「私が老板だったら、当然、チップ上げるわよ。でも、老板じゃないもの」。
男の再三の要求をはねのけ、Zは待合室まで戻ってきた。「何よ。チップなんて、あげるわけないじゃない。キノコまでとってあげたのに。あれ、すごく高く売れるはずよ」。さすが、Z。私だったら、ついついチップをやってしまったかもしれない。えらい。キノコとってやったのは、彼はたぶん、あまり嬉しくもないのだろうけど。
楽しかったけど、さすがに疲れた。バスは、本当にすぐ近くから出ていた。しかも、市内まで8.5RMB/人である。安い。しばらく待って、2:50に出発。
4:15、市内到着。
行きのタクシーと違って、あちこちで停車したのと若干遠回りをしたこともあって、2,30分ぐらい余分に時間がかかったが、なんと言っても安いし、天気も良かったので、全く苦にならなかった。ただし、このバス・ステーションはかなり小さいので、再度見つけるのは大変そうだ。インターネットで捜してから行くのがベストだろう。上の写真にある「板房沟」行きで探せば見つかるのではないだろうか。
バスを降りたZの最初の一言は、「食事をしましょう」だ。顔が、『飯食わせないと怒るよ、私』と語っている。「どこかいいところを探そうよ」と言ってみるが、「どこでもいいのよ、食べられれば!」と怒りの発言が飛んでくる。いつものことだ。
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ちょうどドアのない大衆食堂があったので、Zが「ここにするわ!」と宣言した。「ええっ、ここ?もっといいところにしない」。聞き入れてもらえないことを知りながらも、言わずにはいられない。しかし、「うるさい」の一言で一蹴された。お腹が空いたときのZは、非常に凶暴である。
これ以上の介入は許さないわとばかりに大股でお店の中に入っていって、「ここでいいわね」とさっと席に座った。
「私、ご飯が食べたい」とZは白飯と料理を注文した。
ウルムチに来てから、麺ばかり食べていたから、飽きてきていたのだろう。
私はまだ飽きていなかったので、麺を注文した。それと、羊肉の串焼きも。
しばらくして料理が並んだ。馬乗りで疲れ果てた身体にエネルギーをつぎ込むべく、二人とも黙々と食べ続け、瞬く間に平らげた。
しかし、お金を払う段になって、問題が発生した。お釣りとして差し出された50RMB札を、Zはいじり回した。日に透かしたり、ひっくり返したりした後、「この50RMBは、駄目。交換して!」と言ったのだ。偽札の可能性があると判断したのだろう。中国では、偽札はけっこう普通に出回っている。偽札が出たからといって、特に調査が始まることもなく、一般民衆の間で押し付け合いが行われるだけだ。出稼ぎ労働者が受け取った数ヶ月分の給料が全て偽札だったといったレベルになって、ようやく新聞記事に出るくらいなので、一枚、二枚の偽札では話題にもならない。
だから、一般に人たちは皆それなりに偽札識別法を心得ていて、むやみにはひっかからない。受け取ったお札が怪しいと感じた客や店主が相手にお札を突き返すという光景も、日常茶飯事だ。Zがそうするのも珍しくはなく、私も驚かなかった。店員も、ぶつぶつ言いながらも交換にいった。ところが、店員が新たに持ってきた50RMB紙幣も、Zの「これも駄目!交換して」の一言ともに突き返され、店員が入口のところでお金を取り扱っている老板娘のところへ持って行ったところで、老板娘が切れた。「私たちのお店で偽札を出したことは一度もないわ。絶対大丈夫よ」。恐れをなした店員は、その50RMBを持って再びZのもとへ戻ろうとした。
しかし、辿り着くまでもなく、Zが叫ぶ、「絶対駄目。おかしい。代えて」。
「もう他に50RMB札はないわ」
もはや、店員が間に入るまでもなく、7,8メートルほどの距離を置いて、Zと老板娘の激しいやりとりが続く。
「わかったわ。だったら、10RMB札でちょうだい」
老板娘はしばらく抵抗をしたが、さすがに面倒くさいと思ったのか、ぶつぶつ言いながら10RMBを5枚寄越した。
「あの50RMB札、絶対怪しい」。憤慨しながら店出るZ。後ろでは老板娘が怒り狂った様子で何かを叫んでいる。中国人同士の戦いは激しい。ちょっとついていけない。まぁ、これぐらいタフでないと、中国人はやってられないということだろう。
5:30、ホテル着。今日も砂嵐に翻弄されるかと心配だったが、風はなく、すんなりと学内のホテルに入ることができた。
8:50、外はまだ明るい。馬乗りの疲れもとれたので、ウルムチ最大の夜店街へ向かうことにした。
9:15、出発。タクシーに乗って、星光五一街へ。
Zは、天池で私が負傷をした晩にすでに一度ここへ来ているが、私は初めてだ。確かにたくさんの夜店は出ているが、雰囲気は商店街に近い。もともとレストランの多い商店街が、各々の店の前に露店を開いているといった風だ。中国では、単独で露店を並べているところもあるが、こうして店舗の前に露店が並んでいる場合が少なくない。考えてみると、香港の女人街とかの露店も店舗の前にわざわざ露店を並べている。ああいうのは、どういった仕組みになっているのだろうか。興味深い。
星光五一街の屋台は、Zが言っていた通り種類が豊富だった。羊肉、砂鍋、中華おでん、省都の屋台街だけあって何でもある。屋台とその後ろに控えている店舗の間にテーブルがたくさんおかれていて、皆そこに座ってわいわいと賑やかに食事をしていた。値段の安いものもあるが、屋台の料理とは思えない高いものもあった。羊肉のチャーハンなどは15RMBもした。深センの安食堂並の値段だ。ここの屋台は、純粋な屋台として店を出しているところと、あくまで店舗の延長として店を出しているところの二種類があるようだ。美味しかったのは、味のついた野菜炒めを小麦を広げて焼いたもので巻いた料理。たったの2RMBなのに、ボリューム感たっぷりで、なおかつ美味しい。屋台の種類は目移りするぐらいたくさんあるが、お腹の容量には限界がある。2つも食べると、お腹いっぱいでそれ以上食べられなくなってしまった。見ているだけでお腹がいっぱいになるというのもあるけれども。
10:40、タクシーに乗ってホテルへ戻った。
もうくたくただ。でも、足がだいぶ調子よくなったのが幸いだ。今回の日程で行けるところはだいたい行った。明日は何をしようか? |