8:00起床。ベランダから外の風景を眺める。玉龍雪山が部屋から見られるとは素晴らしい。良い部屋をとった。これだったら、二日間でなく、五日分とっておけば良かった。今日帰ってきたら、フロントで延長できるか聞いてみようか?
ホテルでは朝食を頼んでいなかったので、外に出て探す。地図によると、まっすぐ進んでいくだけで、麗江古城の中に入っていけるはずなので、ぶらぶらとそちらの方へ行くことにした。すると、ちょうど古城への入口になる路の手前のところに「焼餅」と「豆粥」を食べさせる露店があったので、そこで朝食を食べることになった。Zも妹も「焼餅」と「豆粥」を注文。妹が美味しい、美味しいと食べてくれたので、私も嬉しかった。初めての中国旅行ということで各種予防接種を打ってきてもらったから、心配なく露店のものを勧められるけれども、本人が気にするようだったら食べさせられない。幸い、我が妹だけあって、躊躇なく食べてくれて良かった。露店で食べられないようだと中国旅行の楽しみが半減するというものだ。(もっともそういう私はここでは食べなかった。ローカボ・ダイエット中なので、小麦系の食べ物はできるだけ回避しなければならないのだ。ああ、腹減った)。
小さな小路から、古城内へ入る。古城といっても、ほとんどが真新しいたてものだ。あくまで昔の状況をイメージした街作りがされているということで、昔からの建物がそのままあるわけではない。それでも、街の中心部と違って土産物屋でいっぱいになっていない分、飛騨高山の古い町並みのような、楚々とした風情が感じられる。
やがて街の中心部へ到着。ここに世界遺産の象徴でもある水車と江沢民の筆跡が刻まれた壁碑がある。朝早い時間のため、まだ観光客は多くないが、ここだけは記念写真をとる人が絶えない。
私たちもデジカメでパチリパチリと写してから、古城の中心へと向かった。
旅行ガイドブックによく載っている写真の古城の美しい風景がそのまま目の前に現れるのは感動的だ。早朝で人が少ないのもいい。すでに有名な話だが、世界遺産となっている古城の内部は、生活感などは全くなく、土産物屋テーマパークと化している。それが朝だとまだ店があまり開いていないから、顕著でない。静謐な古い街並みの様子がゆっくりと味わえるのが良い。
ぶらぶらと通りを歩きながら、ところどころ開いている土産物屋をのぞく。今日の予定は、この古城と束河古鎮の二つだけ回れれば十分だと考えているから、慌てる必要はない。日本からきた妹にとっては、お土産を十分に揃えるのは必須のことだから、最初に大半を済ませておけば、後で慌てる必要がなくなる。実のところ、男の私にとっては土産物屋巡りはやや辛い作業だが、私にしても上司やら部下やらに土産物は欠かせない。最後になって数が足りないとなると、空港で買い揃えなければならない。そうすると、同じものでも3倍ぐらいの値段になってしまうから、初日に済ませてしまうと後が気分的に楽だ。(この時は気づかなかったが、春節の初日以降となると様々な商品が一斉に値上げされるようだ。春節の初日は春節休暇の真ん中ぐらいにあるから、旅行で来るなら前半のうちに買い物を済ませてしまったほうが効率がよくなることだろう)。
土産物買いのキーマンは、もちろん、Z。東門(深セン)で鍛えた値切りのテクニックを駆使して、妹の買い物のために頑張ってくれた。100RMBの品が店員とやりとりしているうちに、瞬く間に20RMBまで下がっていく。妹は、「あっという間に何分の一になっちゃうんだもんね。信じられない」とびっくりする。日本の関東付近では値切るという習慣がないから、なかなか理解しにくいことだろう。
また、全てが5分の1になるわけではなく、ある物は、半分だったり、ある物は3分の1だったりするから、余計に混乱させられる。納得のいく値段というのは、相手がどうしても売らないと言い張って、こちらがだったら買わないという値段までになり、店員に背を向けて店を出ようとする、その時に呼び止められて買った時の値段ではないかと思うが、毎回そんなに時間をかけて交渉していたら時間が無駄だから、他の要素もいろいろあるのだろう。
どんどん奥へと進んでいくが、際限なく建物が続いている。あまり遠くへ行かれると、戻るのが大変になるのでZをなだめて、なんとか方向転換をさせ、街の中心部へと再び戻った。以前から興味があったお湯の中で花を咲かせるお茶を売っているお茶屋があったので、中に入って味見をさせてもらう。
花を咲かせるお茶は、ジャスミン茶で麗江の特産というわけではない。日本で一時話題になったというので、私と同じ現地採用の同僚が騒いでいたので記憶に残っていた。それで、探していたのだが、雲南地方のメインはプアール茶だから、置いている店がなかなかなくようやく見つけた次第だ。
頭の中にあるイメージだと、綺麗な花がぱっと咲く感じだった。実際に淹れてもらうとそうでもなく、もさっとした感じである。お茶の色でお湯が濁っていることもあって、色も鮮やかとは言い難い。ただ、値段が高いものは香りが良く、部屋の中にお茶の香りが充満した。
麗江では、プアール茶の他に、ライチ(紅)茶(この時点では私は知らなかった)が名産だというので、ライチ茶も味見させてもらった。ライチ茶はZと妹には不評。甘味が強いためだろう。私はもともと紅茶が(コーヒーはもっと好きだが)好きなので、結構好みの味だった。
結局、花を咲かせるジャスミン茶とライチ茶を少しずつお土産用に購入することにした。
(花を咲かせるジャスミン茶ですが、家に戻ってやってみたら、時間をかけるとけっこう大きく綺麗に咲くことが判明した。一方、香りのほうは、全然香らなかった。麗江は深センよりもずっと乾燥していたから、香りが広がりやすかったのではないかと想像している)。
ずいぶん歩いてお腹が空いてきたので、胡桃菓子を一袋分かって3人で食べた。これは自動たこ焼き機のような仕組みで、機械がタネを型に次々に自動注入し、柔らかい丸菓子を焼き上げていく。工程を見ているだけで楽しいので、客が列をなして買い求めていた。ふわっとしたワッフル(?)のような味だった。
さらに、牛肉の串焼きも食べた。串焼きは中国でもポピューラーな食べ物である。ここで売っていたのは、普通の牛の肉ではなく、ヤクと呼ばれる種類の牛の肉を使ったもの。インターネットによると、比較的高地に生息する、体毛が長い、モーと鳴かない牛であるそうだ。(この時点では、そんなことを知らなかったので、特に普通の牛との違いは感じられなかった)。
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11:30、タクシーで束河古鎮へ移動することにする。古城の出口へ向かうと、おばさんが声をかけてきた。
「どこへいくの?」
「束河古鎮」
「なら、行きましょう」
「いくら」
「30RMB」
「行かない」
地球の歩き方によると、束河古鎮までは15RMBのはずだ。現在もそうかは定かでないが、道路際で流しのタクシーを捕まえることにした。
手を振って、タクシーを止め乗り込む。
「どこ行くんだ?」
「束河古鎮」
「15RMB」
「もうちょと安くならないの?」
「メーターでもいいよ」
「メーターじゃ、いくらになるかわからないじゃないの。15RMBでいいわ」
運転手とZのやりとりがすばやくなされ、出発。
「ねぇ、いくらになったの?」
妹が興味津々のようすで聞いてきた。
「15RMB」
「さっきの半分じゃん」
呆れた様子で言う。古城の土産物屋といい、タクシーといい、定価が存在しない世界が珍しいのだろう。
「貴方たちは、『茶馬古道』へは行かないのか」
「『茶馬古道』って、何?」
運転手の質問に助手席に座っていたZが喰い付いた。
「『茶馬古道』は、○×▲□◎・・・・・、ほら、『高倉健』・・・・・」
高倉健の名前まで出して、興味をかきたてる運転手。そう言えば、高倉健が主演した「単騎千里を走る」で馬を飛ばすシーンがあったような気がする。その時に走った道に「茶馬古馬」があったのだろうか。
「ねぇ、何て言ってるの?」
運転手とZのやりとりに関心をもった妹が尋ねてきた。
「なんか、『茶馬古道』って観光地があって、そこへ行ったほうがいいって、運転手が勧めてるみたいだ」
「それで、行くの?」
「行かない。だいたい、運転手が勧めるのは自分に都合がいいルートや観光地だから、ロクなのがないんだよ。絶対、騙されるんだから」
「ふーん」
しかし、しばらくして、すっかり運転手に洗脳されたZが振り返って言った。
「『茶馬古道』に行こうよ」
「行かないよ」
「どうして」
「『茶馬古道』なんて、地球の歩き方にも、中国のガイドブックにも載ってなかったし、インターネットで調べたときもなかったよ」
「でも、直接『束河古鎮』に行くと、一人50RMBの入場料がとられるけど、『茶馬古道』経由なら無料で入れるようにしてやるって言ってるわ」
「『茶馬古道』まではいくらなんだ」
「25RMBだって」
「『茶馬古道』から『束河古鎮』はいくらなんだ」
「『茶馬古道』から『束河古鎮』はいくら?」
Zがすばやく運転手に尋ねる。
「25RMB」
「25RMBだって。ほら、すごくお得よ。行こうよ」
「うーん、駄目」
「駄目・・・」
わかったわ、というようにZは珍しく素直に引き下がり、運転手に向かって言った。
「『束河古鎮』へ直接行って。『茶馬古道』へは行かないわ」
「わかった」
私たちのやりとりを聞いていて、無理だと悟ったのか運転手もそれ以上何も言わなかった。
さて、素直に引き下がられると、私が考えなければならない番だ。
まっすぐに『束河古鎮』へ行くと、タクシー代15RMB+入場料50RMB×3=165RMB。
『茶馬古道』経由で行くと、タクシー代(25RMB+25RMB)=50RMB。
確かに、『茶馬古道』経由のほうが安くなる。困った。これでは私が悪いみたいだ。でもなぁ・・・。しかし、結局折れることにした。
「わかった。いいよ、『茶馬古道』へ行こう」
「本当に!」
Zは飛び跳ねるように顔を上げて、運転手に指示した。
「『茶馬古道』へ行って!」
「結局、行くの?」。妹が聞いていた。
「うん、Z、すごい行きたそうだし、確かに入場料が無料になるんなら、安いしね。でも、運転手の言うとおりにして、良かったことが過去にあんまりないんだよねぇ。だいたい旅行前に調べた時、名前すら出てこなかったし」
茶馬古道(の入口?)に到着。周辺に観光客用の馬が群がっている。こちらに車での間にも、馬に乗った観光客を幾人か見かけたのは、ここから出発したのだろう。
「あっちにガイドがいるから、あそこで話を聞いて」
運転手の指差す方向に目をやると、観光地の地図らしき大きな横長の掲示版があり、その前でサングラスをかけたガイドらしき女性が数人の観光客になにやら説明をしている。
掲示板に近づいて地図をみると、茶馬古道の道筋らしき図が描かれている。図によると、現在位置から湖を越えた向こう側に茶馬古道があるらしい。地図のすぐ横に料金表が記されてあったので、目を通してみる。乗馬、ボート遊び、ボートに乗って湖の向こう側に行って・・・うんぬんと多数の項目があり、100RMBから300RMBを超えるまでの料金が記されていた。当然、一人当たりの料金である。
(やられた・・・)
これだけの料金をとられたのでは、束河古鎮の入場料50RMBが無料になっても、まるで意味がない。何で茶馬古道そのものの見学料のことに頭が及ばなかったのだろう。横をちらりとみると、Zも料金表をみて呆然としている。
「ちょっと高すぎるだろ」
「うん」
「ここからじゃ、中が見えないから、入場料を聞いて入るだけ、入ってみるか?もし良い風景だったら、向こう側にいってもいいし・・・」
「そうね」
私たちが掲示板の前で話し合っているのみて心配になったのか、運転手が近づいてきた。
「ガイドにとりあえず話しを聞きなよ。ガイドを呼んできてやるよ」
「いや、ガイドはいらない」
私たちが戻ってくるまで、ここに待っていてくれるのかと尋ねると、運転手はそうだと頷いた。
掲示板のすぐ脇の入口に男たちが数人群がっていたので、入場料を尋ねると35RMB/人とのこと。なんとか受け入れられる料金だ。ぼったくりかどうか、入ってみないと結論が出てこないから、とにかく入ってみることにした。
入口の向こう側には、舗装もされていない泥道がまっすぐに伸びていた。突き当たりの湖に出るまで歩いたが、はるか向こう側に山々がみえる以外何もない殺風景な光景が広がるばかりだった。この湖をボートで越えるだけで200RMB以上もとろうとは、ぼったくりにもほどがある。
「いやー、綺麗な湖だね」
Zをからかってみる。
「・・・」
反応なし。いつもだったら、すぐに「皮肉を言わないで」と文句を言ってくるのだが、今日は黙り込んでいる。気持ちよく運転手としゃべっていたから、騙されたのがショックなのかもしれない。それに今回は妹が一緒にいるから、責任を感じているのだろう。実際のところ、ここの入場料が35RMB×3人で105RMB。タクシー代が50RMB。合計で155RMBなので、直接「束河古鎮」に向かった場合より、やや安いぐらいだから、被害は失った時間だけだ。そんなに気にするほどのことでもない。
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入口のところへ戻ると、運転手は暢気にタバコを吸っていた(12:10)。
「なんだ、ずいぶんと早いな」と驚きの表情を見せる。
「『束河古鎮』に行くわよ」
Zが不機嫌な表情で短く答えると、運転手はタバコをかき消して、慌てて乗車した。
「『茶馬古道』に行かなかったのか」
「誰が行くもんですか。あんな高いところ」
「なんだよ、行かなかったのかよ」
運転手は心外そうな表情で言った。
「ボートにも乗らなかったのか」
「あんな湖で乗るわけないでしょ。美しくもないし」
「『茶馬古道』に行かないんじゃ、来た意味がないじゃないか」
逆攻勢に出る運転手。
「あなた、私たちがあそこで何時間過ごすと思っていたのよ」
「2時間ぐらい。3時間、4時間も過ごす客もいるよ」
「あんなつまらないところで、何時間も過ごせるわけないでしょ。客だって全然いないじゃない」
「◎▲×・・・・」
「〇×▲□・・・」
しばらく言い合いが続いたが、お互い得るところがないと悟ったのか、黙り込んだ。
12:30、「束河古鎮」に到着。
「本当に入場料取られないんだろうね」
「本当だ。もし、誰かが何か言ったら、ここに電話してくれ」
運転手はそう言って、名刺をくれた。
下車して、古鎮に入る。特に門のようなものもない。裏口ということか。
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この束河古鎮も、麗江古城と同様に土産物屋が軒を連ねている。建物に、麗江古城の家々よりも、落ち着いた色合いが使われているのと客が少ないことから散策を楽しむなら、こちらのほうが良さそうだ。
歩いて数分のところに御茶屋があり、店頭に一袋5RMBのお茶が並べられていた。
「入ろう」
Zの呼びかけで、ぞろぞろと店に入った。
「あそこに置いてあるお茶、味見できるの?」
「できるよ」
初老の店主が応諾した。
「じゃあ、味見させて」
「味見できるの?したい、したい」
妹も積極的だ。
茶葉とお湯を急須へ入れ、しばらく経ってから、店主は手馴れた様子で3人分の小さな湯のみへとお茶を注いだ。
喜喜として手を伸ばし味見をするZと妹。しかし、飲んだ後は、微妙な表情をみせた。
「味しない」
「うん、味しないね」
店主はごもっともという顔で頷いた。
「じゃあ、今度はお湯だけで飲んでごらん」
そう言って、沸かしたお湯を各々の湯のみへと注いでくれた。
「これ飲むの?」
意味不明といった様子で、3人とも湯のみに口をつける。
「あれっ?なんか甘い味がする」
「うん、甘いね」
店主はそうだろう、そうだろうと頷きながら笑顔を見せた。
「それに、何だかのどがすっとする」
「ほんと、すうぅーとするね」
「もう一回飲ませて」
「わかった、わかった」
もう一度、お茶を飲み、さらにお湯を飲んで感動する二人。私にしてみると、いちいちお湯を飲まなければ味が感じられないなんて面倒以外の何ものでもないが、意外性が二人の心を打ったようだ。店主によると、このお茶は、少数民族の地元の人が山で野生のお茶を摘んできたものらしい。お土産にちょうど良い値段ということで、3人ともたくさん買い込んだ。
奥へ奥へと進んでいくとやがて川べりにでた。ここには外国人向けのオープン・レストランが競い合うように店を広げている。
「そろそろ、食事にする?」
Zに声をかけた。
「当然でしょ!」
ややいらついた返事が返ってきた。時計をみると、すでに午後1:30。すでにZの限界を超えた時間だ。
「じゃあ、あそこにしよう」
そう言って、一番近くにあったレストランを指差した。
「いいわよ」
しぶしぶ頷くZ。
実は、私は前々からこのような外国人向けのオープン喫茶で是非食事がしてみたかった。7年前にきた麗江古城と大理(洋人街)にもこうした店があったし、桂林に行ったときも陽朔に似たようなところがあった。外国のバックパッカー(?)やら長期滞在者らしき人がいかにものんびりとした様子で、食事をしながらおしゃべりと楽しんいるのをみて羨ましいなと思っていたのだ。
テーブルに着くと、スタッフがメニューをもってやってきた。怪しげな日本語付きのメニューだ。
少し目を通しただけで、Zが「高すぎる!」と文句を言った。
確かに高い。物価の高い深センよりも高いぐらいだ。しかし、欧米の外国人向けに作った店だ。少々高いのは仕方がない。さっそく注文をする。私は、ローカボ・ダイエット中なので、肉類の代表であるステーキを注文。オーストラリア(だったけ?)産と中国産の2種類があったので、ちょっと高めのオーストラリア産を頼む。妹はエビが食べたいとのことだったので、蒸しエビ。それから、炒め物を一皿。だが、注文をとって戻ったスタッフがしばらくして戻ってきて、オーストラリア産のステーキは現在はなく、この代わりに中国産のヒレステーキになると言って来た。ある意味正直だ。私など黙ってだされれば、どちらか全くわからないというのに。快く応諾した。
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川辺の心地よい風を受けながら、のんびりと食事を待つのは楽しい。しかし、女性軍(Zと妹)はそうではなく、遅い料理にイライラし始めた。
「もうここで食べるの、やめよう」
「ビールだけ先に来て、後が来ないじゃん」
30分経っても料理が出てこないので、不満爆発。
「まぁ、まぁ、この辺りの店は皆同じ調子だろうし、もう少し待とうよ」
二人をなだめ、なだめ、料理が出てくるのを待った。やがて、ステーキ、炒め物、エビの蒸し料理が出てきた。しかし、エビ料理は数十RMBもするのに、小さい川エビがたった6匹ほどしか入っておらず、3人ともがっかり。ステーキと炒め物はまぁまぁ。もう少し注文しておけばと後悔したが、今から追加したのではいつになるやらわからないから、諦めた。
腹が少し膨れたところで、川沿いに十数分ほど歩いてさらに奥へと向かった。そこにはエメラルド・グリーンの小さな池があり、ここが束河古鎮の見所の一つであるらしい。確かに美しいものの、周囲にそれに応じた建物があるわけでもなく、ぽつんとため池のように存在しているだけなので、インパクトが少なかった。これ以上先へ進んでも何もなさそうだったので、別のルートを辿って、出口へ戻ることにした。
どういうわけだか、歩けど歩けど、出口が近づいてこない。麗江古城でも相当な距離を歩いたこともあって、私はバテバテである。ところが、Zと妹は全く疲れを見せない。Zは中国人ならではの幼い頃から山を越え谷を越えて鍛えた足腰の強さがあり、妹もまた毎日の時に数時間に渡る犬の散歩で鍛えられた脚があるからだ。とても日課でスクワットをやっている程度ではついていけない。
二人は私の疲れを知ってか知らずか、全く気にせず、数メートルごとに土産物屋に寄っては品物選びに熱中している。仕方がない。全身で疲労をアピール。肩を落とし、足元をふらふらさせながら歩く。妹がようやく気づいてくれて、私に歩調を合わせ始めるが、Zには通用しなかった。逆に一軒一軒で費やす時間がますます長くなる始末だ。Zめ。もしや楽しんでやがるな。
15:10、ようやく出口にたどり着くことができた。もう限界だ。だが、まだ時間が早い。これなら「白砂」にもいける。出口付近にとまっていた乗り合いバンに声をかけると、20RMB/3人で、「白砂」まで言ってくれることになった。
15:20、白砂の入口だというところで下ろされた。まっすぐ進んでいくと、白砂の看板がかかった門があり、そこを抜けてまっすぐ進む。
白砂の街は、麗江古城や束河古鎮と異なり、土産物屋が全く見当たらない。麗江古城や束河古鎮を歩いているときは、土産物屋は古い街並みの雰囲気を壊す元凶だぐらいに考えていたけれども、いざ一軒の土産物屋もないとなると、街がひどく殺風景になることを知った。
数十メートル歩いたところに、民族衣装を着た地元のお婆さんたちが固まっておしゃべりに興じていた。私たちが近づくとそのうちの一人が寄ってきて、「うちを見ていけ」という。小さなノートを取り出し、広げてみせた。ノートには大勢の外国人の名前がずらりと書かれている。
なんだかぼったくりの臭いがする。
「やめとくよ」
「いいから、みてけ、みてけ」
「やめとく」
「いいかか、みてけ」
らちがあかないので、無視をして先へ進んだ。
しかし、進めど、進めど白い壁が続くばかりで、人が住んでいる気配すらない。皆、麗江古城や束河古鎮にでも出稼ぎに行っているのだろうか。或いは、農作業に従事しているのかな?
この先いくら歩いても何もなさそうだし、何よりも足が限界に来ている。前進を止めてUターンすることにした。
戻っていくと、さきほどのお婆さんが寄ってきて、またもや「寄っていけ」という。
ぼったくりに合うのは嫌だが、この白砂でも何かイベントが欲しいところだ。
「いくらだ」
「見るだけなら、お金はいらない」
「なら、見るだけだぞ」
「見るだけなら、お金はいらない」
その後は何を聞いても、「見るだけならお金はいらない」の一点張り。
めちゃくちゃ怪しいが、ついていってみることにした。
脇にある細道を十数メートル進んでいったところの家の門をくぐると、ごく普通の中国の農家の庭があった。ただし、人が住んでいる様子は全くなく、家には鍵がかかっていた。お婆さんは、家の鍵をあけ、中にはいると皿を数枚持ち出してきて、脇にある木のテーブルの上に並べ始めた。
「俺たち、食べもはいらないよ」
「食べてけ、食べてけ」
「いらないよ」
「食べてけ、食べてけ」
全く耳に入らない様子だ。料金を確認して食べていくという手もあるが、食べたら食べたでお腹が大丈夫か心配だ。
「じゃあ、もう帰るから」
そう言って、その場を離れることことにした。後ろでなおも、「食べてけ、食べてけ」の声が聞こえたが、追いかけてくる様子はないので一安心。
15:45、白砂を出る。結局、白砂では特別なものは何も見られなかった。確かここには壁画か何かあったはずだが、見られずに終わった。
再び乗り合いタクシーに乗って、ホテルへと戻る(20RMB/3人)。
16:30、ホテル着。夕食まで小休憩。
18:35、ホテルのカウンターで明日も泊まれるかどうか尋ねてみた。スタッフの回答は、「もう部屋はいっぱいです」の一言。昨晩は可能性があるようなことを言っていたが、今日はにべもない。きっと高値を払う客がはいったのだろう。そういうことだったら、朝の時点でCtrip経由で予約を入れておくべきだった。初めにCtipで予約状況を確認したときは、少し外れにある、このようなホテルは予約が空いたままになっている様子だったので、甘く見ていた。それなら、夕食前に明日宿泊するホテルを探さなければならない。
まず、麗江古城の近辺で数軒のホテルに当たってみた。だが、料金が高すぎるか、部屋がいっぱいかのどちらかでどうしようもない。もう少し離れた場所で探そうと歩き始めたところで、屋台を発見。今まで見たことのない屋台だ。屋台発掘も、最近はどれもどこかで見たことのあるものばかりでマンネリ気味だったから、とても嬉しい。今回のは米粉を練って広げて、それを焼いた後、唐辛子のタレやもやしを巻いたもの。美味しい。久しぶりに良い屋台物が見つかった。満足。
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続いて、飲料水を売っている小さな店で高山病対策の酸素缶が売っているのを発見。妹が高山病になりやすい体質だというから、これは是非とも手に入れておかなければならないアイテム。明日、山のふもと辺りで手に入れようと考えていたが、街中で買えるものなら、こちらのほうが絶対に安いに決まっている。値段を聞くと1缶15RMB。想像していたよりずいぶんと安い。本当に効くのか?と疑問は湧いたが、とりあえず数缶買っておくことにした。
そこからさらに進み、今泊まっているホテルを越えて行ったところに小さなホテルを見つけた。「空部屋有り」と大きな看板が出ている。ロビーもこじんまりとしていて、たたみ十畳程度の広さだ。カウンターで若者二人が、熱心にコンピュータを覗き込んでいる。目の輝きようからすると、怪しげなサイトでも見ているに違いない。
私たちが近づくと、二人とも慌てて顔を上げた後、不審げな様子でこちらを見つめた。
「ここは一泊いくら?」
泊まるのは明日のことなので、ざっくばらんに尋ねた。
「・・・、泊まるのか」
「うん、今日じゃなくて明日だけどな。いくら」
「いくらで泊まりたいんだ」
逆に質問をしてきた。どうも、このホテル、あまり客が来ないらしい。
「こっちが聞きたいんだ。一番安くていくら?」
「260RMB」
「高い」
「いくらなら良いんだ」
「220RMB」
二人の若者は顔を見合わせた。
「ちょっと待っててくれ」
そう言って、一人がロビーから飛び出して行った。
「今、オーナーに聞いてくるから、待っててくれ。俺たちが決められないんだ」
残った一人が説明した。
数分経って、さきほどの若者を後ろに従えて、赤ら顔のおばさんが現れた。改めて三人を見比べてみると、どこかしら似ている。きっと家族経営のホテルなのだろう。
「いく部屋いるんだい」
満面に笑みをたたえて、だみ声で尋ねてきた。
「二部屋。俺たちが一部屋で、彼女が一部屋だ」
Zと妹を指して、説明した。
「うーん・・・」
おばさんは考え込む様子を見せた後、思い切った様子で言った。
「じゃあ、ツインの部屋を220RMBで一部屋とシングルの部屋を200RMBで一部屋でどうだい」
(あらら、あっさりOKされちゃった)
「もうちょっと安くならないの?」
「それ以上は無理だよ」
こちらの言い値をそのまま受け入れられてしまったのだ。いまさら、さらに値切ろうとしても、当然のことながら無理な話だ。
一応簡単に部屋の下見をする。今住んでいるホテルほど綺麗ではないが、妥協できる範囲だ。何より、さらに歩き回ってホテルを探す元気がない。保証金を200RMB払って、領収書をもらい、ホテルを出た。
さあ、ようやく夕食だ。ホテルを出て、古城とは反対方向にさらに進むとちょうどレストラン街があった。これだけお店があれば、選ぶのが楽だ。さっきのホテル、意外に良いかもしれない。そう思って、レストラン巡りを始めようとしたが、悩む間もなく、一番近くにあった「三文魚(サーモン)」の文字を看板に掲げた店に入ることになった。私としては、こんな内陸の土地でサーモン?という疑念が強くあったのだが、腹を空かしたZがこれ以上の探索を許してくれなかったのだ。もっとも、目の届く範囲内に「三文魚(サーモン)」の看板を出した店が他にも2,3軒あったから、「三文魚」がここの特産だということだろう。
店に入ると、どのテーブルもサーモンの刺身でいっぱいだった。
席に着いてメニューが来るのを待っていると、女性スタッフがやってきて、まずは魚を選んでくれという。ついていくと3,4人が入れる浴槽のような大きさの水槽があり、その中で大小の魚が泳いでいるのが見えた。
「500gで38RMBのと88RMBのがあるけど、どちらにしますか?」
「その二種類だけなの?」
「もっと高いのもありますが・・・」
なるほど、一番安いのが38RMBというわけか。
「一番小さいので、どのくらいの大きさになるの?」
「だいたい1500gぐらいです」
そうすると、38RMBのを選んでも100RMBを超えるというわけだ。88RMBのだと250RMBを超えてしまうから、相当な金額だ。サーモンの味の違いなんてわからないから、高いのを食べても意味がないだろう。
「じゃあ、38RMBので」
「わかりました」
スタッフはちょっとがっかりした様子だったが、素早く網を動かして魚を選び始めた。私にはどれも同じに見えるが、スタッフにははっきりと違いがわかるようで、網で魚を追ってやがて一匹をすくい上げた。
この魚が元気で2,3度ぴょんぴょん飛び跳ねた後、網の外へ飛び出してしまった。慌てて追いかけるスタッフ。魚は部屋の外に飛び出してしまい、さらに跳ね続けた。それでも、スタッフはこうしたことに慣れているのか、やがて魚を網の中に再び押し込めるのに成功した。
席に戻ってしばらくすると、再びスタッフがやってきた。
「魚はどのように料理しますか。刺身で食べますか、火鍋で食べますか、揚げますか?」
「うーん、どうする?刺身・・・はやめとくか?」
「うん、やめとこう」
妹もすぐに同意した。そう、食べたい気持ちもあるけど、サーモンというのは、腹痛以前に、寄生虫の問題もあるから避けておいたほうが良いだろう。
「じゃあ、火鍋用と揚げたので」
「わかりました。半分ずつですね」
「はい、それで」
スタッフが忙しげに去っていくと、入れ替わりに別のスタッフがやってきて、チューブ入りワサビとマギーのタレを2本テーブルの上にポンと置いた。どちらも封の空いていない新品だ。
「これ何?」
すかさず問いただした。
「調味料のセットです」
「無料なの?」
「20RMBです」
「20RMB!いらない、いらない」
強い調子で断ると、スタッフはワサビとマギーのビンを手にとって憮然とした様子でテーブルを離れた。
マギーのタレ2本とチューブ・ワサビ一本で20RMB。高いとは言えない。むしろ安いぐらいだ。だけど、一回の食事で使いきれるものではない。それに、今回は刺身を食べないことにしたから、マギーも、ワサビも不要だろう。でも、何で醤油じゃなくてマギーなんだ?
料理を待っている間、柱に貼ってあるサーモンに関する説明書きを読んでみた。それによると、麗江の近くに「拉市海」という湖があり、そこで
養殖されているサーモン
がここに供給されているとのことだった。サーモンの種類も書かれてあって、一番安いのが鱒(マス)・・・。何、鱒?サーモンじゃないの~。さらに読んでいくと、それ以外に4,5種類あり、それらはサーモンのようだった。あらら、中国語で「三文魚」といったら、全部サーモンだと思っていたけれど、鱒も「三文魚」なんだね。知っていたら、88RMBのにしたよ。あとの祭りだけど。(インターネットで調べたところ、「三文魚」にサーモンと鱒が含まれているというのではなくて、サーモンに鮭と鱒が含まれているということのようだった。ヨーロッパとアジアの間で言葉が行ったりきたりしているうちに、定義があいまいになっているそうだ)。
やがて、サーモンの揚げたのがやってきた。皆で一口味わってみる。
「うん、まぁ、サーモンの揚げ物というところだね」
中国に来てから、回転寿司屋でサーモンの刺身や寿司を食べたり、中華料理屋で炒めたのを食べたりしたことがあったが、揚げたサーモンというのは食べた記憶がない。珍しさも手伝って、最初は美味しく食べられた。しかし、火鍋がなかなか来ず、やがて飽きが来て、皆の箸も止まりがちになった。
「なかなか来ないね。火鍋・・・」
「うん、刺身も頼んでおけば良かったかな。揚げ物で半分は多すぎだね。でも、やっぱり刺身は怖いからね」
「うん、ちょっとね~」
「寄生虫がいるって話もあるしね」
「そうそう、一応冷凍とかさせれば死ぬらしいんだけど、死なない場合もあるらしいから危ないんだって」
「えっ、そうなの?俺、回転寿司とかではけっこう食べてるよ。ここでは食わないけど」
「薄く切れば大丈夫らしいよ。寄生虫がちょんぎれて死ぬんだって」
それは初耳だ。良いことを聞いた。そう言えば、この店の他のテーブルに置いてあるサーモンには薄く切って盛られたものと厚めに切られたものの2種類があるようだ。薄いのが刺身用、厚いのが火鍋用というわけか。同じようにサーモンを生で皿に盛るのに何で火鍋用と刺身用があるのかと疑問に思ったけれども、そういうわけなのか。
「へぇ、そうなんだ。でも、虫が横になってないで、包丁と同じ向きになって寝てたらどうなるの?」
「そうそう、私も、その話聞いたとき、そう思ったのよ。こんな風に斜めになって寝てたら駄目なんじゃないって」
両手を合わせて斜めにしてみせる妹。さすが兄妹、考えることは同じだ。だが、そのときの妹の表情は決して「わが意を得たり」というものではなかった。恐らく、(こんな妙な疑問をもったりするのは、この兄のせいだったのか!)とでも思っていたのだろう・・・。
「あれっ?、俺が深センの回転寿司屋で食べてるサーモンの刺身とかって、けっこう厚いぞ」
「ふーん、ああ、どこだかのヨーロッパのサーモンには寄生虫がいないんだって。多分、それじゃない」
「へぇ」
今日はいい話を聞いた。妹は食べ物のことに詳しいから勉強になる。
(注:後日、インターネットで調べたところ、-20度以下で24時間以上冷凍することによって、寄生虫(アニサキス幼虫)が死ぬらしい。また、寄生虫がいないとされているのはノルウェーの養殖サーモンだということだ。「薄く切る」ことによって寄生虫を殺すというのは、サーモンに限らず他の魚や肉についても、広く行われている模様だが、根拠ははっきりしない)。
「全然、来ないじゃない!ほかの店に行こうよ」
なかなか来ない火鍋に業を煮やしたZが半分腰を上げて言った。
「でも、今から他の店に行っても、どこも混んでいるから同じだよ。だいたい、もう揚げた分、食べちゃってるし」
「・・・」
懸命になだめると、仕方ないわねといった様子で、ようやく腰を下ろしてくれた。
「でも、本当に遅いね」
妹がZの気持ちを代弁するように付け加えた。
「そうだね」
「だって、あっちのテーブルの人たちのほうが後からきたのに、先に料理がきているよ」
「いや、それはないだろ」
「ほんとに、あっちのテーブル、私たちが来たとき空だったよ、ねぇ」
「そうよ」
Zも同意して、不満を示した。
「そうだっけ?まぁ、そういうこともあるよ。きっと常連なんじゃない?それから、俺たちより高いサーモンを注文したか・・・」
「ふーん」
女性二人とも、不満たらたらの様子である。私にも同様な不満をもってもらいたいのかもしれないが、私はこういうことには気長なたちで、あまり気にならない。
さらに時間が過ぎて、ようやく火鍋登場!深センでよく食べる鴛鴦火鍋(太極拳のマーク:太陰大極図)と違って、鍋の中に鍋を作ったような◎の形をしている。内側には真っ赤な唐辛子のスープが入っていて、外側には白いスープが入っている。サーモンの切り身、野菜も続々とやってきて、再び食事開始となった。
「どう、美味しい?」
ひとしきり食べた後、感想を聞いてみた。
「うん、美味しいよ。でも、さっきだいぶ揚げたのを食べちゃったから、お腹がいっぱいだね」
「そうだね、最初にくればもっと美味しく感じたんだろうけどね」
もっとも、本当のところを言えば、私としてはサーモンと火鍋はあまり合わないんじゃないかと感じた。新鮮なサーモンで火鍋を食べるという豪華さは確かに素晴らしいが、唐辛子スープよりは、味噌味とかで食べたほうが美味しそうだ。これは私が日本人だからそう感じるのかもしれないが・・・。
3人とも、サーモンの揚げ物で、お腹いっぱいになっていたため、待ちわびていた割には箸が進まず、最後は残してはもったいないとの気持ちで無理して残りの切り身を腹に詰めた。
食事を終えると、携帯電話の充電器探し。アパートから電源コードを持ってくるのを忘れてしまったのだ。すでに時間が遅くなっていたため、携帯電話屋は閉まってしまっている。困った。出発時から、会社でトラブルがおき続けているから、電話がとれないと不安だ。さて、どうしたものか・・・と悩んでいたところ、ふと、9.9元均一店のお店が目に留まった。
「おっ、あるかも!」
「ないわよ」
Zに軽く否定された。
「いや、いや、あるかもよ」
「こういう店は、そういうのは売ってないの」
Zは均一店というとアクセサリーしか頭に浮かばないらしい。
「とにかく入ってみよう」
わずかな望みをかけて店に入った。
「ほら、ないじゃない」
10秒もしないうちに、Zが声を上げた。
「うーん、確かにないね」
棚にざっと目を通したが、見つからない。やはり、9.9元では、値段的に厳しすぎるか?確か、以前に買った充電器は18元ぐらいした。9.9元で売るのは無理なのかもしれない。
「あのー、携帯電話の充電器はありませんかね」
半分諦めムードながら、一応店員に聞いてみる。
「ありますよ。そっち、そっちに」
明るい声で教えてくれた。
「どこ、どこ?」
指差された方向に目をやるが、見当たらない。
「そっちですよ、そっち」
「これっ?」
「それです」
ペンギンの格好をしたプラスチックの人形を取り上げた。ひっくり返して、説明を読んでみると、確かに携帯電話の電池用の充電池だ。しかも、電池を設置する方向を問わず、自動的に電極を調整してくれるという優れもののようだ。以前に買った充電器より機能が進化している上に安い。
お金を払って、商品をゲット。
「Z、あったよ。あるっていっただろ!」
急に強気の発言をする私。
「あー、そう」
「物事は決め付けてはいけないんだよ」
「あー、そう」
Zは聞き流すことに決めたらしく、単調な返事を寄越すのみだった。
とにかく、これで助かった。
21:40、ホテル着。買ってきた充電器に電池を差し込んで、就寝。明日は朝からホテルの移動だ。それから、玉龍雪山か、虎跳峡のどちらかへ行くことになる。どっちがいいかな? |