5S物語 第二部

5S物語 第二部

これは、「中国生活日記」の5S活動関連部分を抜粋してまとめたものです。

その1(作成日 2006年8月16日)

最初に5S活動に手をつけたのが、2003年の年末だった。その時に「中国発5S活動記録<第一部>」を書いた。それから、1年半後に「中国発5S活動記録<第 ニ部>を書いた。そして、さらに一年が過ぎ、現在2006年8月である。
 第一部の頃は、本当に手探りの状態だった。はっきり言って、手をつける場所がわからず、触れるものから触っていったと言っていい。第二部では、ようやく5S活動の面白さがわかり始めたものの、どうやって部下たちに活動をさせるかの糸口がつかめていない状態だった。そして、現在・・・。
 
 簡単に現在の電脳部の状況を説明すると次の通りになる。
 まず、電脳部のデスク周辺について。工具等の管理は、第二部で書いたままの状況である。何も言わなくても、皆、棚の指定された場所に常に工具を置くようになった。ずっと、ほぼ良好な状態を維持している。デスクとデスクの上に置かれているガラスの間に、写真やら、役に立たないメモやらが入り込んでいるということもなくなった。デスクの中に関していえば、問題があるのは、私とリーダー格のC君ぐらいのものだから、全般的に合格ラインである。
 
 第二部で述べた電脳部倉庫に関しては、ゆっくりとではあるが、孤独に整理を進めていって70%ぐらいまで整理できた段階で、残りの一部を昇格したばかりのC君にやってもらい、現在80%ぐらいまで整理が進んだ。ここまでくれば、後一歩といった感じである。
 以前は、故障して使用できなくなった廃棄部品をオフィスにおきっぱなしにするスタッフが多かった。それを、電脳部倉庫まで持ってこさせるのが一苦労だったが、今は、スタッフ全員が当然のこととして倉庫まで持っていくようになった。実にありがたい。
 実は、電脳部倉庫まで移動した後、さらに廃棄処理の手続きをしなければならず、これが書類作業や他部門との調整作業も含んでいるため、複雑過ぎて、長い間、私が自分で処理しなければならなかった。しかし、処理フローの定型化を進めたのと、スタッフの5S意識の向上に伴って、この作業もスタッフ自身がこなせるようになってきた。これによって、電脳部倉庫を乱雑にさせる大きな要素が一つ減り、電脳部倉庫の5Sの維持が容易くなった。大きな進歩である。

 5S活動の日々の点検として、第二部を書き終わった辺りからサーバ室の5Sチェック(実際には2S)というのを行っていた。サーバ室の2Sを一週間交代で、スタッフが毎日チェックするのである。チェックと言っても、エアコンの状態や床のゴミを取り除く程度で、ごくごく表面的な活動しかして来なかった。
 最近、この5Sチェックをサーバ室だけでなく、電脳部倉庫に関しても行うようになった。サーバ室と異なり、物の出入りが多い倉庫は汚れが激しく、整理は進んでいても、なんとなく薄汚れた感じが抜けなかったからである。
  電脳部倉庫に関しても、5Sチェックを始めるように指示を下した時は、ちょうど工場全体で残業規制を本格的に始めたところであり、残業削減による収入減少に対する反発がスタッフの心の中にあったため、若干、雰囲気が暗くなった。だが、現在までのところ、うまくいっている。このまま順調に進んでくれるようにと祈るような気持ちだ。

 電脳部スタッフの活動場所に関しては、上記が電脳部の現在の5S状況である。これ以外に、電脳部が管理している各種設備・資産のデータの整備も進めている。私の考えでは、これも5S活動の一環であるので、次に述べたい。

その2(作成日 2006年8月17日)

私が、この工場で勤務を始めて4年が過ぎた。4年前、電脳部を任されたばかりで工場の右も左もわからなかった頃、工場内のパソコンは多くても150台程度であったはずだ。それがこの4年間で、600台を超えるまでになった。
 
 当初は、ハードやソフトの管理どころではなくて、与えられた3人のスタッフがパソコンのトラブルを解決しに、工場のそこかしこに散っていくのを傍観する毎日だった。やがてパソコンの台数が増加し、スタッフも2倍の人数になり、トラブルの解決に効率性が求められるようになってきたが、ハードやソフトの管理にまでは頭も手も回らず、スタッフが遊んでしまわないようにするだけで精一杯だった。
 
 そのうちに、工場の上層部もパソコンの急速な増加に目を向けるようになり、しばしば工場内にあるパソコンの台数を尋ねられるようになった。ところが、これがなかなか答えられない。パソコンの購買は当然のことながら記録に残っているわけだが、その情報は購買部門にあって、電脳部にはなかった。電脳部のスタッフは要望のあった部門に赴き、ソフトをインストールすることしかしていなかったからだ。また、当時は独自運営をしている部門もあり、こちらの場合にはインストール作業にすらタッチすることもなかった。
 
 保有パソコンの台数を把握するのをさらに困難にする要因が他にいくつもあった。
 まず、パソコンの廃棄だ。パソコン廃棄の書類は最終的に会計部に行くことになっていた。しかし、パソコンを更新のために購入しても、廃棄手続きをせずに部門の隅にほったらかしにしてあったり、廃棄手続きを済ませたにも関わらず継続して使用していたり、他部門に譲って使用させていたりということが常態化していた。
 さらに、当時(現在はさらに拡大している)工場全体で、およそ10棟の建物があり、フロアも3階から5階に分かれ、オフィスがあちこちに分散していた。どういうわけか年に何度も引越し作業があり、パソコンがあっちに行ったりこっちに来たりしていた。その上、工場がどんどん拡張していくので、混乱に拍車がかかった。
 
 そのようなわけで、上層部からパソコンの台数を尋ねられると、毎度のように各部門に通知を出し、データを集める騒ぎになった。一応、これで格好だけはついたが、年間100台以上のペースでパソコンが増えていき、その中に純増分と更新分が含まれているのだから、集めたデータは瞬く間に役に立たなくなった。それに、総量がわかっても、どのパソコンがどの位置にあり、誰が使用しているのかがわからなければ、まともなデータとは言えない。
 「何とかしなければならない」。そういう思いは常にあったが、どうにも打つ手がなかった。まるで、すくってもすくっても水が指の間からこぼれていく感じだった。

その3(作成日 2006年8月19日)

工場自体が拡張に次ぐ拡張を重ねていたために、パソコンは増え、コンピュータ・ネットワークが覆う面積はどんどん広がっていった。別棟の距離が何キロにも渡り、公衆回線を利用しなければならないこともあり、必要とされる技術も複雑化する一方で、半分素人の私には、いささか荷が重かった。日本のコンピュータ部門からの支援もあり、電話サポートや出張サポートもふんだんに受けられるのだが、あくまで点のサポートであり、工場内ネットワークの日常の運用に関しては中国側で独自の体制をとらねばならず、技術的なバックグラウンドの薄い私に不安の消える日はなかった。

 このような状況だったので、長期的な管理体制を整えるよりも、日常の運用が優先されがちだった。だが、そうした中でも、全く手を打たなかったわけではなく、いくつかの試みは実施した。
 最初の試みは、パソコンに番号付のラベルを貼ることだった。指示が下され、全てのデスクトップパソコンのモニタに管理番号の付いたラベルが貼られた。管理番号と一対で、部門名、使用者、IPアドレス等がExcelデータとして保管された。なんとなく、全てのパソコンが見事に管理された感じになり、達成感があった。
 しかし、パソコンは毎月のように増減・移動する。一時的に情報は集まっても、継続的な更新がなされないという本質は何も変わっていなかった。結局、電脳部スタッフが修理依頼のあったパソコンを現場で特定するのに便利になった程度で、パソコンという資産の実態をリアルタイムで把握することは全くできなかった。その上、中国製の安いラベルを使っていたために、ラベルは急速に薄汚れたりはがれたりしていった。さらに、パソコン本体が移動されても、ラベルを貼ってあるモニタはそのままの位置にあるというケースもあり、この試みは一年も経たない内に、失敗に終わった。
 
  次に試みたのが、PCクライアント管理ソフトによる情報収集だった。このソフトを使用した直接の目的は、資産管理ではなく、ホームページ閲覧の制限にあった。当時、パソコン使用者のホームページ閲覧に何の制限もなく(むしろ、職員は会社の福利厚生の一環ととらえているのではないかという疑念すらあった)、定時、残業の時間を問わず、ネットサーフィンに励む職員が多かった。これは、業務効率を下げるだけでなく、PCウィルスを社内ネットワークに持ち込む大きな原因の一つだったので、業務に関係のないホームページ閲覧に制限をかけるためにPC中国製の格安なクライアント管理ソフトを導入したのだ。
 
 これは、予想外に効果的で、ホームページの閲覧制限だけでなく、IPアドレスの変更禁止、LANカードとIPアドレスの固定等、様々な機能があった。このソフトを梃子に一気に社内パソコンの管理を進めていくのも夢ではないと思われたほどだった。
 ところが、半年ほどで、このソフトが突然使用不能になった。ソフト会社の技術員に何度も来社してもらったが、結局使用できるようにならなかった。理由は、工場のネットワークが複雑すぎるなどと言われたが、正確なところはわからなかった。
 
 このソフトには大きな期待をかけていただけに、落胆が激しかった。その後、何度か類似の製品を検討したが、どれも価格が高く、当時の電脳部が申請できるようなものではなかった。また、こういったソフトは一般にネットワーク全体や個々のパソコンに大きな負担をかけるため、ネットワーク機器や個々のパソコンの買い替えや部品強化が必須になり相当な投資をしなければならないことを知った。これも再度のソフト導入を思いとどまらせる原因となった。

 そうして、しばらくの間、設備・資産データの管理は置き去りになり、日常のトラブル解決やネットワークの拡張作業が優先された。しかし、パソコンが増えれば増えるほど、ネットワークが拡大すればするほど、設備・資産データの管理が行き届いていないということが作業効率や確実性を低下させる枷となり、電脳部の運営上の問題として大きくのしかかった。

その4(作成日 2006年8月21日)

決して軽いとは言えず、滅多に移動する必要のないデスクトップ・コンピュータがきちんと管理できない。考えると頭が痛くなるので、考えないようにしたいほどの気持ちだった。

 数百台あったところで、一日十数台ずつ確認していけば、2ヶ月で終わる。スタッフたちにやらせるのが無理ならば、私自身が毎日数時間を費やして回ってやろうか。いや、そこまで大事なことならば、スタッフに指示して、持ち回りでやらせてもいいんじゃないか。そんな風に考えることもあった。
 しかし、この方法は現実的ではない。デスクトップ・コンピュータは動かないが、使用者は席にいるとは限らないし、使用者がいなければ、たとえパスワードをしっていても勝手にいじるわけにもいかないから、IPアドレス等の設定データが確認できない。スタッフたちが、あっちに行ったり、こっちに行ったり彷徨っている姿が目に浮かぶようだ。一日二日ならともかく、ずっと続ける作業とするのは不可能だ。早晩、スタッフの反対に合うか、データがいい加減になるかして頓挫するのが落ちだろう。

 「使用者や使用場所に変更があったら、各部門が自分で連絡をしてくるようにすればいい」。スタッフたちに相談すると、毎度のようにそう言われた。「それは難しい。彼らにはそうする動機がない」と私が言うと、「強制的にそうさせればいいじゃないですか」と答えてくる。
 「(強制的にって・・・)いや、会計部の資産管理ではそこまで要求していないし、要求範囲であってもチェックがかかるのは一年に一度だけだから、現実的ではないよ」と否定すると、次は「電脳部から通知を出せばいいですよ」といとも簡単に言ってくれる。普段、私が様々な通知を出しているから、それでことが済むと考えているらしい。しかし、上層部からの指示に基づいて一時的に情報を集めるのと、電脳部が独自で指示をするのとはわけが違う。
 それを説明すると、「だったら、規則を作ってしまえばいいじゃないですか」と後が続く。息切れがしてきた。「規則を定めたからと言って、違反者に罰金を与えたりもできないだろ、だいたい上司の指示で変更が入るわけだし・・・。パソコンをネットワークに接続不可にすることはできるけど、業務に支障を与えるから結局ひっくり返されて立場がなくなるだけだ。将来的にはともかく、現在の(電脳部の)管理水準でそこまでの圧力をかけることに対して他部門からの理解が得られないだろう」。
 懸命に説明を試みるが、スタッフたちは(何だ、情けないな○○課長は・・・)という表情で私を見返すだけだった。まぁ、情けないことは情けない。グッドアイデアが出せないわけだから。
 それでも、「何か他にいい方法はないかな?」と最後の希望を託すが、「ありません」で終わり。この会話は数ヶ月に一度は繰り返され、いつも落胆と自己嫌悪を私に残した。

その5(作成日 2006年8月23日)

打開策が全くないように思われた、設備・資産データの管理。長い間、暗闇を手探りで進むような状況だったが、最近ようやく光明が見えてきた。

 それにはいくつかの要因がある。
 第一に、電脳部は私の入社とともに設立された部門だったので、私の職位である課長職とスタッフの職位の間にいくつか空席があり、やる気のあるスタッフを引き上げやすかったことである。職位を引き上げる度に、目標を設定してやり、その中で5S全般及び、設備・資産データの管理の重要性を説きつづけたので、徐々にそれらが浸透していった。私は、強いリーダーではないので、これは大変ありがたかった。最初から、組織が出来上がっていたら、同じスピードでの意識改革は難しかったに違いない。
 
 第二に、ここ数年で、新聞やニュースで、セキュリティや情報・資産管理について騒がれることが多くなった。中国の工場ということもあって、これまでIT関連の投資に関しては後ろ向きの意見が多かったが、日本国内でこうした問題が重視されるようになったために、中国工場でも予算が組みやすくなった。
 
 第三に、これまでずっと続けてきた、作業場所に関する5S活動が、徐々に電脳部の風土を変え始めた。特に倉庫に保管してある電脳部品のドライバや各種ソフトの整理・整頓の結果を、スタッフが肌身で味わうことになったのが大きかった。
 以前は、「○○のソフトが必要なんですが・・・」と私を探しに来て、私が倉庫でごそごそとやった後、ようやくソフトが見つかるという具合であった。それが、「ソフトの入っている棚のところに、△△というラベルが貼ってある。そこにあるから・・・」で済むようになり、そのうちに、私に聞きに来ずに、リーダ格のC君の許可をとるだけで、各々が自分の必要なものを見つけられるようになった。ハードの説明書にしろ、ソフトにしろ、納品されてから一両日中にはラベル付のビニル封筒に入れて、倉庫にしまわれているということがわかったので、最早私のところまで確認に来る必要すらなくなってきたのだ。
 
  そうして、最短時間で効率よく仕事をする習慣がついた彼らは5S活動の重要性を体で感じ取ってくれたのだと思う。
 第一部、第二部でやってきた工具の整理・整頓に加えて、マニュアル・ソフトの整理・整頓のもたらす作業効率の向上は、電脳部の風土を変えた。設備・資産データの管理に本格的に手をつける素地がスタッフの心の中に徐々に育ち始めていたのである。

その6(作成日 2006年8月23日)

上記三つの要因の上に、資産・設備データの管理をするためのツールも手に入った。

 実は、昨年一年をかけて社内のメールシステムを多言語対応のグループウェアに統一を進めた。それ以前から、日本のコンピュータ部門の指導・サポートの下、グループウェアの使用は行われていたのだが、日本語、中国語簡体字、中国語繁体字という多言語環境が障害となって、日本語グループウェア、中国語簡体字グループウェア、OutLookの三つにメールシステムが分かれていたのだ。

 これを多言語対応版が出たのを機に、一つのグループウェアに使用を統一した。また、これまで、中国側では、会議室予約や掲示板等にしかグループウェアの機能を使ってこなかったが、日本のコンピュータ部門の手ほどきを受けて、簡単な機能のものであれば、中国側でも独自に作れるようになった。

 さらに、パソコン・メンテナンスや内線電話のメンテナンスやパソコンのサプライ品やトナーやインクカートリッジ等の申請を半年ほどかけて、ペーパレス化を進め、グループウェアによる電子申請へと移行した。これらによって、工場全体がグループウェアを使用することにゆっくりではあるが、慣れていくようになった。

 そこで、日本のコンピュータ部門から、パソコン資源管理のデータベースを譲り受け、中国工場に対応できるように改造した。さらに、各部門からの変更通知も、グループウェア経由で受けられるような機能も付け加えた。現在は、これらのデータベースを利用して、設備・資源データの収集を始めているところである。

その7(作成日 2006年8月27日)

オフィス、サーバ室、倉庫という作業場所と設備・資産データに関する5Sの現在までの活動に関して述べてきた。

 簡単にまとめると、現状は以下の通りとなる。
 作業場所に関する5Sは、オフィスと倉庫に関しては整理・整頓が安定的にできるようになってきた。さらに、サーバ室と倉庫に関してはチェックリストによる5Sの点検が実施されるようになっている。
 設備・資産データの5Sに関しては、ようやく諸問題の解決がなされ、情報の整備と更新の見込みがついてきた。現在、最新データの収集を始めているところであり、本当に随時更新ができるかは結果を待っているところである。

 次の課題は、オフィスに関しても、チェックリストを作成し、定期的に5Sの点検を実地するようにすること。さらに言えば、工場全体に広がるネットワーク設備の点検も行えるようにしたい。
 設備・資産データに関しても、パソコン以外のネットワーク設備、WindowsやOffice以外の多種多様なソフトもきちんと管理できるようにしていきたい。パソコンやその部品の保証期間に関しても、管理を検討するつもりだ。

 思いは広がるが、本当にこれでいいのだろうか。
 確かに、3年弱で、5S活動は充実してきた。このまま継続していっても、それなりの効果は出るだろう。
 しかし、結局のところ、5Sのうち、整理・整頓・清掃・清潔の4Sは、時間をかけて初めてできるものである。5Sの最後にある「躾」は、様々な解釈があるようだが、一般的には、「決められたことを決められた通り、正しく実行できるように習慣づけること」と定義されている。
 これは、狭義の意味では、整理・整頓・清掃・清潔の4Sを維持していくことであり、広義の意味では、その他の決め事も含むのだろうと思う。広義の意味に関しては、ここでは検討しないが、狭義の意味で言えば、やはり、4Sと同様、躾も「時間と努力の結晶」と言えるだろう。
 
 これら5Sを進めていくうちに合理化がはかられ、より多くの5Sもしくは4Sが可能になることは間違いない。それでは、このような方法で5Sを極限まで推し進めていけば、それでいいのだろうか。
 「5S活動なんて、片手間でやっていればいい」と考えず、主要な目標にしている部門であっても、全ての人的資源を5S活動に費やして良いとは考えないはずだ。「通常の業務を滞らせることなく・・・」などと制限を設けるか、積極的に考えれば、「業務を一層効率的に実施するための5S活動」ということになるだろう。

その8(作成日 2006年8月28日)

ここまで述べてきて、5S活動に存在するいくつかのステップに気づいた。

 第一のステップは、整理・整頓・清掃・清潔・躾の5S活動の拡充。5S活動に取り組んだことのない職場であれば、ぐるりと見渡しただけでも、やることが溢れていることだろう。
 まずは職場の整理・整頓からだ。皆が共通に使う工具や資料に関して、必要でないものを思い切って処分していく。そうして残ったものから、絶対必要なものと、それほど必要でないものを分ける。それほど必要でないものに関しては、再度検討し、何ヶ月以内に使用する可能性のあるものか、ほとんど偶発的にしか使用しないものかを分け、後者を処分する。
 「もったいない・・・」と言うスタッフもいるだろうが、具体的に使用する場所があるのか、或いは他部門で必要とする人がいるのかに関して問いかけ、明確な答えが得られなければ、やはり処分を決断する。どうしても納得がいかないようであれば、期限付きで、どこかに保留しておいてもよい。大概の場合、期限切れを待つだけなので、次回から同様な意見が出ることはぐっと減るはずだ。
 こうした物理的な整理・整頓の他に、データ面の整理・整頓も重要だろう。これまで、設備・資産データの整理・整頓に関して特に取り出して述べたが、そうした自部門にとって解決が困難なデータを対象としなくても、他にも整理・整頓が簡単にできるデータがたくさんあるはずだ。手始めに電話番号・E-Mailアドレスなど些細なものでも良いと思う。無駄をなくして、皆が随時最新のデータを利用できるような形にできるとスタッフ全員が5S活動の実りを実感できるのではないかと思う。

 清掃・清潔に関しては、私自身と電脳部に関しても未解決の課題なので、良いアイデアがない。オフィスには常時といっていいほど、清掃専門のスタッフがいて、絶えずモップをかけたり、ゴミを集めたりしている。大きなゴミが出たり、特に掃除をして欲しい場所があれば、清掃のスタッフを呼んできて片付けてもらうのが当たり前になっている。そうした環境の中で、清掃・清潔の何を電脳部スタッフ自身にやらせるべきなのか、どんな風に説明して納得してもらうのかに思い至っていないのだ。
 以前に働いていた工場には、液晶画面の生産ラインがあり、高度なクリーンルームがあった。そこで教えられたのは、クリーンルームの中だけ綺麗にしようとしても、望むようなレベルのクリーン度は得られないということだった。メインのクリーンルームの外側にも一定のクリーン度があり、さらには工場全体がクリーンな状態であって初めて、メインのクリーンルームに必要なクリーン度が得られるのだということだった。これは理解しやすい説明で、「なるほどー」と思ったものだ。
 しかし、現在の工場では生産している製品が異なり、明らかにオフィスの方が生産ラインよりも綺麗だから、同じ説明が通用しない。そもそも、どこまでやれば、業務の効率を高めることになるのかを明示もできないし、体感させることも難しそうだ。できると言えば、お客様がきた時に備えて、身だしなみを整えておくように指導するぐらいだろうが、この点に関しては、電脳部では私が一番駄目だったりする。

 ともあれ、5S活動をゼロから始めて、絶えず拡充させていく態勢を作ること。これが第一ステップだろう。

その9(作成日 2006年8月29日)

5S活動がある程度軌道に乗り始めると、始めたばかりの頃のような劇的な変化はなくなる。5S活動として始めたことは、継続するのが原則であるから、ルーチン的な作業となりマンネリ化は避けられない。新しいテーマを求めれば、変化は起こるが、活動範囲の拡大となり、スタッフの負荷は増大する。

 ここからが第二ステップである。5S活動初期にあった、余った時間を利用して、効果が得られる部分は使い切ってしまった。キャンペーンとしてやるわけでなく、継続的に行わなければならないわけだから、その時間はもう使えない。例えば、最初にオフィスの整理・整頓を行って、その後、毎朝朝礼後に10分かけて点検活動を行うようにしたとすると、その10分は別の目的に使用することはできなくなっている。さらに5S活動を行うとなると、その10分とは別に時間を取らなければならなくなるわけだ。

  現実には、もっと複雑な状況となるだろうが、要は初期の5S活動は余った時間の有効活用を図るという内容なのでプラスしか生じないが、活動が進んでくると、主要業務に割く時間と衝突が起こるようになるということだ。そうなると、5S活動が生むプラスの面と業務に割く時間との調整をしなければならないというマイナスの面の差し引きを考えなければならなくなる。つまり、主要業務とのバランスを考えながら5S活動を進めることが必須になる。
 そのことを考えずに5S活動を拡大していくと、スタッフの負荷が増大するばかりで、せっかくの5S活動が全体としてマイナスに働いてしまうことになりかねない。そうなると、スタッフの士気がダウンしてしまって、5Sの恩恵である「職場の活性化」どころではなくなる。

 実際、電脳部でも、5Sの活動範囲を広げる都度に、危機が起こった。現在は全体としての士気が高いので、口に出しては不満の声はあがらないが、(また仕事が増えるのか)といった表情は必ず現れる。これまでのところ、それに見合うような業務効率の向上を示すことや業務改善の面白さを体感させることによって危機を乗り越えてきたが、いつまでもうまくいくものではない。私が主導して5S活動を進めていく限りは必ず、スタッフの心の中で、主要業務と5S活動(と自分の休息時間?)のバランスがとれなくなる日がくることだろう。(比較的士気の低いスタッフに関しては、すでにそうなっている可能性もある)。

 まとめると、5S活動と他の業務とのバランス、5S活動の効果、5S活動のコストが問題になってくる時期があり、これが5S活動の第二ステップだと言えるだろう。

その10(作成日 2006年8月30日)

さて、第一ステップと第二ステップについて述べてきた。現実の電脳部では、仕事の状況に波があるので、同じ5S活動をしていても忙しい時には、第二ステップの状況が現れ、余裕がある時には第一ステップの状況であったりする。現在、会社で残業規制がますます厳しくなっていることもあって、減収を悟って、スタッフの士気が落ちたりすると、5S活動の拡充をするどころではなく、現状維持が精一杯になることもある。そんな時は第0ステップとでも呼ぶべきだろうか。

 そのように職場の状況によっても左右される5S活動であるが、私の意識の中では第二ステップの突破が課題になっている。「主要業務と5S活動のバランスをどうとるか」、「業務を一層効率的に実施するための5S活動とは何か」、「5S活動によって何を可能にするのか」等々に頭を巡らせるがなかなか良いアイデアがない。
 
  だが、第三ステップが実現されたときのイメージ図はある。
 電脳部内での打ち合わせが始まり、皆が席に着く。私が議題を述べると、スタッフが意見を出し始める。議題は、新しい工場棟のネットワーク構築についてである。一人のスタッフが発言をし、必要な物や時期について明らかにする。次のスタッフが、サーバの設置場所や配線経路の草案を出す。続いて、別のスタッフが電源の位置について意見を述べる。電脳部だけでは作業の全てを行うことはできないから、他部門への作業依頼や実際にそこへ移動する部門との調整を引き受ける窓口が必要になるので、誰が担当となるかも決める。
 
 新ネットワークの諸データをデータベースに追加する必要性を誰かが提示すると、別のスタッフが新ネットワークの中心設備の定期点検も必要になるねと持ち出す。トラブル時に対応しやすいように、ネットワークケーブルの両端にタグをつけておくようにと付け加えることも忘れない。「一度にたくさんの設備が入ってくるから、マニュアルや説明書、ソフトのCD等がなくならないよう気をつけねばならない」と言うスタッフがいると、それでは、一箇所に集めて、早い時期に分類・整理をしておこうと誰かが話を引き継ぐ。そう言えば、電話の配線も必要になるから、一緒に工事ができるようにあらかじめ担当者と話をしておいたほうがいいよと述べるスタッフもいる。

 部門が引っ越すということは、元の職場に残された機器に関しても、忘れてはならない。廃棄するのか、倉庫に戻すのかについて議論がなされ、設備が放りっぱんしにならないように注意を喚起する。その職場がネットワークの中間地点にあった場合には、抜けた部分をどうやって埋めるかに関しても話し合いがなされることだろう。

 やることは山のようにある。打ち合わせの席では、「5S」の単語が言葉にされることはないが、どのスタッフも既存の5S活動で整理・整頓が継続されるようにとの配慮を忘れない。打ち合わせが終わった頃には、ネットワークが広がることによって、個々のスタッフに対する負荷が増大することを十分に意識している。
 増えた負荷をどうやったら吸収できるか、現在の業務や5S活動の中に無駄な点はないか、合理化することによって作業時間の圧縮ができないかについて、次の打ち合わせまでに皆が知恵を絞る。

 上記が私の5S活動における第三ステップのイメージ図だ。5S活動がどのスタッフの意識の中にも浸透し、いかなる新規業務が発生した場合にも、5S活動の継続を念頭において対処できるようになっている。同時に既存の5S活動にも見直しをかけられるようでありたい。それでこそ、5S活動という水が、業務という山々に浸透し、豊かな緑の実りをもたらすことができるのではないかと思う。

 イメージ図はあるが、到達するまでの手法が全く思い浮かばない。そもそも、何かをやる時に電脳部スタッフの全てを集めて打ち合わせをやることが、これまでなかった。新規業務が拡大・複雑化したネットワークに与える各種の影響を判断できるほどのスタッフは、数年ぐらい経たないと育たず、打ち合わせを一緒にする意義があるのはほんの一部のスタッフに限られていたからだ。
 まず、皆が一緒に問題を討論できるように、スタッフたちの業務知識の底上げを行う必要があるのかもしれない。その中で、5S活動が業務遂行に果たす意義についても理解してもらっていくのが良いのではないだろうか。しかし、教育用のマニュアルを作るだけでも相当な時間がかかるなぁ。

その11(作成日 2006年9月3日)

以上が私の考える5S活動の第一、第二、第三ステップである。

 最後に5S活動全体に関して、考えてみたい。
 一般的な定義は下記の通りである。

整理・・・必要な物と不要な物を分け、不要な物を捨てること。

整頓・・・必要な物の置き場所・置き方・並べ方を定め、使いやすく・わかりやすく、整えて置くこと。

清掃・・・掃除をして、ゴミ・汚れのない状態にすること。

清潔・・・整理・整頓・清掃を徹底して実行すること。

躾・・・決められたことを決められた通り、正しく実行できるようにすること。

現在のところ、電脳部の5S活動は整理・整頓の2S活動の拡充に留まっている。整理・整頓もやり始めると、奥が深い。対象を工具やマニュアルだけにしておかず、設備・資産データにまで広げたことによって、活動の幅がぐっと広がった。相乗効果でスタッフの5Sへの理解が進むのではないかと考えている。
 現在は、設備・資産等のデータ止まりだったが、これを業務内容やスタッフの行為にまで拡張していくとどうなるのだろうか。5W1HやPLAN・DO・SEEを5S活動の観点からとらえてみるのも意外に面白いかもしれない。

 清掃に関しては、先に述べた通り、今のところ良い考えがない。「清掃=ゴミ・汚れのない状態」というのを、物にとらわれず、データや行動、考え方などに広げていけば突破口が開けるかもしれない。長電話などで、5W1H以外の部分を「ゴミ」ととらえるという手もある。もっとも、無駄話でお互いがリラックスできるという効果もあるから、5W1H以外をゴミというものいささか無理があるだろうか。

 清潔の定義は、「整理・整頓・清掃を徹底して実行すること」となっている。「整理・整頓・清掃の3Sを強化する」という意味にとれるが、実際に手をつけようとしてみると、3Sのようにチェックリスト化することが非常に困難だ。これは、3Sが具体的な行為を指すのに対して、「清潔」の部分はスタッフの意識改革の面を含んでいるからではないかと思われる。

 「躾=決められたことを決められた通り、正しく実行できるようにすること」に関しては、現在、これといった方法がない。繰り返し言ってみたり、自分でやってみせたり、例え話を用いて説明してみたりしながら、どうにかこうにかスタッフを指導している次第である。自分でやってみせるというのは非常に効果があると思うが、効果の範囲が自分の目の届く範囲に限られやすいのが難点だ。例え話も有効だが、そうそういつも都合の良い例え話を思いつけるわけではない。いずれじっくり取組んで、解決したい問題だ。

 以上で、「中国発5S活動記録 -第三部-」は終わりである。第二部の頃に比べると、電脳部内の5S活動は大分広がっている。リーダ格のC君がっ形だけでも「5Sが○×△だから・・・」と部下のスタッフに言ってくれるようになったのも嬉しい。まだまだ、整理・整頓の2S活動でやることが残されているが、5S活動の全体像がぼんやりと見えるようになってきた。少し時間がかかるが、当面は5S活動を含んだ業務マニュアルの作成にトライしてみたい。その先に新しい何かがあるのではないかと期待している。